神経症と社会的ひきこもり

対人恐怖症のひきこもりはこちらを参照

強迫症状のひきこもり

強迫症状は、本来強迫神経症と呼ばれる病気の症状です。

無意味な行為や無意味な観念への強いこだわりを意味しています。

行き過ぎた几帳面さのイメージが比較的近いでしょう。

ガスの元栓を締めたかどうか、わかっていても何度も確認したくなったり、本やノートの角をきちんと揃えておかないと気が済まなかったり、外出してくると手を何度も洗わずにはいられなくなったりするという症状です。

また、ある特定のイメージや言葉を何度も思い浮かべずにはいられない、という症状もあります。

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こちらは強迫観念といわれるものです。

立派な人の前にくると、その人の下品な姿を想像せずにはいられなくなる、といった経験は多くの人にみられますが、その極端な形と考えてよいでしょう。

ひきこもり状態には、こうした強迫傾向が伴うことがしばしばあります。

いま述べたうちでは、強迫行為のほうが多いような印象があります。

調査結果でも「強迫神経症症状」は、ひきこもりの53%に伴っていました。

この強迫症状は、ひきこもりが長期化した事例ほど多くみられるようです。

また、強迫行為のみが原因でひきこもっている事例は少なく、むしろひきこもり状態から二次的に生じた可能性が高いように思われます。

例えば長期間ひきこもりつつ強迫行為をやめられなかった患者さんが、入院すると間もなく強迫症状が消えてしまうことがあります。

この点からも、ひきこもりの強迫症状は、強迫神経症のそれとは、少し異なっているように思われます。

激しい強迫行為は、しばしば暴力を伴います。

とりわけ成田善弘氏が「巻き込み型」と呼ぶタイプのものでは、強迫行為を親に代行させようとするため、本人も家族もくたくたになります。

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臨床現場でも、自分があるものに触っていないかどうか、何度も母親に確認したり、確認の質問を正確にいえなかったりすると、何度でも最初からいい直したりする事例がありました。

また清潔さにこだわって、手を何度も洗わずにはいられないために、手の皮がいつも剥けたような状態になっていたり、ドアノブやテレビなどのリモコンに直接触ることができず、ティッシュでつまんでいたりする事例もありました。

口の中に唾液がたまることに我慢できず、それを室内で吐きちらしてしまう事例、あるいはまた、室内に尿をせずにはいられないといった、かなり強い程度の強迫症状もありました。

とりわけ、強迫的な確認行為は、しばしば母親が代行させられることが多く、母親が少しでもそれを拒否すると、激しい暴力に及ぶ、といった事例もめずらしくありません。

これほど極端な症状でなくとも、食事や入浴の時間にきわめて厳格で、数分でも遅れると激しい暴力がはじまったり、自分の通り道をいつも綺麗に整頓しておくことを要求するなど、比較的軽いものは頻繁にみられます。

多くのひきこもり事例が自分の体の不潔さに無頓着のようにみえるとすれば、それは清潔さへのこだわりが行き過ぎてしまった結果であることが多いようです。

例えば入浴するさいにも、あまりに念入りに洗おうとするため、入浴だけでも何時間もかかってしまう、といった事例がよくみられます。

こういう症状を持つ人たちは、入浴するだけでくたくたになってしまうため、逆にめったに入浴しなくなります。

また多くのひきこもり事例では、他の家族の不潔さにこだわるのに、自分の部屋はモノやごみで一杯の状態になっていることがあります。

さきほどの入浴の例と同様に、部屋の片づけをはじめても、それをあまりにも完璧にこなそうとするため、何度はじめても頓挫してしまうからです。

このため、ひきこもり状態の事例では、行き過ぎたきれい好きのために本人は逆に不潔になったり、きわめて乱雑で不潔な部屋で生活しているといったような、皮肉な事態がしばしばみられます。

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不眠と昼夜逆転の引きこもり

これらも、ひきこもりの事例にはほぼきまってみられる「症状」といってよいでしょう。

調査結果では、「不眠」のため一時的にせよ睡眠薬の使用を必要としたものが68%で、「昼夜逆転」傾向がみられたものが81%でした。

この症状も、ひきこもり状態から起こってきたものと考えてよいでしょう。

これには生理的な理由と心理的な理由とが考えられます。

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まず生理的な理由からみてみましょう。

人間の体は、昼間の活動中は交感神経が優勢なのですが、睡眠中は副交感神経が優勢に切り替わります。

つまり、緊張状態では交感神経が、リラックスした状態では副交感神経が優位になるようになっています。

しかしひきこもりの生活では、起きている時間もほとんど無為にテレビなどをみて過ごすようなことになりがちで、この緊張-リラックスのメリハリが曖昧になってしまいます。

このため自律神経のバランスが崩れ、さまざまな身体症状となって現れてきます。

その代表的なものがこの「不眠・昼夜逆転」です。

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日中の緊張や疲労を、夜間睡眠によって解消するというサイクルが壊れやすいのには、もう一つの理由があります。

人体には体内時計が備わっており、これが一日のリズムをつかさどっているのですが、この体内時計を調整するのが日光です。

昼間、日光に当たることで、体内時計の周期が正常に保たれます。

ひきこもった生活では、日光に当たる機会も極端に減ってしまいますから、このことも昼夜逆転に拍車をかけることになるでしょう。

さらに昼夜逆転には心理的な理由もあります。

社会的ひきこもり状態にある人たちは、自分の置かれている状況に深い劣等感を持っています。

世の中が活発に動いている昼間の時間帯は、こうした強い劣等感やひけめを意識せずにはいられません。

つまり彼らは、昼間起きて無為に過ごすことの苦痛に耐えられないのです。

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このため、自然に夜更かしをするようになり、またさきににもふれた生理的な理由からも不眠の傾向が強まっていますから、生活時間は次第にずれ込んで、ついにはすっかり逆転してしまうのです。

午後2~3時に起き出して、明け方に眠るという生活が平均的な彼らの生活時間となります。