目標が能力を生む

好きなことという目標を明確に持つことが、能力をつくり出すという作用を果たします。

明確な目標が能力を生み出すという事実は、古くから心理学での実験によって明らかにされています。

そのうちの一つをあげておきましょう。

ある高校で五十名の生徒に、「力いっぱいに、できるだけ高く跳ぶ」ように指示して、垂直跳びのテストをしました。

数日後、それぞれが跳んだ線よりも30%アップのところに印の線を引き、「もっと高く跳べるはずだから、印を目標にして、それよりも高く跳ぶ」ように指示して跳んでもらいました。

すると、約半数の生徒がこの30%アップの線を越えたというのです。

別のクラスの五十人には、2回目に30%アップの線は引かずに「もっと高く跳べるはずだから、できるだけ高く跳んでみて下さい」と指示して、挑戦させました。

その結果、30%アップを達成したのは五十名中十五名にすぎませんでした。

また、両クラスの生徒たちに「第2回目の自分の成績にどの程度満足感を覚えたか」を調べたところ、目標を与えられたクラスでは、目標を達成できた生徒は例外なく「満足」と答えました。

ところが、目標を与えられなかったクラスでは、実際に30%以上も高く跳べていながら「満足」と答えたのは十五名中わずか八名でした。

あとの七名には満足感がないのです。

このように、明確な目標の設定は、潜在的な力を引き出し、能力をつくり出す働きがあるばかりでなく、達成の心理的満足感や充実感をも与える機能があるのです。

さらに、目標を小ステップ化することも、力を発揮し、能力をつけるためのコツです。

工場の見習い工が二グループに分けられました。

第一グループは、熟練工の作業水準とされていた最終目標だけが示されました。

彼らは14週間たっても、目標のやっと66パーセントに達したにすぎませんでした。

これに対し第二グループの見習い工たちには、最終の水準が示されると同時に、毎週、中間目標が与えられました。

このグループの見習い工は中間目標の達成を追求しているあいだに、14週間後にはやすやすと最終目標を上回ってしまいました(松井 『リーダーシップ』ダイヤモンド社 1982)

このように、自分の能力について考えるとき、明確な中間目標をたてることが大事です。

そして、時間が私達に与える可能性を信じることです。

すぐに実現しようとすると絶望的なことでも、時間をかければ可能になるのです。

時間が可能性を開くのです。

車の運転を考えてみてください。

生まれて初めて運転したときは、エンジンをかけることさえうまくできませんでした。

スムースなスタートさえできませんでした。

ところが、ほんの何時間か乗ると、そんなものはなんでもなくなりました。

今では、そんなことに悩んだことさえ嘘のようです。

こうして自己実現を追求していけば、好きなことで食べていくことも夢ではありません。

創意工夫さえともなえば、生活費を稼ぐ程度の収入にならないものはないと思われます。

好きなことを職業にできたら、こんなすばらしい人生はありません。

人と接することが喜びとなる

私達はもともと人と接することを歓迎する心理傾向を持って生まれてきたのです。

人と接することをおそれる心理とは、誕生後の不自然な環境によってつくられてしまったものです。

したがって、不自然な環境が取り除かれ、好循環が作用し始めれば、心の底にある人と接することを喜ぶ心がしだいにベールを脱いで広がっていくものなのです。