人にはそれぞれほどよい対人距離がある

対人関係は難しい。

学校や職場に行きたくなくなるのも、人生でつまずくのも、その原因は、十中八九対人関係である。

どんなに能力があって、どんなに努力していても、対人関係がうまくいかないと、日々の暮らしはつらいものになるし、ましてや毎日顔を合わせるパートナーや同僚との関係がとげとげしいものになってしまうと、生きていくのもつらくなる。

対人関係にはさまざまな要素があるのはいうまでもないが、そこで重要になるのは、ほどよさというものである。

ほどよさは、相手によってそれぞれ基準が違ってる。

そこが難しいところだ。

自分にとってほどよいだけでは、うまくいかないのである。

相手と自分との間のほどよい関係というものを、探っていかなければならない。

その場合に、ほどよい関係の鍵にもなり、良い指標ともなるのが、対人距離である。

対人距離とは、物理的な距離であるとともに心理的な距離でもある。

その人その人で、ほどよいと感じる対人距離は異なり、相手と良い関係を保つためには、相手が好む対人距離をある程度尊重することが求められる。

そこには、相手がからんでくるのだ。

したがって、自分が好む対人距離と、相手が快適に感じる対人距離の両方を頭において、動いていく必要がある。

親しくなりたいと思って同じアプローチをしても、相手が好感をもつ場合もあれば、強い拒否に遭う場合もある。

対人距離の取り方を間違えると、永久に嫌われるということも起きる。

ほどよい対人距離がとれない人

その場にふさわしい、あるいは、相手にとって心地よく対人距離を適切にとることができることは、重要な社会的スキルだと言えるだろう。

ほどよい対人距離がとれないことは、非常識な振る舞いや周囲から浮いてしまうことにもつながり、また親密な関係を築いていくことの阻害要因にもなってします。

対人距離がうまくとれないという場合には、その点を自覚して、陥りやすい落とし穴や失敗を避けることが求められるだろう。

ご自身にそうした問題がなくても、周囲には必ずそうした課題を抱えた人がいるものである。

巻き込まれて、思いがけない”事故”に遭わないためにも、相手の特性や、それに伴うリスクを知り、上手な対処ができる術を心得ておくことは、プライベートでもビジネスでも、大いに役立つだろう。

能力以上の成功を収める人がもつ、親密さを操る能力

ほどよい距離を保つことは、リスクを避ける安全な生き方だと言えるが、それだけでは、成功や幸福が手に入らないということも多い。

有力なコネクションを開拓するにも、意中の人と親密になり、パートナーにするにも、安全な距離をとっているだけでは何も始まらない。

その人自身は、それほど能力や長所に恵まれているというわけでもないのに、大いに活躍していたり、面白おかしく、何不自由のない暮らしをしているかと思えば、優れた能力や美質を備え、よく努力しているのに、成功から見放されていたり、他人の尻ぬぐいや損な役回りばかりして、ちっとも幸福でない人もいる。

どういう特性が、そうした差を生んでしまうのだろうか。

社会適応にもっともマイナスの相関が強いのは、回避性パーソナリティの傾向であり、それに孤独を好むシゾイドパーソナリティが続く。

回避性は、傷つくことを避けるために、親密な関係も避けてしまうタイプである。

シゾイドは、孤独を好むタイプである。

どちらも社会的適応にマイナスであるのは、当然予想されることだと言える。

一方、社会適応にプラスの相関がもっとも強かったのが、演技性パーソナリティである。

演技性とは、周りから注目や関心を惹こうとする傾向で、演技性パーソナリティの人は、芝居がかったパフォーマンスや嘘が上手な傾向が見られる。

次いで自信過剰で自己顕示欲求や自己中心性の強い傾向である自己愛性、きまじめで責任感の強い強迫性、倫理観が乏しく、冷酷に他人を利用する反社会性などの各パーソナリティで、プラスの相関が認められている。

親や教師が、子どもに一生懸命身につけさせようと指導するのは、真面目な努力や責任感が大切だということではないだろうか。

だが、現実には、社会でうまくやれるためには、真面目な努力や責任感も大切だが、それ以上に、芝居がかった演技をしたり、巧みな嘘をついたりする傾向の方がものを言うだけでなく、自分勝手に他人のことを利用することしか考えていない人の方が、世の中でうまくやっていたりするわけである。

どれくらい幸福と感じているかという幸福度との関係でも、人間嫌いなシゾイドの傾向は、マイナスの相関がもっとも強い一方で、プラスの相関がもっとも強いのが、強迫性と並んで演技性であった。

生真面目に、道徳的に生きることは長生きともっとも関係が深いパーソナリティの特性だとする研究もあるが、強迫性は、幸福にも寄与するようだ。

だが、それと同じくらい、周囲の関心を引き寄せて、人気者でいる生き方は、幸福を手に入れやすいということになろう。

生真面目な生き方と、人気取りの生き方は、対照的な二つの人生戦略だとも言えるが、どちらも幸福になるために有効な戦略なのである。

これまで多くの幸福論は、欲望や刺激に身をやつすのではなく、心の平安や穏やかな秩序にこそ、幸福があると説く傾向にあったが、実は、哲学者や宗教家たちが、夢にも思わなかった、幸福やその源泉である愛情を手に入れる方法が、現実には使われているのだ。

その一つが、周囲の関心や注目を自分に惹きつけるという演技性戦略なのである。

実力と努力を兼ね備え、しかも良識的な人たちには、強迫性パーソナリティに代表されるような、真面目で、責任感に満ちた生き方を追求し、それで成功や幸福を手に入れようとするのが、手堅い方法だと言えるだろう。

しかし、この世は、もう少し複雑で、真面目や責任感という正攻法の生き方だけが成功や幸福に至る道ではない。

能力も努力も不足していても、自分よりも能力や財力をもっている人に近づいていって、搦め手から攻め落とし、欲しいものを手に入れるという道もあるのだ。

実力や努力以上の成功を収め、楽をして幸福な人生を手に入れている人たちは、大抵そうした方法をうまく活用しているのだ。

対人距離を縮め、相手を味方につける技術

もっとも社会的に苦戦しやすい回避性やシゾイドの人に欠けていて、もっとも良い適応を示す演技性の人たちにたっぷり備わっているものは何かと言えば、相手の関心を惹き、対人距離を縮め、親密な関係を作っていく能力である。

するりと相手の懐に入り込み、心を乗っ取ってしまう技術である。

人一人の能力など、たかがしれている。

自分の能力と努力だけを頼みとして、生き抜いていこうとすることも、悪くはないだろうが、あまり賢明な策とは言えないかもしれない。

それよりは、優れた人を大勢味方にし、助けてもらった方が、はるかに効率よく目的を達成できる。

対人距離を縮め、親密な関係を築くことに長けている人たちが、無意識に行っていることを学び、演技性のスキルの秘密を知ることは、今日の社会では、とりわけ求められるだろうし、もう少し器用にいきていくうえで欠かせない要素となるだろう。

親密さのマジックに幻惑されないために

その一方で、親密さのマジックを操る輩の術中に落ちないように免疫を持つことも、自身の人生や財産を守るためには必要になってくる。

社会で巧みに世渡りしている人たちが、演技性だけでなく、自己愛性や反社会性の特性をもち、他者を自分勝手に利用することに長けているという現実を考えるならば、相手が巧みに出演してくる技に、ただ意表をつかれ、心を動かし、喝采を送っているばかりでは、いい餌食にされるだけかもしれない。

また、対人距離を縮めることが苦手なタイプの人は、その人たちなりの方法で、わが身を守り、自分たちに合った社会適応と幸福を見つけ出すことが必要になる。

成功や幸福の形は、一つではない。

社会的スキルが高い人と同じ幸福を求めようとすると分が悪いが、自分たちのスタイルに合った範囲で、幅を広げることは、人生のポテンシャルを高めることにもつながるだろう。

ここで、あなたやあなたの身近な方のパーソナリティのタイプを知っておいた方がいっそう理解を深められるでしょう。

そのため十のパーソナリティ・タイプについて、簡単にその特徴をまとめておきたい。

パーソナリティ・タイプと特徴

ここで用いられる分類は、アメリカ精神医学会の診断基準DSM-Ⅳ(DSM-5もそのまま踏襲)に基づくものであるが、各タイプの偏りのために、社会生活や家庭生活に著しく支障が出ている場合に、「パーソナリティ障害」として扱われる。

ここでは、それほど重度でないケースも含めて、そうした傾向をもつタイプとして扱うため、「障害」という言い方はしない。

遠い対人距離を好むタイプ

回避性パーソナリティ

傷つくことや失敗を恐れ、一歩踏み出せないタイプで、親密な関係になったり、チャレンジをしたり、責任が増えたりすることが、とても負担に思えて、避けてしまう。

対人距離は、当然遠くなりがちだ。

妄想性パーソナリティ

人を信じることができず、猜疑心が強いタイプで、パートナーや家族に対しても、裏切られているという疑念を抱く。

個人情報を知られることに過度に敏感で、たわいもない質問にも、警戒してしまう。

シゾイドパーソナリティ

孤独を好み、他人と何かをすることに興味や喜びが乏しい。

喜怒哀楽に乏しく、表情や反応にも欠ける。

こちらが接近していかない限り、向こうから接近してくることはないので、何年たっても距離が縮まらないのが普通だ。

単調な生活をあまり苦痛と感じず、自分の興味のあることには、地道な努力を続けることもある。

自分だけの世界にこもって、遁世したように暮らすことを理想とする。

シゾイドパーソナリティは、自閉スペクトラム症(ASD)との関連が大きいとされ、その中でも、消極的なタイプが移行したものと考えられる。

失調型パーソナリティ

常識にとらわれない発想やクリエイティブなインスピレーション、霊感が豊かであるが、ときに非常識の度が過ぎて、変人とみなされる。

シゾイドと似てマイペースを好むが、シゾイドよりは人との関係を求め、そのユニークな才能を生かして、活躍することもある。

こちらは、自閉スペクトラム症の中でも、積極奇異型と呼ばれるタイプと重なり合うと考えられる。

強迫性パーソナリティ

真面目で、倫理観や責任感が強く、決まった通りにするのを好む。

実直だが、融通が利かないところがある。

勤勉な努力家で、どんなことも頑張ることで乗り越えようとする。

つい頑張り過ぎて、過労になりやすい。

形式張っている分だけ、対人距離は縮まりにくいが、律儀に信頼関係を大切にするので、親密な間柄になることもできる。

その意味で、対人距離は中間的だと言える。

近い対人距離を好むタイプ

演技性パーソナリティ

芝居がかった振る舞いや性的な魅力によって、注目や関心を惹きつけようとするタイプで、人目を惹く格好をしたり、本当のような嘘をついたり、悲劇のヒロインに自分を仕立て上げたりすることもある。

対人距離が過度に近く、初対面なのに、馴れ馴れしく接近してきたり、ボディ・コンタクトをとろうとしたりする。

依存性パーソナリティ

自分一人では生きていけないように思い、相手の機嫌を損ねまいとして、過度に気を遣う。

無理な頼み事にも「いや」と言えず、つい応じてしまう。

重要な決断をしたりするときも、すぐに誰かを頼ってしまい、決めるのが苦手である。

信じるものが必要で、宗教やネズミ講にはまりやすい。

演技性ほどではないが、対人距離がやや近くなりやすい。

境界性パーソナリティ

自己否定と自己破壊的な行動を特徴とするタイプで、リストカットなどの自傷、オーバードーズ(薬物の過剰摂取)、自殺企図が繰り返されることもある。

また見捨てられることに対する不安が強く、親密な関係になると、かえって不安定になってしまう。

急に落ち込んだり、激しい怒りにとらわれて、大切なはずの存在に攻撃を向けてしまうことも多い。

対人距離は不安定で、急速に接近したり、急に離れたりする。

自己愛性パーソナリティ

高いプライドや過剰な自信、誇大な理想を特徴とするタイプで、自分を神のように重要な存在だと思っている。

間違いを指摘されたりして、プライドを少しでも傷つけられようものなら、激しい怒りにとらわれる。

思いやりが乏しく、自分に都合よく相手を利用するところもある。

自分の都合次第で、接近してくる。

反社会性パーソナリティ

道徳的な規範の乏しさや他人を冷酷に搾取する傾向を特徴とするタイプである。

共感性が乏しい傾向や、スリルを好み、危険に対して鈍感な傾向がみられる。

下心をもって、馴れ馴れしく接近してくる場合がある。

かつて、「サイコパス」という用語が用いられたことがあるが、差別的な用語であるため、現在は精神医学では用いられなくなっている。

※参考文献:対人距離がわからない―どうしてあの人はうまくいくのか― 岡田尊司著