本人を診なくても改善が図れる
愛着アプローチの驚くべき点は、必ずしも症状を発している本人を診察したり、カウンセリングしたりする必要が無いということだ。
これは医学モデルの常識を超えた点でもある。
医学モデルでは、患者を診察し、診断し、治療するということが、基本中の基本である。
それは、患者の病気が症状を引き起こしているという前提に立つからである。
しかし、親子間や夫婦間の愛着障害の問題が、問題行動や症状につながっているとしたら、医学モデルはかえって問題を見えにくくしてしまう。
親子や夫婦の愛着関係に働きかけ、改善を図った方がうまくいくに違いないし、実際、そうなのである。
両者の関係において支配力を発揮し、問題を生み出す主たる原因となっている人が来てくれた場合には、その人の対応をかえることで劇的に関係改善を図り、愛着の安定化、さらには愛着障害の修復をおこなっていくことができる。
実際に、境界性パーソナリティ障害のケースで見ても、先にも触れたように、本人への直接的な働きかけをおこなうかどうか以上に、母親や配偶者など、本人にとってカギを握る存在への働きかけをどれだけ行ったかが、改善の成否を左右していたのである。
親が子どもの問題で手を焼いて相談にやってきたり、夫婦の一方が、相手の問題で、どうにかならないかと助けを求めてくることも多い。
そうした場合、相談にやってくる人は、子どもや連れ合いの問題にばかり目を注ぎ、そのことしか眼中にない。
しかし、もう少し客観的に見ると、親子の関係や夫婦の関係自体にも問題が起きている。
そして、症状を呈している人の問題と、親子や夫婦の関係の問題がリンクしていることが多い。
そうした場合には、支えている親や配偶者にも、不安定な愛着の問題があり、それが子どもや配偶者の問題行動や症状に繋がっている場合もある。
子どもや配偶者が、純粋に医学的な問題を抱えている場合でも、愛着障害の問題が絡むと、関係がぎくしゃくすることで症状が悪化したり、治療もうまくいかないという事態になっている。
だが相談にやって来た人は、そのことに気づいていない。
「相手の問題」というふうに受け止めている。
そこでいきなり「あなたにも責任がある」などと言っても、とうてい受け入れてもらえないし、助けにもならない。
ここで愛着障害の克服に役立つのが「愛着モデル」である。
子どもや配偶者に起きている問題には、愛着障害が要因として、あるいは悪化因子として絡んでいることを指摘し、そこを改善していくことで、本人の状態を改善することにもつながるということを説明する。
そして愛着が安定するための心構えと具体的なかかわり方をアドバイスする。
そうした働きかけを何度も繰り返し行うことによって、次第に子どもや配偶者に対する接し方が変化し、関係が改善するようになる。
そうすると、不思議なことに、問題行動や症状も改善に向かっていく。
医学モデルでは考えられないような変化を引き起こすこともできるのである。
意外に多いのは、親や子どもと長年断絶状態になっているが、関係を改善したいというケースである。
一方の側としか会えないわけだが、愛着アプローチによりその方の気持ちや心構えに変化を生じさせ、働きかけ方や接し方を変えていくことで、何年も音信が途絶えていたのが、初めて心から打ち解けられるようになるという事も起きるのである。
※参考文献:愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる 岡田尊司著