愛着の研究は、そもそもが子どもの問題から始まったように、その主要な関心は乳幼児の段階の子どもとその母親に注がれてきた。

エインワースの業績も、幼い子どもと母親を対象としたものであり、愛着パターンの分類も、もともとは一歳児を対象にしたものであった。

しかし、子どもはやがて大人になる。

その先はいったいどうなるのだろうかという疑問が当然湧く。

子どもが異なる愛着パターンをもつのならば、その母親や父親も、異なる愛着のパターンをもっているのではないのか。

その影響は、どうなるのかという疑問も湧いてくる。

そのテーマの解明に最も貢献した一人が、エインワースの教え子であったメアリー・メインである。

メインは、一歳の段階と六歳の段階で、愛着の安定性を評価する検査をおこなった。

さらにその両親にも、愛着のタイプを評価するための検査を受けてもらい、それらの関連性を調べたのである。

メインの試みの画期的な点は、愛着タイプを評価する方法にもあった。

一歳児の評価には、エインワースと同じストレンジ・シチュエーション・テストが用いられたが、六歳のときの検査では、ある家族が別れる場面を写した写真を用いて、それについて語ってもらうという方法でおこなわれた。

その結果わかったことは、直接の別れというシチュエーションを設定しなくても、被験者が語る言葉や反応から、十分に愛着のタイプを見分けることができるということだった。

安定型の子は、家族が別れることに、寂しいだろうと共感を示しつつ、強く動揺することはなかった。

回避型の子は、「知らない」など、何も感じないという反応をする。

両価型の子は、追いかけるなど過剰にしがみつく反応について語るかと思えば、去っていく親をやっつけると言ったりする。

無秩序型では、「逃げる」とか「隠れる」とかという表現が飛び出し、愛着する対象が同時に恐怖の対象でもあることが示される。

さらに、親の愛着タイプを特定するために、メインは「成人愛着面接(AAI)」という方法を作った。

親との関係について、思い浮かぶ形容詞を五つ語ってもらい、その一つ一つについて、関連するエピソードを話してもらうなど、親との思い出を、質問に沿って話してもらう。

親について肯定的に語るか、否定的に語るかだけでなく、具体的なエピソードを思い出せるか、また、どれくらいまとまった話をすることができるかといった点に注目して、その語りを聞くことで、その人の愛着の安定性やタイプを、非常に正確に把握することができることをメインは明らかにした。

安定型の人では、人生の事実に対する受け止め方が、実際に恵まれた幸福なものであるかどうかにかかわらず肯定的で、また豊かな思い出を、整然としたまとまりをもって語ることができた。

愛着軽視型(回避型に相当)の人では、親について、問題がない良い親だったと語ったりする場合でも、具体的なエピソードに欠け、子ども時代のことを想起することが困難なことが多かった。

過去の事実に向かい合わず、思考からシャットアウトすることで、心の平安を保ってきた結果だと考えられる。

したがって、カウンセリングなどで想起が進むと、否定的なエピソードが思い出されるようになるが、それに伴って、感情表現や自己感覚を取り戻していくことが多い。

とらわれ方(子どもの両価型に相当)の人では、過去の愛着関係にとらわれており、怒りの感情が強い。

親に対するネガティブな気持ちに押し流され、混乱したり、話が延々と続いたりする。

未解決型(子どもの無秩序型<混乱型>に相当)と呼ばれるタイプでは、他のことでは平静に語ることができていたのに、愛着障害となっている出来事に触れたとたん、話が混乱し、客観性が失われ、主観的な思い込みや感情の渦に飲み込まれてしまう。

まったくその人自身には原因がないのに、「親の死は自分のせいだ」と言い出したりするのが典型的だ。

その人の体に年輪のように刻まれた愛着パターンは、直接、体験的事実を知ることができなくても、またその人の現実の対人関係をつぶさに観察しなくても、その人の語りを通して高い確度で知ることができるということを、メインは裏付けたのである。

その後の研究で、成人に見られる愛着パターンは、幼い頃に認められた愛着パターンと高い連動性があり、生涯にわたって維持されることが多く、「愛着スタイル」と呼ばれるようになった。

愛着タイプの世代間伝播

メインはこうした方法を用いて、四十の家族において子どもと両親の愛着タイプを調べたのである。

その結果は、驚くべきものであった。

一歳のときと六歳のときの子どもの愛着タイプが、多くのケースで一致していただけでなく、母親の愛着タイプとも、かなりの割合で一致していたのである。

一方、父親の愛着タイプは、それほど強い関連を示さなかった。

つまり、子どもの愛着タイプを見れば、母親の愛着タイプもおおむね予想することができたのである。

とくに安定型か不安定型かという点では、高い確率で一致した。

言い換えると、安定型の母親の子どもは、安定型に育ちやすく、愛着軽視型の母親の子どもは、回避型に、とらわれ型の母親の子どもは、両価型を示しやすかったのだ。

この実験結果や、その後繰り返しおこなわれた多くの追試、さらに、長期にわたる研究の結果、安定型の一歳児は、安定型の成人になりやすいだけでなく、母親となって子どもをもったときに、安定型の子どもを育てやすいということが示されたのである。

そして逆もまた真なりだった。

このことは、愛着の安定性やタイプが、その人一代の問題にとどまらず、子や孫にも伝播しやすいという事実を示唆している。

虐待が連鎖しやすいことや、同じような不幸が一つの家系に繰り返されやすいという経験的な事実は、不安定な愛着が世代を超えて伝播しやすいという特性によって、ある程度説明できるだろう。

ただ同時に、そうした過酷な背景を抱えていても、不幸な連鎖を免れ、安定した愛着を示すようになる人もいる。

そうしたケースでは、いったい何が起きているのだろうか。

この問いは、「愛着障害の克服」というテーマにおいても、非常に重要な論点である。

メアリー・メインは、安定型と不安定型の子どもや大人が示す語りについて、重要な特性の違いを見出している。

※参考文献:愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる 岡田尊司著