話し手になるために、たとえば次のような指示を与える本があります。

・話のきっかけをつくるのに、なにかペットなど物を仲介するとよい。
・相手の趣味を質問するとよい。
・面白い話をふだんから集めておく。
・話すことに苦手意識を持たない。

これらの方法は、本を読んでいる時には、なるほどよさそうに思えます。

しかし、じっさいにやってみて役立つことはほとんどありません。

相手の趣味などを聞いて話のきっかけはつくれても、そのあとが続かず、かえって緊張した沈黙の時間となってしまいます。

面白いと思う話題を多少集めても、いざ話そうとすると緊張してしまって、話しきれるものではありません。

かえって場をしらけさせるのがおちです。

問題は会話のキャッチボールを続けていく能力にあるのですから。

話し上手になることは簡単にはできません。

相当の訓練と努力をしなければなりません。

しかし、聞き上手になることは明日からでも可能です。

少しの心がけと技術で、聞き上手になることができます。

聞き上手になるには、カウンセラーの姿勢と方法が大いに参考になります。

カウンセラーとは、悩んでいる人に明快な回答を与えてあげる人ではありません。

他の人には分かってもらえないその人の悩みや苦しみを、自分のことのように受け止め、共感しようとする人なのです。

簡単にいえば、どんな話でも「うん、うん」と関心をもって聞いてあげる、聞き上手な人なのです。

こういう聞き上手な人に一時間数千円から一万円くらいのお金を払って、少なくない人が話を聞いてもらいに来るのです。

ですから、聞き上手になるのに人と会った時、なにか気の利いた話をしなければ相手が承知しないわけではないのです。

あなたが面白い話をしないと、相手があなたを嫌いになるわけではないのです。

「うん、うん」と面白そうに話を聞いてくれる聞き上手な人であれば、それだけで相手の人は満足なのです。

社会心理学の古典的な法則に、認知的バランス理論というものがあります。

三つの要素を認知するとき、それらが均衡を保つように心の中で動きやすいというものです。

つまり、自分が興味を持っていることに相手が関心を持ってくれると、その相手に対して好意をもつようになる傾向があるのです。

また、話すことがその人のカタルシスになります。

聞き上手な人に面白そうに話を聞いてもらえるということは、プラスのストロークを受けたことにもなります。

聞き上手な人に自分が大事にされたと感じられます。

こうしたことで、聞き上手な人に対する好意度が増すのです。

大学紛争がさかんだった時代は、学生は友人同士、じつによく話し合ったそうです。

生き方、愛、友情、学問―文字通り夜を徹して語り合ったものでした。

聞き上手同士です。

聞き上手同士で自己をさらけだし、お互いの自己をぶつけ合うなかで、傷つけ合い、支え合い、自分を知り、異質のものを知り、生き方を見つめ直し、友情を深めたものでした。

現代はこうした聞き上手同士になり合う機会が少なく、多くの人は友達のそうした話などは「うざったい」だけで、面倒だと感じがちです。

そのため聞き上手になることをめんどうだと思い、簡単に結論を出してしまって、その話を終了させようとしがちです。

そうであればなおさら、じっくり聞き上手な人に話を聞いてもらえるということだけで、相手はあなたを身近に感じてくれます。

「心から私の話を聞いてくれる」、そう感じとっただけで、相手の人は聞き上手な人に好感を持ちます。

カウンセラーというのは、一般に次のような基本的な態度を重視します。

【ラポールを作ること】相手が話しやすい雰囲気をつくることです。

【無条件の肯定的受容をすること】善悪の判断などを差し控えて、「うん、うん」「なるほど」などとあいづちを打ちながら、相手の話を聞くことです。

【共感的理解につとめること】自分の枠組みではなく、相手の心の枠組みで相手の感情や心理を理解しようとすることです。

またカウンセラーは、カウンセリング場面で次のような技術を用います。

【繰り返し】その人の心理のポイントになりそうな相手の言葉を繰り返すことです。
たとえば相手が、「あの人はいつもそうだから」と言った場合、それが「あの人」に対する態度を表現していると感じたら、「あの人はいつもそうなんですね」などと復唱することです。

【リード】「それで?」などと質問したり、「〇〇〇はどうですか」など、相手が話を続けやすいように誘導することです。

【支持】積極的な考え方や行動などを「よくがんばりましたね」「それはよい、ぜひ、やってみてください」などと支持することです。

【明確化】相手がはっきりと表現できない意識や感情などを「それは〇〇〇ということですね」などと、言語化してあげることです。

聞き上手になるためには全体として言葉じりをとらえるのではなく、言わんとする全体を理解しようとすることが大事です。

この聞き上手なカウンセラーの接し方から、日常会話で相手の話を聞く聞き方について、次のようなヒントが引き出されます。

1.防衛せずに自然体で接する

聞き上手になるためには、なにか気の利いたことを言わなければと身構えるのではなく、ゆったりとした気持ちで聞くことです。

自分のゆったりした気持ちが相手にも伝わります。

2.視線は無理に相手に向ける必要はありません。ちゃんと聞いていれば、それが相手に分かります。

3.あいづちを打ちながら聞く。肯定の意味で、ただ頭を上下に振るだけでもいいのです。

4.自分の枠組みで結論をすぐに下さない。

聞き上手になるためには、相手の話を聞いて、それは無理だとか、誰々が悪いなどと、即座に結論を出してしまわないことです。

聞き上手になるためには、結論を控えて、共感的理解を試みることです。

つまり、聞き上手になるためには、相手の人の身に置き換えて、その人自身がどう感じ、なにを望んでいるのかなどと、追体験しようとしてみることです。

聞き上手になると自分の枠組みではなく、相手の枠組みで感じ取ろうとすると、相手の話からたくさんのことを学ぶことができます。

人間関係が苦手な人は、会話するさいに自分を守ろうと無意識に身構えてしまっています。

このために自分に関心を向けてしまいます。

そうではなく、聞き上手な会話は相手への思いやりです。

聞き上手になるということは相手の話に誠実に耳を傾け、相手の嬉しい心、悲しい心、怒る心に共感しながら聞くことは、自分の心の幅を広げることになります。

5.自分が感じたことを素直に表現しながら聞く。

聞き上手になるにあたり、共感的理解をしようと相手の話を聞いていると、相手があなたをどう思っているかに関心は向かわず、相手が話すことそのものに関心が集中します。

すると聞き上手になると、自然に話に引き込まれ、いろいろなことを感じます。

聞き上手になると、それを、「ほー!」「わぁ、すごい」「えー!」「あーそうなんだ」「なるほど」などと、率直に表現します。

6.自分の素直な疑問を聞く。

聞き上手な共感的理解を心がけていると、いろいろな疑問や話を進展させるような質問も湧いてきます。

聞き上手になると、それを「どうして?」「そうしたら?」「それから?」などと、率直に質問することです。

すなわち、聞き上手になることはカウンセラーのリードを用いるのです。

また、聞き上手な人がこうした聴き方をしていると、相手がどう話をまとめるか戸惑っているときなど、自然に「こういうこと?」などと、明確化もできるようになります。

このような聞き上手な姿勢で接すると、不思議に安らかな心で人に対応できます。

聞き上手になることで、二人のあいだに通じ合う感じが体験でき、そうした共感の時間を持てたことに満足を感じることができるようになります。

※参考文献:人と接するのがつらい 人間関係の自我心理学 根本橘夫著