おとなとして自分のニーズに気づくスキルを磨くには、子ども時代の感情に共感する必要があります。
なぜなら、今のニーズというのは多くの場合、子ども時代に必要だったものと同じだし、また、過去のニーズを切り捨てることは、自分にニーズを満たす権利があると信じる妨げになっているからです。
これまでのクライアントとの経験で、子ども時代に満たされなかったニーズに気づくために非常に役立ったのが「親への手紙を書く」作業です。
この手紙は決して投函しないし、親に向かって読み上げたり手渡したりもしません。
手紙の目的は、親に仕返ししたり、責めたりすることではなく、グリーフのプロセスを促進し、ニーズに気づくことです。
三十三歳の女性が書いたものを紹介しましょう。
お父さんへ
小さいときのこと、お父さんにありがとうと言いたいです。
大好きだよと言ってくれてうれしかった。
本当にそうなんだって思えたから。
お父さんと遊ぶのは、いつも楽しかった。
でもお父さん、私にはとても必要だったのに手に入らなかったものもあったのです。
お父さんはいつからか、高圧的で支配的になって、そして嘘をつくようになりました。
私は何よりも、子どもでいさせてほしかったし、間違うのを許してほしかった。
お父さんにとって完璧な子どもではないという不安の中で、私は暮らしていました。
私は、お父さんの理想どおりになろうとすることで、子ども時代を失いました。
私には遊ぶことが必要だったのよ、お父さん。
お父さんの理想の一部ではなく、私のままでいることが必要だったんです。
お父さんには、お母さんにもっとやさしくしてほしかった。
お母さんの誕生日も忘れていたし、お母さんにクリスマスプレゼントをあげたこともなかったでしょう。
お父さんが酔っぱらっていたから、お母さんはいつも仕事に追われていました。
私には、もっとお母さんと仲良くすることが必要だったのに。
十代になると、自分がお父さんを怖がっていることがすごく嫌になりました。
私はいつだっておびえて、震えあがっていたんです。
自分が女だということが嫌でした。
私と男の子たちのことでお父さんがとった態度で、私は自分が汚いものになったみたいに感じました。
女である自分が恥ずかしかった。
でもお父さん、今になっては笑うしかないけど、私はお父さんの思っていたようなこと全然してなかったのよ。
私にとって、家族で一緒に夕食をすることも必要でした。
私たちはあちこちでばらばらに、七時半から十一時半までかかって夕食をしていましたね。
ちっとも楽しくなかった。
お父さんが夕食を食べもしないことが二日に一回はあったわ。
お父さん、わかるでしょう―私は今でもお父さんが必要なんです。
この手紙は、たくさんの強い感情を引き出しています。
こうした手紙はグリーフのプロセスを後押しするとともに、子ども時代のつらさに共感できるようにしてくれるのです。
そして、子ども時代のニーズがおとなになっても持ち越されていることを教えてくれます。
手紙を書いたことで、この女性は次のような子ども時代のニーズに気付きました。
1.私は子どもでいることが必要だった。
2.私は遊ぶことが必要だった。
3.私は間違いをおかすことが必要だった。
4.私はお父さんのものではなく、自分のままでいることが必要だった。
5.私はお母さんともっと一緒にいることが必要だった。
6.私は女であることをもっと心地よく感じることが必要だった。
7.私には健康的な家族の行事や生活習慣が必要だった。
8.私にはお父さんが必要だった。
子ども時代のニーズに気づくことで、彼女は現在のニーズにも気づきました。
そのニーズはいまや親に満たしてもらうものではありませんが、年齢に関わりなく、まさに今現在のニーズなのです。
彼女は次のように書いています。
1.私は遊ぶことが必要だ。
自発性を見つけ、ふざけることもできる自分を発見し、創造性を発見するために。
2.私は自分に価値があると感じることが必要だ。
たとえ間違うことがあっても。
3.父がこうあれと思っていた私とは別に、自分というものを見つけることが必要だ。
4.私は母ともっと親しくなることが必要だ。
5.私は女であることをもっと心地よく感じることが必要だ。
6.私には健康な行事や習慣が必要だ。
7.私には父が必要だ。
このアダルトチルドレンを抱えた女性は三十三歳の今から、あるいは何歳からでも、こうした課題に取り組むことができます。
もちろん、彼女の両親はニーズに応じられるとは限らないし、会ったり電話したりする機会もつくりにくいかもしれませんが、ニーズを自分のものとして認めるということは、それと折り合いをつけるための第一歩なのです。
●手紙を書く時間をとりましょう。
あなたが喪失を味わった相手を選んでください。
手紙は、その人がしてくれたことへの感謝の言葉から始めます。
次に、あなたが必要だったのに得られなかったものについて書きます。
鉛筆を手に持ったら、始めましょう―前もってあれこれ考えたりしないでください。
書き方や文体にもこだわらないでください。
ここで大事なのは何を書くかで、どれだけ上手に書くかではないのです。
手紙を書き終えたら、それを声に出して読みましょう(相手に向かってではなく)。読むことは、書くことと同じぐらいの効果と価値があるのです。
ためこんでいた感情に気付いて解き放つ作業は、あなたに安ど感をもたらしてくれます。
手紙を読み上げ、自分の感情とともにいる時間をとってから、再び手紙に戻って、そこに書かれているニーズを丸で囲んでください。
子ども時代の中に発見したニーズは、今のニーズに目を向けるための焦点と方向性を与えてくれるはずです。
もし自分に焦点を当てるのが難しくて、むなしさやうつ、犠牲になっている感じや、怒りがわだかまっているなら、繰り返し自分に聞いて下さい。
「私は何が必要なのか?」「私は何を望んでいるのか?」と。
自分のニーズを知ることはそれを満たすための一番の方法です。
ニーズを認めるという課題に回復の4ステップを使う例をあげておきます。
ステップ1.子ども時代のニーズをリストにしてください。
そのほとんどは、どんな子どもにとっても必要なもののはずですから、遠慮してためらわないで。
次に、親や養育者によってこうしたニーズが満たされたかどうかを書きます。
1~10までの評価で、1をもっとも満たされず、10をもっとも満たされた状態として、父親・母親というふうに別々に書いてください。
こうした体験にともなう感情を止めずに感じてください。
ステップ2.その体験が今のあなたにどんな影響を与えているか、考えてみましょう。
ステップ3.ニーズを感じることやニーズを満たすことについて、あなたが心に取り込んだ重要な信念を見つけ出してください。
こうした信念は、今のあなたにとって害になっていますか、助けになっていますか?
あなたが手放したいものと、これからも持っていたいものとを見分けましょう。
ステップ4.今のあなたのニーズをはっきりさせましょう。
それが子ども時代のものとそっくり同じでも、驚かないでください。
次に、こうしたニーズを満たすためにできることを見つけてください。
一番やさしくて、怖くないものから始めましょう。
現実的な方策を編み出していってください。