愛着を支える生物学的仕組み「オキシトシン」

ここ数十年、愛着というものが軽視されてきたのは、それがいわば動物的で原始的な感情であり、栄養や教育、経済的豊かさといった近代的な課題に比べれば、単なる心理的な問題で、大して重要でないと考えられた為であった。

すなわち、人類が野蛮な状態から文明化し、さらに進歩していく上で、乗り越えなければならない過去の遺物、尻尾の名残を示す尾骨のようなもので、いずれはなくてもすまされる程度のものとみなされたのである。

ところが、その考えはまったく事実を見誤っていた。

愛着は、単なる心理的な問題などではなく、生存を支える生物学的な仕組みとして不可欠な役割を担っていたのである。

愛着を疎かにすればいくら豊かになろうと幸福を感じることを困難にし、そのことが͡個の生存を脅かすことにつながる。

そればかりか、夫婦関係や子育てに支障を来すことで、人類という種の生存さえも脅かしかねない問題であることが明らかとなってきたのである。

このことを理解するためには、愛着を支える生物学的な仕組みについてみていかねばならない。

愛着という現象は、オキシトシンとアルギニン・バソプレシンと呼ばれるホルモンの働きによって支えられている。

オキシトシンは、特に女性において重要であり、アルギニン・バソプレシンは、特に男性において大切な役割を果たしている。

ただ男女ともに、どちらのホルモンも存在し、補い合う関係にある。

かつて、オキシトシンは、乳汁分泌や分娩に関与する原始的なホルモンと考えられてきた。

ところが、二十世紀も終わりごろになって、子育てやパートナーとのきずなにも関係することが動物での研究からわかってきたのである。

オキシトシンの働きを阻害する薬品を動物に注射すると、親は子育てに無関心になる。

つがいが生涯添い遂げることで知られるオシドリも、平気で浮気をするようになり、夫婦関係は崩壊してしまう。

オキシトシンが働かなくなっただけで、このありさまである。

またオキシトシンは、夫婦関係や子育てだけでなく、社会性全般にも作用していることがわかってきた。

オキシトシンの働きが活発だと、その人は対人関係で積極的になるだけでなく、人に対して優しく、寛容で、共感的になりやすい。

逆にオキシトシンの働きが悪いと、人に馴染みにくく、孤立的にふるまうようになり、また過度に厳格になったり、極端な反応をしやすくなる。

オキシトシンは不安やストレスを減らす

オキシトシンには、他にも重要な働きがある。

それは、ストレスや不安を抑える効果である。

オキシトシンの働きがよい人は、不安やストレスを感じにくく、うつやストレスに関連した病気にかかりにくい。

オキシトシンの働きには、大きな個人差があり、それがストレス耐性の違いともなる。

では、オキシトシンの働きの違いは、何によって決まるのだろうか。

実は、その最大の要因は、幼いころに安心できる養育環境で育ったかどうかということなのである。

安心できる環境で育った人は、脳内にオキシトシン受容体が増え、オキシトシンがスムーズに作用するので、その働きがよい。

ところが、虐待されたり、ネグレクト(育児放棄)を受けたりした子どもでは、オキシトシン受容体が脳内にあまり増えないため、オキシトシンの働きが悪く、ストレスに敏感になってしまう。

恵まれない境遇で育った子どもが、成長した後、社会性や対人関係の維持、子育てにおいて困難を抱えやすいのも、単なる心理的な影響ではなく、オキシトシンなどのホルモンからなる生物学的な仕組みが、うまく機能しなくなることが原因だったのである。

愛着崩壊と回避型愛着が、生物学的にどういう状態にいきつくのかを考える上で、示唆に富む例がある。

それは、アメリカのハタネズミを調べた研究である。

ハタネズミには、草原に住むプレーリーハタネズミや、標高の高い山地に住むサンガクハタネズミなどがいる。

このプレーリーハタネズミとサンガクハタネズミは近縁の種でありながら、まったく異なるライフスタイルをもつ。

プレーリーハタネズミは、つがいを形成し、大家族で一緒に暮らす。

つがいの関係は、どちらかが死んでしまうまで生涯続く。

母と子の結びつきも強く、少しでも母ネズミから離されると、仔ネズミは激しく鳴き叫ぶ。

一方、サンガクハタネズミは、一匹で暮らす。

発情期になると異性を求め交尾するが、セックスだけの関係であり、ことが終わると、もう出会うこともない。

母親は一匹で子どもを育てるが、子育てが終わると、子どもは巣から追い出され、その後は他人どうしとして暮らす。

子育て中も母親との結びつきはあっさりとしていて、母親から離されても無関心で鳴きもしない。

こうした反応は、回避型愛着スタイルの子どもによく似ている。

二つの近縁種が、どうしてこれほど異なるライフスタイルをもつのかと言えば、実は、オキシトシン・システムの些細な違いによる。

プレーリーハタネズミは、オキシトシン受容体が脳に豊富に存在するだけでなく、線条体と呼ばれる快楽中枢にも、オキシトシン受容体が多く存在する。

それに対してサンガクハタネズミは、オキシトシン受容体が少なめで、かつ線条体にはほとんど存在しない。

オキシトシンが分泌されたとき、プレーリーハタネズミには、歓びという報酬がもたらされ、それがパートナーや子どもとの関係を維持するのを助けるが、サンガクハタネズミの場合、不安は軽減されても、歓びまではもたらされないので、パートナーや子どもと一緒に居続けることが積極的には求められないのである。

そのわずかな違いによって、プレーリーハタネズミは、愛着が強く、関係が半永久的に維持する生き方をし、サンガクハタネズミは、愛着が稀薄で、関係もそのときしか維持されない生き方をする。

誰に対しても愛着が生まれにく回避型愛着スタイルの人は、サンガクハタネズミの生き方に近いと言えるだろう。

※参考文献:回避性愛着障害 絆が稀薄な人たち 岡田尊司著

 

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