森田療法でみる対人恐怖症(五月病)

ことしの4月に大学を卒業して入社したばかりの社員が、5月になったとたんに欠勤が目立ち始めました。

出社しない旨の電話はあるのですが、理由を聞いても明確な返答がありません。

「何を考えているのか分からない」というのが本音です。


管理職に限らず、多くの人たちに見られた「五月病」とは内容がやや異なる五月病が、最近実社会で見られますが、その好例が新入社員の出社拒否または出社恐怖症です。

現在の新入社員の多くは、少なくとも経済的苦労をほとんど知らずに、順調に今日まで生きてきたといえましょう。

彼らは、生活の為、しいて「大人」になる必要はありませんでした。

その結果、上司にいわせれば、「口の利き方を知らず」「挨拶もろくにできず」「電話も満足にとれず」「何を考えているのだかわからない」、まるで宇宙人のような怪物に見られてしまうわけです。

新入社員にとってもこれは悲しく、かつ迷惑なことです。

なぜなら彼らにしたところで、望んでヘマをしているのではないのですから・・・。いや、実際はまったく逆で、だれしも張り切っており、なんとか一日も早く会社のために役立ちたいと考えているのです。

向上心だってあります。

それだけに、思いもかけなかった注意を少しされただけで、ショック→不安→対人恐怖症などの神経症となってしまうのです。

病院へは、こんな新入社員がよく相談にきます。

そのなかでもとみに目立つのは、「相手に面と向かうと、思っていることが言えなくなり、大きな不安を感じる」「自分が話すとバカにされるのではと考え、何もいえなくなってしまう」という相談です。

去年、証券会社に入社、危うく退職寸前までいった新入社員のケースは、「客と一人前の会話をしなくてはならない、しゃれたことをいわなくてはならない」と考えたあまり、相手の話の腰を折ってしゃべってしまったり、相手の話の先回りをして、結果的にしったかぶりをしてしまったり、「なんだ、そんなことなら知っている」というこちらの思いを顔に出し、相手を鼻白ませてしまったりしたというケースです。

こんなことが重なって、彼はしだいに人と話すのが恐ろしくなり、対人恐怖症などの神経症寸前まで追い込まれてしまったのです。

新入社員のすくなからぬ人達は、うまくしゃべろうとするあまり、しゃちほこばり、一人できりきり舞いをして、「聞き下手」になってしまうものです。

「聞き下手」に対しては、人間、腹を立てます。

人によっては、「生意気いいなさんな」とか「一言多いよ」とか言うでしょう。

つまり、現実をありのまま認めようとせず、背伸びをするところから、崩壊が始まるというわけです。