診断力のもつ力―「困った人」から共感と配慮へ

たとえば、いつもは元気で、優しく、責任感の強い人が、活気なく、無愛想で、やるべきことも怠っているとする。

もしその人が、「うつ病」だと知れば、周囲の人は、「これまで頑張り過ぎたのだ」と思い、その人に対して優しい気持ちになるだろう。

つまり「病気に罹っている」と理解することで、その人が普段とは違う弱った状態にあるのだと受け止めることができ、それによって寛大で思いやりのある対応を引き出すことにつながる。

それまで「怠け」だと思って厳しい目を向けていた場合でも、その人が「病気」だと診断されると、責める気持ちはなくなり、その人の状態を配慮した対応に変わりやすい。

医学的な診断は、治療の方針を決めるという目的以外にも、本人への共感的な理解を促し、負担やプレッシャーを減らすという効能があるわけだ。

発達障害のケースでも、しばしばそうしたことが起きる。

頓珍漢な発言やマイペースな行動は周囲を苛立たせてしまいがちだが、「発達障害」として診断されることで、本人にはどうしようもない特性で、本人自身も困っているのだと理解でき、仕方がないかと受け入れる気持ちになれることも多い。

つまり、医学モデルをうまく使えば、周囲の理解や受容を高めていくことができる。

それによって、本人の課題はとくに改善したわけではないのだが、本人と周囲との関係が改善することで、状況が劇的に良くなることも少なくない。

境界性パーソナリティ障害の場合にも、同じことが言える。

リストカットをしたりして周囲を振り回してしまうため、親や周囲は「困った人」とみなしてしまうことも多い。

それによって、周囲の否定的な対応が強まり、本人はわかってもらえないと感じ、ますます不安定になっていく。

このとき、医師が「境界性パーソナル障害だ」という診断をおこない、「本人は周囲を振り回そうとしてそういった行動をしているのではなく、強い自己否定に囚われ、自分を傷つけることでしか気持ちのバランスを保てないのだ」ということを伝えることで、周囲の見方もすこしずつ変わっていく。

理解されたと感じることで、本人の状態も改善しやすい。

このように、医学モデルには、本人を「病人」として保護する働きもある。

状況に応じて、医学モデルの良い点を活用することも大事である。

だが同時に医学モデルは、便利で強力な説得力をもつがゆえに、安易に拡張し、心理・社会的な問題にまで適用しようとすると、思わぬ落とし穴に陥ることになる。

※参考文献:愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる 岡田尊司著