自分を主張できないために不本意な行動をせざるを得ないと、そのような事態をもたらした相手をつい密かに恨んでしまいます。

本当は自分の本心を主張できない自分が悪いのを知っているのに。

そのために自己嫌悪に陥ります。

少なくない人がこの悪循環のなかにいます。

まさにゲームを演じているのです。

人の中で楽にいられるためには、適切に自分を主張する力をつけることも必要です。

適切な自己主張能力をつけることにより、人間関係の改善をはかり、よりよい精神生活をもたらそうとする心理療法が、主張訓練(アサーション・トレーニング)です。

これは、自分の感情や要求・意図・考えなどを素直に表現できるようにし、人の権利を侵害することなしに、自分の権利を行使できるようにする訓練です。

これにより、平等な人間関係が促進され、自分が自分のために行動し、正当な自分の権利を守るために立ち向かえるようになります。

他の人に対する行動は、受身的行動・攻撃的行動・主張行動とに分けることができます。

受身的行動

専ら自分を抑圧して、相手にしたがう行動です。

これでは人間関係は不平等で、ますますストレスが多い関係になってしまいます。

攻撃的行動

相手を傷つけたり、屈服させたりしようとする行動です。

ときには有効なこともありますが、多くの場合、人間関係の悪化をもたらし、かえってストレスになります。

自己主張行動

必要な程度に自分の内面を伝え、ストレスフルな事態の解決をもたらそうとする行動です。

相手にノーというばかりではなく、自分の内面をきちんと表現することが大事な要素として含まれます。

注意しなければならないのは、主張行動を、攻撃的行動と混同しないことです。

また、自分の主張を相手に強制することを、主張行動と誤解しないことです。

相手には相手の主張する権利があるのですから。

それでは、主張訓練のじっさいとは、どのようなものでしょうか。

残念ながら、その魅力的なネーミングとは裏腹に、この心理療法が自己主張能力をつける特効薬的な方法を提出しているわけではありません。

段階を追って少しずつ獲得していくしかありません。当たり前です。

なにしろその行動様式は、長い間自分が行ってきた行動様式に反するものなのですから。

ともかく自分なりに、自分でできるようなかたちで、少しずつ自分を出してみることです。

最初は、ほんのささやかな主張行動しかできないでしょう。

場合によっては、主張行動がかえってストレスをもたらすこともあるでしょう。

それでも、少しずつ、チャレンジしてみることです。

チャレンジの場を広げてみることです。

そして、自己主張できたと感じたら、自己強化、すなわち自分で自分にご褒美をあげることです。

それは次のようなステップで行います。

1.自己主張したい場面をあげます。

例えば、次のような場面です。

・Aさんがいつも一方的に仕事を押し付ける
・参加したくないのに、誘われると断れない。
・先生がぼそぼそ話すので聞き取れず、いらいらする。

2.自己主張したい場面を選択します。

最初は一つか、せいぜい二つに絞ったほうが焦点を定められるので有効です。次のような基準で選択します。

・その場での自己主張が正当であること。
・自己主張できたらストレスが大いに減る場面であること。
・少し勇気を出せば、じっさいに自己主張できる場面であること。

このうち、自己主張が正当であることが何よりも大事です。

正当であれば、相手も受け入れてくれますし、周囲の人も支えてくれます。

3.獲得目標を明確にすること。

最終的な獲得目標は、自己主張により事態を変えることですが、最初から結果を期待できない場合もあります。

こうした場合、「ともかくこの場面で自己主張行動ができること」が目標になる場合もあります。

4.行動の選択肢をあげ、いちばん良いと思う方法を選択します。

「先生の言葉が聞こえない」という例なら、次のような選択肢が考えられます。
・授業中手をあげて、「聞こえません。もう少し大きな声でお願いします」と言う。
・授業開始前に、先の趣旨を書いた紙を教師の机の上におく
・授業時間以外の時に、個人的に先生に伝える。

5.メンタル・リハーサルを行います。

場面と行動を具体的に思い描いて、頭の中で練習してみます。
言うタイミング、言う内容、言い方。これらをできるかぎり具体的に思い描くことが大事です。

6.実行し、自己強化します。

「Aさんがいつも一方的に仕事を押し付ける」という例で言えば、「Aさんが不当に仕事を押し付けてきたとき」に「私はこれこれの仕事がありますので、いまは引き受けられません」と言います。

攻撃的にならず、しかし、きっぱりと言います。

後味が悪いなどと、自己主張したことをいつまでもウジウジと考えていることは無駄です。

実行できたら、できた自分を誉めてあげることです。

繰り返し同じような場面できちんと自己主張を行っていくと、周囲の人もそのように受け入れ、対処してくれるようになります。