エリク・エリクソンの場合、ジョアンナ・サーソンとの結婚は、今で言う「できちゃった婚」であった。

ジョアンナから妊娠を告げられたとき、エリクはまさに青天の霹靂で、すっかり尻込みしてしまった。

結婚などまったく考えておらず、ましてや自分が父親になることなど、夢にも思っていなかったのだ。

アイデンティティの生みの親も、そのころはまだ自らのアイデンティティを確立できておらず、児童分析の仕事を始めてはいたものの、果たしてそれでずっとやっていけるのか、まったく雲をつかむ思いだった。

それ以上に、自分の生い立ちや親との関係にも未解決の課題を山ほど抱えて、あっぷあっぷの状態だった。

赤ん坊の世話などしている場合ではないというのが、正直なところだったのだ。

そんなエリクを説得したのは、彼の友人だった。

このままでは、ジョアンナの子どもは私生児になってしまう。

それは、君が味わってきた悲しい思いを、子どもにも繰り返させることではないかと。

逃げずに、その子どもを、その運命から救ってはどうかと。

そう言われて、エリクは、ようやく覚悟を決めたのだ。

結果的に、ジョアンナと結婚し家庭をもったことは、エリクに大きな幸福と安定をもたらした。

彼女は子どもたちの世話とともに、「一番手のかかる子ども」である夫の世話をし、原稿を読み、的確な助言をして、夫を支えたのである。

ジョアンナの献身には、ある意味、不安型愛着を抱えた女性による”強迫的世話”の側面があったかもしれない。

ジョアンナもまた、母親とはうまくいかず、不安定なものを抱え続けていたのだ。

しかし、ジョアンナの献身によって、エリクの委縮した自己愛は回復し、自信をもって社会で活躍することが可能になった。

こうしてエリクの愛着の傷は癒され、仕事に邁進することができるとともに、やがて親との関係も改善していくことになる。

一方のジョアンナも、自分の家族という新しい愛着対象を手に入れ、それに献身することで、自らの安定を手にいれていった。

※参考文献:回避性愛着障害 絆が稀薄な人たち 岡田尊司著