若い頃のスティーブ・ジョブズは非常に多動で、反抗的で戦闘的で、傍若無人であった。

愛着障害を抱えた人の典型的な特徴を示していたと言えるだろう。

愛着障害だったジョブズは、損得に敏感だった。

何も信じることができない彼が唯一信じたのは、利益だけだったのだ。

彼にはビジネスの世界で大成功を収めるという野心があった。

しかし、心のなかの空虚感や精神的な不安定さは、利益によっては満たされないものであった。

心の安定を求めた愛着障害のジョブズが、最初に頼るようになったのはドラッグだったが、やがて愛着障害だった彼は、それに代わるものとして、東洋哲学に傾倒し始める。

インドに放浪の旅に出かけたり、また、禅の導師のもとに足しげく通ったりした。

インドでは大雨に遭い、鉄砲水に流されそうになって、死にかけたこともあった。

愛着障害だった彼が禅の導師から体得したことの一つは、自分の心に浮んだものに素直に従うということだった。

愛着障害だった彼の型破りの発想や追い詰められたときに発揮される閃きの力は、このころの教えや体験が寄与しているのだろう。

禅の導師との関係は長く、アタリ社で働いていたころから、彼がいったんアップルを去ってネクスト社を起こした後まで続いた。

こうした「師」との関係は、彼の愛着障害の克服に大いに役立ったはずだ。

それは、父親的な存在との愛着関係を安定したものとしてもつことだからである。

また愛着障害だった彼は、私立探偵を雇って実の親を探そうとした。

自分のルーツを見つけることが、アイデンティティを確立するうえで、どうしても必要だと感じていたのだろう。

しかし、なかなか手がかりは得られず、アップルで成功し億万長者になってからも、繰り返し調査を行わせた。

諦めかけていた時、妹が見つかったという情報がもたらされる。

彼は自分に妹がいることさえ知らなかった。

ジョブズは、その妹に会い、妹を介して、家族の事情を知ることになる。

実は、母親がジョブズを身ごもったとき、両親はまだ結婚しておらず、世間体を憚った二人は、生まれた彼を養子に出したのだ。

二年半後、妹が生まれた時には、両親は結婚していた。

しかし、さらに十年後両親は離婚。

母親は言語療法士の仕事をしながら妹を育て、大人になった妹は文芸雑誌で働いていた。

愛着障害だった彼は妹とすぐに打ち解けて、二人は「親友」になる。

愛着障害だったジョブズは、妹によく電話をするようになり、妹を支えと感じるようになる。

愛着障害だったジョブズは、禅の導師とともに、もう一つの「安全基地」を見出したのである。

これをきっかけにジョブズは、実の母親とも関わりをもつようになる。

だが、その一方で、自分の養父母のことを、積極的に、自分の「親」だと周囲に主張するようになる。

理想化した「幻の親」を克服することで、「本当の親」を再発見し、親が与えてくれたものに感謝をする―ジョブズの心の中にもそうしたプロセスが起きたのだろう。

彼は育ての親との愛着を再確認するとともに、自分の過去と和解することができた。

それによって、彼の愛着スタイルは、少しずつ安定化の方向に向かった。

彼がアップルを追われるという事態を前向きに乗り越えることができたのも、その後、より魅力的な人格としてカリスマ性を発揮したのも、彼のなかでそうしたプロセスが進んでいたからであろう。