愛着や愛着障害について主として論じられてきたのは、母親との間の問題であった。

実際、母親の不在や機能不全は、愛着障害のもっとも大きなリスク要因となり、その後の愛着スタイルだけでなく、発達全般に影響を及ぼしやすい。

しかし、母親がいなくても、安定して成長するする子どももいる。

逆に、母親との愛着が安定しているにもかかわらず、その後、不安定な愛着スタイルを示すようになる場合もある。

その理由は単純だ。

その子にとって親は一人ではないし、その子に関わり、見守る人間はもっとたくさんいるということである。

母親との愛着が欠如していても、それを補うだけの安定した愛着関係を、父親などの養育者との間でしっかりもつことができれば、その悪影響を免れることも可能だ。

母親との愛着が安定したものであっても、愛着していた父親がいなくなったり、両親の間で強い確執が繰り返されたりすれば、どちらの親にも愛着しているがゆえに子どもは傷つき、通常の愛着の仕方ではなく、反抗したり、無関心になったりすることで、傷つくことから自分を守ろうとし始めるだろう。

そうした体験は、その後の愛着スタイルに影を落とすことになる。

つまり、愛着の問題は、母親との関係だけを取り上げて事足れりとされるものではないということだ。

これまでの愛着研究では、母親との愛着が中心に論じられ、たとえば、父親との愛着の安定性がどういう意味や影響をもつのかということについては、ほとんど論じられることはなかった。

本サイトでは、その点にも一定の知見を述べたいと思う。

親の離婚や死別と、愛着スタイルとの関係を調べたミクリンサーらの研究によると、子どもが四歳未満のときに父親が死亡したり、離婚していなくなった場合、子どもには愛着回避、愛着不安の傾向がともに有意に高く認められ、愛着スタイルが不安定になりやすいことが示された。

しかし、4歳以上の場合は、統計的有意な影響は認められなかった。

だが、個々のケースでみれば、明らかに影響を受けていることが少なくない。

両親以外にも、祖父母や兄弟、身近で親しんでいた遊び友達や親戚、教師との関係も関わってくる。

周囲の友人や大人から守られて育った子どもと、いじめや否定的な扱いを受けて育った子どもとでは、愛着スタイルが異なってくるのは当然のことだ。

それらの体験がすべて積み重なって、その人の愛着スタイルというものを作っていくのである。

十代前半ごろになると、おおよその愛着スタイルが確立するとされるが、まだ揺れ動く余地がある。

中学、高校、大学、就職と周囲の環境が変わることで、愛着スタイルが微妙に変化することは珍しくない。

だが、もっとも大きな変化が起きやすいのは、恋愛や結婚によってパートナーとなる存在と、親密な関係を結ぶようになってからである。

恋人や配偶者は、愛着スタイルに関して、かつて母親が及ぼした影響に匹敵するほどの大きな影響を及ぼすことがある。

それまで変動の激しかった対人関係が、安定した愛着スタイルの人と一緒にいるようになって、落ち着いてくることもある。

逆に、安定型の愛着スタイルをもつ人が、不安定型の愛着スタイルをもつ配偶者の影響で、不安定型に変化するという場合もある。

ただ、この組み合わせは不思議なもので、安定型愛着スタイルの人同士が結ばれれば、それで安泰というわけでもなく、逆に、不安定愛着スタイルの人同士が、互いの不足する部分をうまく補い合うことで、幸福な結婚生活を送り、互いの可能性を開花させ、社会的にも成功するということもある。

共倒れするか、互いが幸福をつかむかの分かれ目はどこにあるのだろうか。

その点については後の章で考えたい。