「親の不在」

養育環境の問題にはさまざまなタイプがあるが、もっとも早くから知られていたのは、親の不在である。

愛着障害が、戦争孤児の研究から見出されたことにも、そのことは示されている。

愛着の形成には臨界期と呼ばれる敏感な時期があり、その時期に母親を奪われる体験をすると、深刻な障害が残りやすい。

愛着形成の臨界期は生後半年から一歳半の期間だとされるが、最近の研究では、生まれた直後から半年までの間でも、すでに愛着形成が始まっており、早期に母親から離された場合、社会性の発達などに影響があることが認められている。

つまり、一歳半までの期間に養育者との間で愛着の絆が確立されないと、安定した愛着の形成は困難になりやすいのである。

しかし、この時期を過ぎたからといって、まだ安心できるわけではない。

この時期は、愛着の形成という意味での臨界期であるが、それに続いて迎える母子分離の段階は、母子分離の達成という次のステップの臨界期にあたるからだ。

ことに2,3歳の時期は、母子分離不安(子どもが母親から離れる際に感じる不安)が高まる時期であり、この時期に無理やり母親から離されるという体験をすると、愛着に傷が残り、分離不安が強く尾を引きやすい。

結局5歳ごろまでは、敏感な時期だと言える。

概して言えることは、愛着形成が完了しない時期に母親から離された子どもは、愛着自体が乏しい脱愛着傾向を抱えやすく、母子分離不安の高まった時期に母親をうしなうと、「見捨てられ不安」や抑うつが強まりやすい。

その境目が、2,3歳ごろだと言えるだろう。

こうした敏感な時期を過ぎるにつれて、愛着した対象をうしなうことの影響は小さくなっていくが、そこで受けた傷はさまざまな影響や動揺を及ぼし得る。

愛着に傷をかかえていると、次に愛着対象をうしなったとき、いっそう強い影響を被りやすく、不安定な時期が長引くという悪循環を来しやすい。