再発見されたオキシトシンの作用

ボウルビィは愛着を、単なる心理学的な結びつきというよりも、生物学的な仕組みだと考えた。

しかし、その仕組みがどのような生理学的なメカニズムによって支えられているのかが知られるようになったのは、かなり最近のことである。

1979年、オキシトシンの脳内への投与が母性的行動を活発化したという報告がなされた。

オキシトシンが育児に関与することを報告した最初の論文である。

オキシトシンは授乳や陣痛を引き起こすホルモンとして知られていたが、育児そのものにも関与することが示されたのである。

だが、愛着へのオキシトシンの関与は、まだ明確ではなかった。

驚くべき研究結果が発表されたのは1995年のことである。

プレーリーハタネズミという種は、一度セックスするとつがいとなり、生涯添い遂げることで知られている。

このハタネズミに、オキシトシンの働きを阻害する薬物を注射したところ、セックスしてもつがいとはならず、他の相手を求めようとしたのである。

その後の研究で、霊長類の種でもカップルに同様の薬を投与しておくと、浮気をして新しい恋に夢中になりやすかった。

オキシトシンは育児や母性的行動だけでなく、絆の維持そのものに不可欠な働きをしていることがわかってきたのである。

同時にこれらの研究は、多くの人(ことに女性)がセックスした相手に対して愛着を感じ、ずっと一緒にいたいと思うようになる理由を解き明かしてくれている。

つまり、セックスのときにオキシトシンが活発に分泌されるのだが、脳がオキシトシンを浴びているときに一緒にいた人に、人は特別な愛着を覚えるようになるということだ。

その後、オキシトシンの働きは愛着を支えているだけでなく、愛着行動によってオキシトシンの分泌が起きることで、ストレスや不安から身を守ってくれる仕組みも備わっていたのである。

愛着する対象に接近し甘えることが、安全基地として機能するわけが、生理的なメカニズムからも理解できるようになったのである。

オキシトシンの働きを高める

近年、オキシトシンへの関心が爆発的に高まっているが、それをさらに後押ししたのが、オキシトシン系の機能不全が一部の自閉症に関与するという報告がなされたことである。

オキシトシンの投与の効果については、一時的なものにとどまるという見方もあるが、オキシトシンの働きを高めるような取り組みは、もっと持続的な効果を生む可能性がある。

とりもなおさず、それは愛着を安定化するということであり、だとすると、愛着の安定は、自閉症の改善にさえ寄与すると考えられる。

実際、幼い頃自閉症と診断されたものの、成長するにつれ、診断が外れてしまうまでに回復したケースでは、例外なく愛着が安定しており、親や関係者が安全基地となって本人の成長を支えている。

安定した愛着の特徴としてフォギナーが重視したメンタライジングの働きは、自閉症の人で特異的に障害される機能といわれてきた。

しかし一部のケースでは、安定した愛着関係に恵まれることで、メンタライジングの機能も回復を遂げるのである。

もちろん、遺伝子レベルの脆弱性があるため、完全に治癒するというわけではないが、社会生活に支障がないレベルまで回復することが可能なのである。

オキシトシンの投与は、自閉症の他にも、うつや不安障害、依存症、過食症などで効果が認められたと報告されている。

病名に関係なく、このように広範囲な疾患にオキシトシンの効果が認められるのは、オキシトシンのもつ抗ストレス作用という癒しの効果によると同時に、疾患名に関係なく、愛着システムの問題が幅広く関与しているためだと考えられる。

しかし、薬物での投与は、内因性のオキシトシンの分泌をかえって低下させてしまう恐れもあり、また効果の持続性にも課題が推測される。

むしろ、内因性のオキシトシンの働きを高めるような取り組み、つまり愛着自体を活性化し、安定的なものにするケアや治療が望まれることになる。

※参考文献:愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる 岡田尊司著