メインのアイデアをさらに推し進め、独自の心理療法を生み出すにいたったのが、イギリスの精神分析医ピーター・フォギナーである。

フォギナーによると、人間の体験の仕方には、三つの様式があるという。

一番目は、「心的等価の様式」である。

その状態では、自分が感じていることや考えていることと、外的な事実は、区別されない。

自分が主観的に感じていることが、そのまま客観的な事実なのである。

ひどいことをされたと感じたら、それがその人にとっての現実なのである。

二番目は「真似事の様式」と呼ばれるもので、そこで言ったり考えたりすることは、現実から切り離された空想や戯れや作り事の世界であり、外的な現実とは無関係に、自分の思い通りの現実を想像し、体験することができる。

だが、あくまでそれは、外の現実と向き合うことを避ける限りで、という条件付きである。

そして三番目が「メンタライジング、または振り返りの様式」である。

メンタライジング(メンタリゼーションともいう)とは、「心」というものを想定することで、相手の行動を理解する能力のことである。

この能力を高めることによって、人は自分を振り返るだけでなく、相手の気持ちや全体の状況を考え、より高い視点を手に入れることができる。

つまり、振り返る能力には、「共感能力」や「洞察能力」も含まれる。

振り返る能力が高い人では、実際に起きた出来事と、自分の感情や推測といった二次的な反応とを区別することもできる。

それによって、事実そのものではない、自分の中に湧き起った感情に押し流されたり、足を取られたりするということが起きにくい。

つまり、主観的な感情に判断を曇らされず、事実だけを客観的に見て、行動することができる。

その結果、墓穴を掘るような過剰反応を避けることができるし、余計なことを言って、傷つけ合うことにもなりにくい。

自分の感情や思い込みに左右されず、有利な行動の選択ができる。

安定型愛着の人で、この振り返りの能力が高いのである。

親が安定型の場合、この「メンタライジング」や「振り返り」の力が高いことにより、子どもの反応に対して高い感受性をもち、子どもの気持ちを汲み取り、今、子どもが求めていることを返してやることができる。

それゆえ、関係も安定しやすいのである。

不安定型の親は、逆にそれが苦手である。

子どもに何も反応を返さなかったり、返しても、自分の気持ちや考えにとらわれた反応になってしまうので、子どもの求めるものとズレるだけでなく、タイミングもずれてしまう。

それが、子どもにとっては、調子外れの楽器をきかされるような、苦痛と苛立ちの原因になる。

安全基地となりにくく、愛着も安定しにくい。

逆境でも不安定になりにくい―「振り返る力」の高い人

もうひとつ注目すべきことは、振り返る能力が高い人は、同じような逆境に遭遇しても、不安定になりにくいということだ。

そして、試練から回復する力も高い。

フォギナーは、こうした振り返る力の重要性に着目し、そこを強化することで、愛着障害を抱えた患者の治療を試みている。

メンタリゼーション・ベースト・トリートメント(MBT)と名づけられた治療法は、境界性パーソナリティ障害などの困難なケースの治療にも効果を認め、今後の発展が期待されている。

MBTには、さまざまな応用の可能性があるが、中でも注目されているものの一つに、スマート(SMART:短期メンタライジング及び関係療法)と呼ばれる、児童・青年を対象にした統合的家族療法がある。

これは従来のシステム家族療法(家族を一つのシステムとして見て、それを動かしていく方法)とは異なり、家族の各メンバーの行動や認知を、過去の体験に遡って理解する取り組みを通して、メンタライジングを高めていこうとする。

これをおこなうことで関係が改善し、子どもの問題も改善に向かうとされる。

なぜなら、問題が起きている家族においては、メンタライジングが弱く、感情ばかりが強いということが一般的に見られるからである。

しかもこの手法で注目されるのは、治療の前提となる考え方である。

それは「家族の問題を長期的に改善するためには『症状』の改善を図ろうとするよりも、愛着関係にかかわる部分で、『症状』に対する対処の仕方を改善していった方が効果的だ」というスタンスである。

この点は、医師が医療少年院での体験から学んだことと大いに一致するといえるだろう。

マインドフルネスや瞑想も、この振り返る力を高める効果がある。

同時に、物事をありのままに受け入れ、それを「どうにかしようとしない」態度を身に付けようとする。

「こうあるべき」ではなく、「これもよし」と考える態度を、体得するのである。

こうした方法も、愛着障害の人が、それを乗り越えていくうえで、一つの有望な手段となり得るだろう。

※参考文献:愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる 岡田尊司著