『社会契約論』『エミール』『告白録』などの名著で知られ、後世に多大な影響を与えたジャン=ジャック・ルソーは、子ども時代だけでなく大人になってからも、愛着障害の人に見られる典型的な特徴や症状を示した人である。

ルソーは、スイスのジュネーブで、時計師の父親と牧師の娘である母親との間に、二人目の子どもとして生まれた。

しかし、母親はルソーの誕生の直後に亡くなった。

ルソーの面倒をみたのは父親と、未婚の叔母であった。

父親は、愛する妻の忘れ形見の息子を溺愛した。

愛着障害のルソー自身、「王子でも、私の幼時以上に、大切にされることはまずなかろう」(『告白録』より)と述べているほどである。

愛着障害だったルソーは利発な子どもであったが、幼い頃から、その後も続くことになる問題行動を示すようになっていた。

物を盗ったり、嘘をついたりとともに、いたずらもひどかった。

子どものいたずらといっても、少し常軌を逸しており、食べ物の入った鍋にこっそり小便をするといった、隠微な快楽を伴うものであった。

盗み、虚言、度の過ぎたいたずらといったものは、愛着障害の子どもに、しばしばみられる典型的な問題行動である。

甘やかされて育てられても、母親の愛情の欠如を補うことはできていなかったと思われる。

しかも父親というのが、どこか子どものような人物で、亡くなった妻の話をした後に、息子に向かって、「お母さんをかえしておくれ、この私をなぐさめておくれ」と泣き出すこともあったという。

愛着障害の幼いルソーは、自分が生まれながらに背負った罪を感じて育つことになった。