ストレスの原因に立ち向かわずに逃げると、かえってストレスが増すということは、ストレスの第一法則です。

逃避はかえって心を重くする事態を生むことが多いものです。

ストレスには、逃げずに立ち向かうことです。

しかし、逃避もうまく使えば、人間関係のストレスを避けるために有効です。

逃避を積極的な戦術として使うのです。

たとえば、理不尽な上司が激昂しているときには、うまくその場を避ける算段をするのは賢明なことです。

ストレスとなるような飲み会からは、うまく逃避することです。

戦うよりも逃避するほうが難しい場面があります。

自己顕示欲求や自尊心があるからです。

賢明な逃避は賢明な生き方に必要です。

孫子の兵法でも、百戦して百勝するのはベストではなく、戦わずして勝つことこそがベストだといいます。

逃避戦術が歴史の決定的な転換点になった例は少なくありません。

たとえば、飛ぶ鳥を落とす勢いのナポレオンは、六十万人の大部隊でロシアに攻め入りました。

ナポレオンの作戦は短期決戦でけりをつけるというものでしたが、帝政ロシアの総司令官クトゥーゾフは、戦わずに兵力を温存して、ロシアの土地深く退却する作戦をとります。

やがて冬が来て、ナポレオン軍は寒さと食糧不足に苦しみます。

「いまこそ戦うとき」と、はやる部下をおさえ、クトゥーゾフはなおも持久戦をとります。

ナポレオン軍は自壊し、戦わずして大敗北を喫し退却していきます。

戦死者四十万人、捕虜十万人という数字をあげる歴史書もあります。

これが「冬将軍」という言葉の語源にもなったのです。

歴史は第二次世界大戦で繰り返されました。

ソ連に攻め込んだナチドイツ軍に対し、スターリンはうろたえてなす術がありません。

短期決戦の作戦をとるヒットラーは、一気に戦線を延ばし、モスクワに迫ろうとします。

ジューコフのもとに態勢を立て直したソ連軍は自国の都市を破壊しつつ退却し、ようやくスターリングラードでドイツ軍を迎え撃つのですが、ドイツ軍はやがて冬将軍との戦いに疲弊し、退却していきます。

このスターリングラード攻防戦がナチスドイツ敗北の転換点になったといわれています。

賢明な逃避をうまく使うことは、精神衛生上、大事なことです。

心理療法でも、退行を用いることがあります。

赤ん坊の時代まで退行させ、もう一度、幼い時期を生き直させることにより、

自我の組み直しをはかり、エネルギーを再生させる方法です。

じっさい幼な子は、自分で処理しきれないストレス場面では、急いで母親のもとに帰り、抱きつき甘えます。

青年も同じです。

家を出て生活していても、一人では耐えきれないときには親に依存するために家に帰ります。

これにより安心感を得て、再び立ち上がるエネルギーを得ていきます。

泣きたければ泣くことです。

わめきたければ、わめくことです。

子どもじみたことをしたければ遠慮なくすることです。

思いきり周囲に甘えることです。

自分を思いきり甘やかしてみることです。

一時期、徹底的に退行するなかで、きっと新しい意欲が湧いてきます。

心理的にいちばんよくないのは、逃避や退行は負け犬のすることだとか、欺瞞だとかと考えて、自分を責めることです。

そうではなく、必要なときには、退行が自分と相手の精神衛生のためにベストの選択であると肯定的にとらえ、割り切ることです。

※参考文献:人と接するのがつらい 人間関係の自我心理学 根本橘夫著