「親代わりの異性と、ずっと年下の異性」

愛着障害を抱えた人は、しばしば親代わりの存在を求める。

ずっと年上の異性が恋人や配偶者となることも珍しくない。

逆にずっと年下の異性に対して、親のように振る舞うことで、自分が欲しかった存在になろうとすることもある。

後者の場合、成熟した異性との間に対等な関係を結ぶのが困難であるため、自分が優位な立場に立てる、ずっと年下の異性を愛情の対象に選ぶと考えられる。

また、男性の場合、そこには成熟した女性への忌避もある。

母親との関係が不安定で、母親に対する憎悪や過度の理想化があると、成熟した女性との通常の恋愛や愛情を伴った肉体関係が困難となるのである。

喜劇王チャールズ・チャップリンは、ずっと年下の女性を好んだことで知られている。

いわゆるロリータ趣味ということもできるが、ロリータ・コンプレックスにもまた、愛着障害がひそんでいる。

チャップリンの母親はミュージック・ホールの女優で、長男のシドニィーとチャールズを生んでからも、舞台の仕事を続けていた。

母親がいない間、二人の兄弟の面倒は、家政婦がみていた。

父親も俳優だったが酒癖が悪く、それがもとで、チャールズが一歳のときに、両親は離婚する。

母親には二人の息子を十分養うだけの収入があったが、思いもかけない異変が襲う。

母親の声が出なくなってしまったのだ。

女優として働けなくなった母親は、お針子をして家計を支えようとするが、失意と無理を重ねたことから、母親の心身の健康は次第に蝕まれていった。

愛着障害だったチャップリンが12歳の時、母親は精神に明らかな異常を来して入院、以来、療養生活を繰り返すようになる。

チャップリンが愛着不安の強い、不安定型の愛着スタイルを抱えることになったのには、乳飲み子だったころから母親が忙しかったうえに、その後、ずっと不安定な母親を見て育ったことが与っているだろう。

そして、母親が正気を失い、彼の世界からいなくなってしまったことは、愛着不安を決定的にするとともに、母親とともにあった幼い日々への執着を生んだに違いない。

愛着障害のチャップリンのロリータ趣味は、悲恋に終わった初恋の女性の面影を求めてとも言われるが、その根っこは、もっと以前にあったと考えるべきだろう。

だが、もう一つ忘れてならないのは、父親のことである。

愛着障害のチャップリンの人生に欠落していた父親という存在は、その欠落ゆえに憧れとなって、彼の人生を操っていたようにも思える。

はるかに年下の女性を妻にすることは、父親を求める願望を、逆に自らが父親的な存在として振る舞うことで、代償するものだからである。

同じく父親の不在という心の隙間を抱えていたウーナ・オニールとの結婚が、37歳という年齢差を超えて、稀に見る幸福なものとなり得たのは、まさにその点に秘密があったように思える。