感覚特性とは何か

精神的な悩みには、さまざまなレベルのものがあるが、人は高尚なことばかりで悩むとは限らない。

痛みや痒みが耐え難い苦痛になることもあれば、音や匂いに敏感なため、外出も仕事も困難になってしまう場合もある。

人生の意味とか、考え方とかに比べると、感覚的な問題は、取るに足りないことのように扱われてきたきらいがある。

ところが近年、人それぞれの感覚の傾向が、その人の生き方や健康、幸福にも大きく関わっていることがわかってきた。

感覚の特性は、知らず知らずその人の人生を左右する重要なファクターだったのである。

感覚特性を把握するのに便利なツールに、感覚プロファイルがある。

感覚プロファイルは、64項目の質問に答えることで、感覚の傾向を評価するもので、低登録、感覚探求、感覚過敏、感覚回避の四つの傾向について、知ることができる。

低登録とは、感覚が鈍く、鈍感で気づきにくい傾向である。

低登録の傾向が強いと、ものにぶつかりやすかったり、捜し物が苦手だったり、朝、起きにくかったりする。

感覚探求は新しい刺激を求める傾向である。

感覚過敏は、音や匂いなどに過敏な傾向であり、感覚回避は、不快な感覚刺激を避けようとする傾向である。

この四つのファクターがどういうバランスであるかを、感覚プロファイルと呼ぶ。

ばらつき具合によって、その人の感覚特性が決まるのである。

感覚特性は、対人距離や愛着スタイルとも関係が深い。

次の項では、感覚探求について見ていこう。

新しい刺激を求める傾向

愛着の安定を大きく左右するとされる一つの要素は、新しい刺激を求める傾向(新奇性探求と呼ぶ)である。

新しい刺激を求めるタイプの人は、慣れしたしんだものに安心や満足を覚え、それを大切にし続けるよりも、新しい可能性や刺激を求めて冒険することにこそ生きがいを感じる。

したがって、我が子といえども、育児だけに縛られたり、パートナーとの関係においても、一人の人だけに縛られたりしていると、自由な可能性を奪われ、生き埋めにされているような息苦しさを覚え、逃げ出したくなる。

浮気に走ったり、日常の生活よりも刺激的なことを求めたりしてしまい、家庭生活や結婚生活に破綻をきたす一因ともなる。

ただ、この新奇性探求は生まれ持った要素が強い特性の面もあるので、その点を無理に押し殺して生きていこうとしても、うまくいかない。

新奇性探求が強い人は、あまり縛られないライフスタイルを持った方が、長続きしやすい。

感覚探求(新奇性探求の一つの目安となる)と各パーソナリティ・タイプのスコア(ADHDとASDに関しては、A-ADHDとA-ASDのスコア)との相関を示したものがある。

たとえば、演技性の傾向は、感覚探求が強い傾向ともっとも強い正の相関を示している。

ついで、反社会性、境界性、ADHDと続く。

感覚探求が強い人は、新しい刺激に目移りしやすい傾向があり、それがパートナーとの関係の危機にもなるが、このタイプの魅力と不可分でもあるので、いいとこ取りは難しい。

逆に、感覚探求と負の結びつきを示したのは、回避性、シゾイド、依存性の傾向であり、こうしたタイプでは、新しい刺激を求めるよりも、変化を避ける傾向があり、対人関係においても新奇な相手を求めて冒険するということになりにくい。

自分自身や相手がどの傾向を強く持っているかを知ることで、対人関係のパターンをある程度予測し、リスクに対して心構えをすることができる。

感覚過敏と対人特性

対人距離を決めるうえで、重要とされているのは過敏性である。

過敏な人は、安全だと感じる自分の領域(パーソナル・スペース)を脅かされたと感じやすく、人との距離をとることで、身の安全を確保しようとする。

過敏性にも、感覚が過敏といった神経学的過敏性と、相手の顔色に敏感といった心理社会的過敏性がある。

神経学的過敏性を代表するのが感覚過敏である。

感覚過敏な人では、心地よく感じる対人距離が遠くなる傾向がみられる。

ただし、こうした関係がはっきり認められるのは、ストレスがあまり高くない状態でであり、ストレスが高い状態では、感覚過敏な傾向は、それほど重要な対人距離の決定要因ではなくなる。

たとえば、緊張を強いられる仕事の場では、どれくらいの対人距離をとるかは、感覚過敏の傾向とは無関係になるが、リラックスした状態では、感覚過敏の強さが、自然に対人距離に反映される。

過敏性が強いタイプのパーソナリティでは、距離をとった関係を好む。

一方、負の相関がみられるタイプでは、対人距離が近くなり、接近した立ち位置を好む。

感覚過敏との正の相関がもっとも顕著なものは、自閉スペクトラム症(ASD)で、ADHDや回避性、シゾイド、妄想性がそれに続く。

これらのタイプでは、親密な対人関係が築きにくく、表面的な関係や本音を見せない関係になりやすいことが知られている。

逆に、感覚過敏の傾向と負の相関が強かったのが、演技性、反社会性、自己愛性などであった。

これらのタイプでは、無頓着に相手のパーソナル・スペースに入り込みやすい。

つまり対人距離が急に縮まり、相手の都合にお構いなく、接近してくることがあるのは、すでに述べたとおりである。

感覚プロファイルが対人関係を決める

感覚探求と感覚過敏との相関係数と各パーソナリティや発達のタイプとの関係を示したものがある。

感覚探求が強いタイプでは、感覚過敏があまり見られない傾向があるものの、パーソナリティや発達のタイプによって、それぞれ特色があり、大きく次の四つのグループに分けられる。

1.感覚探求が強く、感覚過敏が弱いグループ・・・演技性、反社会性、自己愛性など

このグループは、新奇な刺激を追い求め、過敏さもないため、不安を抱きにくく、急に距離を縮めてくるなど、大胆不敵な行動に走りやすいと考えられる。

つねに新しい出会いを求めようとするため、関係は移ろいやすい。

2.感覚探求が強いが、感覚過敏も強いグループ・・・ADHD、境界性、妄想性など

このグループは、新奇な刺激を好むが、同時に過敏さも抱えているため、傷つきやすく、かかわりを求めているのか拒否しているのかわかりにくい振る舞いをしやすい。

対人距離も不安定で、好意を持っている相手に冷淡になったり、攻撃的になったりすることもあり、接近したいのか、遠ざかりたいのか、真意をつかみにくい。

新しい刺激を求めるうえに、傷つきやすいため、関係はもっとも不安定になりやすい。

3.感覚探求は弱く、感覚過敏が強いグループ・・・ASD、シゾイド、回避性など

このグループは、過敏で、新奇な刺激を求めないため、対人関係において慎重で、距離をとった行動をとりやすいと考えられる。

親密な関係がなかなか成立しにくいと言えるが、いったん親密になれば、新しい出会いを求める傾向は乏しいため、相手がそっぽを向かない限り、このタイプから相手を切ることはめったにない。

4.感覚探求が弱いが、感覚過敏も弱いグループ・・・依存性など

このグループは、新しい刺激や出会いをそれほど求めないが、あまり過敏でもないため、一人の存在に素直に接近し、いったん親密になると、長期間にわたって執着しやすいと言える。

感覚刺激を求める人では、振り返る力が弱い傾向が

自責反応が乏しい傾向は、感覚刺激を求める傾向と同居しやすい。

感覚刺激を求める傾向は、周囲の人に積極的に接近し、親密な関係にも巻き込んでいきやすいのだが、そうした傾向は、同時に自分を振り返る力が乏しい傾向と併存しやすいということになる。

自分を振り返る傾向が乏しいからこそ、大胆なアプローチができるともいえるが、そういったタイプの人と親密な関係になったときには、自分を省みない相手の行動に、戸惑う場面が増えることを覚悟しなければならない。

積極的に接近してくるタイプの人は、大胆な行動力と周囲を巻き込む魅力を備えていると言えるが、同時に反省や本当の思いやりという点では弱い傾向を抱えていることが多く、相手のアプローチに本気で応じていくと、突然、そっぽを向かれたり、梯子を外されたりということも起きるのである。

その意味で、相手を振り回しやすいタイプだと言えるだろう。

さらに他責反応も加えて、分析した結果を示したものがある。

おおむね、他責反応が強いパーソナリティ・タイプでは、自責が弱く、逆に自責が強いパーソナリティ・タイプでは、他責が弱いという傾向が認められる。

自己愛性、妄想性、演技性は他責反応に偏りやすい。

自己愛性は、自己愛的怒りと呼ばれる反応で逆ギレしやすく、妄想性は、被害的に受け止め、過剰防衛に走りやすい。

演技性も、意外に攻撃的な面を秘めている。

ASDは自責反応がやや多いものの、他責反応もやや多い傾向があり、中立的な反応が少なく両極端になりやすい。

普段は相手に合わせて従順に振舞うものの、ストレスが強まると、急に攻撃的になるといった傾向とも関係していると思われる。

境界性も矛盾した傾向が併存し、攻撃性の方向が外に向きやすいときと、自分に向きやすいときが両極端に現れる傾向が、反映されているのかもしれない。

自責反応は、必ずしも本心での反省を意味せず、むしろ身についた反応パターンと考えられるので、共感能力の高さとは必ずしも比例しない。

ちなみに、他責反応の多さは、社会適応と正の相関(相関係数r=0.15)を示すが、幸福度とは負の相関(r=-0.29)を示す。

一方、自責反応の多さは、社会適応とは負の相関(r=-0.14)を示すが、幸福度とは正の相関(r=0.19)を示す。

責任転嫁して、周囲に八つ当たりするというやり方は、外では通用しても、家庭では通用せず、自分を不幸にしているのかもしれない。

ちなみに、幸福度ともっとも強い正の相関(r=0.26)を示したのが、相手も自分も責めない無責反応である。

つまり、誰も責めずに中立的に対処するのが、精神衛生的には最良の策なのかもしれない。

※参考文献:対人距離がわからない―どうしてあの人はうまくいくのか― 岡田尊司著