「一部は遺伝的要因も関与」

養育者を含む周囲の環境が、愛着パターンを決める主要な要因だとする研究結果がある一方で、生まれ持った気質によっても一部影響されるのではないかということも指摘されてきた。

それを裏付けるように、新生児の段階でイライラしやすかったり、ストレスに対してネガティブな反応を強く示すなどして、母親が扱いづらいと感じる赤ん坊では、後に抵抗型や混乱型の愛着パターンを示す傾向がみられたのである。

これは、遺伝的要因により、愛着障害を生じやすい不利な気質が関与している可能性を示している。

ただ、その一方で、そうしたケースでは、母親も子どもに対して反応が乏しかったり、過度にコントロールしようとする傾向がみられた。

遺伝的な気質と母親の反応性が、いずれも不利な方向に相互作用を起こすことで、不安定型の愛着パターンが形成されていくと考えられる。

遺伝的要因の関与を、より正確に調べようとする場合、双生児研究では限界がある。

双生児研究に代わって、もっと精緻な遺伝的解析を可能にしたのが、分子生物学的な方法による遺伝子変異の解析である。

愛着障害(不安定型愛着)に関連する遺伝子変異として最初に見つかったのは、D4ドーパミン受容体遺伝子の変異で、繰り返し配列が通常より多く、48塩基対縦列反復(48bpVNTR)と呼ばれる領域が、通常は二回または四回反復するところを7回反復していた。

この変異が最初に見つかった子どもは、混乱型の不安定型愛着を示していたが、その後の研究で、混乱型の愛着パターンを示す子どもの67%で、この遺伝子変異が認められることがわかった。

それに対して、安定型の愛着を示す子では20%、回避型では50%の頻度で認められ、この遺伝子変異をもっている子の場合、混乱型の愛着障害になるリスクが、もたない子の4倍になると計測されたのである。

さらに、この遺伝子変異は、不利に働くばかりではなく、ときには有利に働いていることもわかってきた。

つまり、母親が通常の情緒的コミュニケーション能力を示す場合には不利に働き、愛着障害を引き起こすリスクを高めるが、母親が混乱した情緒的コミュニケーションを行う場合には、むしろ不安定型愛着になるのを抑える方向に働いていたのである。

母親が混乱した情緒的コミュニケーションを行う場合、この遺伝子変異をもたない子どもは、正常な感受性をもっていることによって、愛着形成において破壊的作用を被ってしまうと推測される。

それに対して、この遺伝子変異をもつ子どもは、正常な感受性をもたないので、傷つくことを避けられるのかもしれない。

これは、遺伝的要因と環境要因が複雑な相互作用を行っていることを示す一例であるが、この事実はまた、一見不利にみえる特性も、実はもっと困った事態を避けるために役立っている場合があるという事を示している。

遺伝的要因の関与のうち、もう一つよく知られるようになっているのは、セロトニン・トランスポーター遺伝子の変異である。

セロトニン・トランスポーターとは、うつ病や不安障害とも関連の深い神経伝達物質セロトニンが、神経細胞の軸索の先端からシナプスと呼ばれる間隙に放出された後、このセロトニンを再び取り込む働きをしているタンパク質である。

遺伝子の変異によりトランスポーターが効率的に作られないと、セロトニンの再取り込みがスムーズにいかなくなり、セロトニン系の信号伝達機能を弱めてしまう。

つまり、不安を抱きやすくなったり、うつになりやすくなったりする。

セロトニン・トランスポーター遺伝子には短い配列(s)のタイプと長い配列のタイプ(l)があり、遺伝子は父親と母親からもらったDNAがペアになっているため、s/s、s/l、l/lの三つの組み合わせがある。

短いタイプほどセロトニン・トランスポーターを作る能力が低く、s/s型の人では、子どもの頃から不安を覚えやすかったり、うつになりやすいことが知られている。

脳のレベルでも、ネガティブな情動の中枢である偏桃体の活動が活発で、ストレスホルモンの放出が多い傾向がみられる。

些細な刺激も不快に受け止めやすく、愛着形成にも影響することが予想されるのだが、実際、混乱型の愛着パターンを示す子どもには、s/s型の子が多いのである。

また短い配列のタイプでは、母親の反応性が乏しい場合に、悪影響を受けやすいこともわかっている。

母親の反応性が乏しい場合、l/l型の子はその影響を受けにくいが、s/s型やs/l型の子どもはその影響を受け、不安定な愛着パターンを示しやすい。

60~70%の子どもがs/s型かs/l型で、l/l型の子は30~40%にとどまるため、母親がうつ病や不安障害に罹患しているケースでは、子どもも、その遺伝形質(フェノタイプ)を共有していることも少なくない。

その場合は、不安や抑うつ的になりやすい傾向を母子が共有することで、悪循環を形成しやすいと考えられる。

このように、子どもの側の要因と母親側の要因が絡まり合い、不利な面が重なり合うことで愛着障害が生じていくと考えられている。

悪循環を作りやすいという意味でも、母親のうつや不安障害は、重要な問題だと言える。