失調型パーソナリティは、常識とはかけ離れた思い込みや突飛な考えにとらわれ、自分独自の世界に生きているような、マイペースな傾向が強いパーソナリティで、自分から進んで話しかけたりするのだが、話が一方的になってしまったり、自分に関心のある話ばかりをしたりする。

内気で、孤立しやすいところもあるのだが、何かの拍子にしゃべり出すと止まらなくなり、無遠慮に接近してきたりする。

それは相手を利用する意図をもってというよりも、適正な距離感がわからず、相手の戸惑っている反応に気づかないためである。

積極的にかかわりを持とうとしても、協調性や共感性の面が弱いため、周囲とずれてしまう。

自閉症スペクトラム症(ASD)には、消極的で、人とのかかわりを持とうとしないタイプが多く、シゾイドパーソナリティを呈しやすいが、積極奇異型と呼ばれるタイプでは、むしろ積極的に人ともかかわろうとし、その結果、かえって摩擦を引き起こしてしまう。

失調型は、そうしたタイプと重なるところが多い。

幼い頃、人見知りがなかったとか、人懐っこくて、誰にでもすぐ話しかけたり、突拍子もない質問をしたということがしばしばみられる。

図々しく話しかけてきたり、いきなり聞きにくいことを聞いてきたりするのも特徴だ。

相手は非常識さに呆れたり、衝撃を受けたりするのだが、当人はまるで悪意なく、ただ疑問に思ったことを聞いているだけという意味しかない。

人付き合いでつまずいたニーチェ

失調型の人には、しばしばインスピレーション豊かな天才肌の人がいる。

頭が良すぎると、足下が危うくなりやすいが、哲学者のフリードリッヒ・ニーチェも、そうした一人であった。

現実生活や社交の面での不器用さが、生きづらさにもつながり、25歳という若さで教授になったにもかかわらず、その職を去らざるを得ない羽目になった。

教授という仕事には、それなりの社会的地位が伴い、学生に教える以外にも、周囲の期待に応えて、そつなく交流するという役割も求められたのである。

前者については、ニーチェはうまくこなすことができた。

学生たちの評判は上々で、ニーチェの信奉者となる学生も何人か現れた。

ニーチェにとって、どうにも厄介きわまりなかったのは、同僚や町の名士、その令夫人や令嬢との社交であった。

若き天才学者に対して、周囲の期待は大きなものだった。

それにニーチェは独身の男性である。

近眼がひどかったものの、風采や顔立ちは悪くなく、音楽的な才能にも恵まれていた。

妙齢の女性にとっては、魅力的な花嫁候補のはずである。

周囲の期待に応えようと、ニーチェも、それなりに努力したのだが、頑張れば頑張るほど、その奇妙さや非常識ぶりが目立って、周囲を呆れさせることになった。

少女のように繊細で、おどおどしているかと思うと、急に口を開くと、場違いな発言ばかりしてしまうのだ。

あるとき、年頃の女性がパーティで隣に座った。

ニーチェは、場を盛り上げようとしてか、自分の見た夢の話をした。

その夢というのは、自分の手の皮膚が透明になり骨や組織がはっきりと見えたというもので、それだけでも、相手はあっけにとられているのに、さらにニーチェは付け加えた。

「見ると膝の上にまるまると太ったヒキガエルが座っていて、そのヒキガエルを食べたいという衝動を我慢できなくなって、飲み込んでしまったのです」と。

それを聞いた女性は、どう反応していいかわからず、笑うほかなかったが、ニーチェは、女性が笑ったことに気分を害したのか、「あなたはお笑いになるのですか」と、真面目な顔で言ったという。

ニーチェが抱えていた困難は、失調型パーソナリティやアスペルガー・タイプと呼ばれるASDの人にしばしば伴うもので、相手の視点で物事をみることができないということである。

自分の視点や自分の世界に没入して、相手の立場でどう感じられるのかまで、想像が及ばないのだ。

パーティのディナーの席で、そんな話を聞かされて、相手がぞっとしているということにも思い当たらない。

バーゼルというスイスの小都市のことである。

そういうことが重なれば、ニーチェの評判が次第に悪くなってしまうことは、避けられなかった。

曖昧な言い方が通用しない

対人距離も不安定で、神経質で、内気な人かと思っていると、いきなり内面的なことを語り出したり、踏み込んだ質問をしてきたりする。

ニーチェは、あるとき、知り合ったばかりの女性にプロポーズしたことがあった。

意気投合して会話が盛り上がったことを、すっかり親密になったと錯覚してしまったのだ。

このタイプの人は、世間一般の価値観からすると、非常識な人でしかなく、そのユニークさやインスピレーションの豊かさを評価されるよりも、変な人だと陰口を叩かれ、つまはじきにされてしまいやすい。

しかし、このタイプの人は、実は最もクリエイティブな才能や知識を備えているのだ。

常識的な観点で評価したのでは、このタイプの人の本当の素晴らしさはわからないし、そこから学ぶせっかくの機会も失われてしまう。

たとえ急接近してきたとしても、利己的に相手を利用するタイプではないので、概してリスクも低いと言える。

ただ、恋愛が絡んだりすると、自分勝手な妄想を膨らませることもあるので、その気がないときは、それを相手にわかるように、はっきり伝えた方が無難だろう。

相手を傷つけてはいけないと配慮して、曖昧な返事しかしないでいると、都合のいい妄想が膨らみ、かえって危険な場合もある。

明確に伝えることが、ある意味親切なのである。

※参考文献:対人距離がわからない―どうしてあの人はうまくいくのか― 岡田尊司著