
愛着が不安定な人は、親密な関係において困難を抱えやすく、子どもやパートナーといった近接した存在を支え、世話をするということに支障を来しやすい。
ただ、その困難の性質も、不安型愛着スタイルか回避型愛着スタイルかによって、大きく異なってくる。
回避型愛着スタイルの特徴を中心に、その点について、もう少し詳しくみていきます。
回避型愛着スタイルの人が親密な関係が築きにくい理由
回避型愛着スタイルの人は、自己開示が苦手である。
しかし、それを避けることによって、一層他者との間に親密な関係を築くことが難しくなる。
表面的な関係から親密な関係に移行する上で不可欠となるのは、自分が何者で、何を感じて生きてきたかを知ってもらうことだからである。
こうした自己開示を避け、秘密主義を貫こうとすれば、そこで親密になるプロセスは止まってしまう。
回避型愛着スタイルの人は、感情表現も抑えられがちだ。
特に、歓びや関心といったポジティブな表情が、より強く抑えられる。
その結果、周囲に与える印象をネガティブで近寄りがたいものにしてしまう。
親密な関係を築こうとすれば、ポジティブな感情表現や自己開示を意識的に増やすことが必要なのにもかかわらずである。
また回避型愛着スタイルの人は、自己開示や感情表現を抑えてきた結果、気持ちや感情があいまいになりやすい。
これが思わぬマイナス要因になる。
気持ちや感情といった情動は、理性でくくりきれないものだが、実は、意思決定においてとても大切な役割を果たしている。
というのも、根本的な行動の指針を与えてくれるのは、情動だからである。
たとえば、その相手と結婚するべきかどうか悩んでいるとき、「好きだ」「いつも一緒にいたい」という気持ちや感情が強力なものであれば、あまり迷うことはないだろう。
ところが、気持ちや感情があいまいかつ稀薄な場合は、自分が相手のことを好きなのか、一緒にいた方がいいのか、いない方がいいのか、それさえ、はっきりとわからない。
こうした問題に決着をつけるには、理性では説明のつかない、「好きだ」「一緒にいたい」という激情が必要である。
ところが、回避型愛着スタイルの人は、勢いのままに突っ走るということになりにくい。
冷めた目で、相手の欠点や失敗に終わるかもしれないリスク、そのときのダメージなどといったことを考えてしまうのだ。
だから、ますます熱くなれない。
つい面倒くさそうだから、やめておこうということになってしまう。
回避型愛着スタイルの人の子育て
大学生を対象にした研究によると、回避型愛着スタイルの人は、将来子どもをもつことにさほど興味がなく、また子どもを世話することからあまり満足が得られないと答えている。
また回避型愛着スタイルの親を対象にした調査では、子どもに対して距離があると感じており、子どもとの親密な関係を楽しむことができない傾向がみられた。
実際、回避型愛着スタイルの親は、子どもの気持ちには無頓着で、自分の思い通りにさせようとする傾向が強く、自分の与えた課題をこなせるかどうかに焦点を当てがちである。
途中の頑張りや気持ちの部分にはあまり関心を向けない。
また、子どもと離れるという状況になっても、比較的冷静で、あまり不安を感じない。
これは、哺乳類の常識としては”異常”なことである。
その点、子どもと離れることに不安やストレスを感じやすい不安型愛着スタイルの母親は、ある意味、哺乳類的である。
ただ、乳離れして十年、二十年経っても、わが子に対して同じような不安を抱き続けるのは、やはり”異常”と言えるかもしれない。
さらに回避型愛着スタイルの親は、子どもが困っていたり、弱って助けを求めているときほど、無関心になったり無視したりする傾向がある。
子どもが喜んだり、笑ったりすることには反応するが、子どもが泣いたり、むずかったりすると、かえって反応が弱くなってしまうのである。
つまり、子どもが切実に親を必要とするときほど、親は子どもの求めに応じなくなるという矛盾した事態が起きやすい。
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回避型愛着スタイルの人の愛情
こうした回避型愛着スタイルの、子どもに対する傾向は、パートナーとの関係においても認められる。
回避型愛着スタイルの人は、パートナーに対しても無関心で、反応が乏しい。
身体的に距離をとり、接触することもあまりない。
そして、非協力的なスタンスをとりがちである。
相手を自分の思い通りにしようとする一方で、相手の気持ちには応じようとしないという乖離もみられる。
人と距離をとることで自分を守ろうとする―これは回避型愛着スタイルの戦略で、この戦略は、自分の安全が脅かされそうな状況になるほど強まってしまう。
実際、パートナーの困難が増し、苦しみの表情をすればするほど、回避型愛着スタイルの人は怒りを覚え、否定的な反応をするという研究結果も報告されている。
一見すると、献身的に行動することがあるが、その場合も、自然な感情からそうしたというよりも、そうしないともっと面倒なことになるとか、献身的なフリをすれば有利に事が運ぶといった打算が働いた結果だったりする。
他人の痛みや苦しみに対する回避型愛着スタイルの人の態度は、相手の立場に立った共感的なものというよりも、冷淡だったり無関心だったり、怒りや苛立ち、憐れみだったりする。
憐れみは、相手に対する共感という対等な感情ではなく、優位に立つ者が困っている者を見下すという性質をもつ。
ある実験では、カップルのうちの一人に、ストレスのかかる課題をやってもらい、もう一人に慰め役になってもらうという設定で、愛着スタイルの影響が調べられた。
その結果、回避型愛着スタイルの人は、慰め役として有効な働きかけが行えなかったが、同時に、パートナーが困っていても、あまり気持ちを乱されることもなかったのである。
また回避型愛着スタイルの人が、ときに、苦しむ者の姿を面白がるといった場合もある。
回避型愛着スタイルのこどもは、弱い者いじめをする側に回りやすいことは、以前から知られた事実である。