ひきこもり青年の生活のトラブル解消法

ひきこもり青年の生活上の支障

だらしない生活をさせておいていいのか

ひきこもって三年になる息子がいます。

毎日夕方まで寝ていて、起きてきたかと思えば、テレビを観るかゲームをしてばかりです。

部屋も散らかって足の踏み場もないのですが、親が掃除をするべきでしょうか。

このようなだらしない生活をいつまでさせておくべきなのでしょうか?

ひきこもり状態が長期化するにつれて、生活全般に「だらしなさ」が目立つようになることがしばしばあります。

しかし、だらしないことは症状ではありませんし、そこだけ直そうとあれこれ指図してみても無理があるでしょう。

「生活が不規則」「部屋が汚い」などと注意してそれだけ正そうとしても、対応上のメリットはほとんどありません。

こうした生活態度のような表面的な部分にとらわれたままでは、ひきこもりの本質はなかなか見えてきません。

そのような態度を不愉快に感ずる気持ちは理解できますが、直接の迷惑行為でなければ、まず一度は、そうした「だらしなさ」をまるごと受け入れることが、克服にあたっての基本的姿勢ということになるでしょう。

昼夜逆転に代表される生活の不規則さについても、そこだけご家族と同じようにさせることの意味はほとんどありません。

こうした逆転が起こるにはさまざまな理由があります。

ひとつは生物学的理由で、昼間太陽光線に当たらないため、体内時計が狂ってしまうことから日内リズムがずれてしまうというもの。

もうひとつは心理的な理由です。

ちょっと想像してみていただきたいのですが、もしあなたが職を失い行き場もなく、ひとり平日の昼間に自分の部屋の中で過ごすことになったら、どんな気持ちになるでしょうか。

きっと、いたたまれないような焦燥感や、世間がどんどん自分を取り残していってしまうような不安感を感じるのではないでしょうか。

ひきこもっている人たちは、どのほとんどが、こうした不安や焦燥感の中で日々生活しています。

そうした感覚は、世間が忙しく活動している平日昼間の時間帯に最も強くなるでしょう。

いきおい彼らは、昼間の苦痛を避けるために、夕方に起きて深夜に活動し、明け方に眠るという生活に移行していきます。

これは意図的にそうしているというよりも、朝どうしても起きられなくなるという形で徐々に生活時間帯がずれ込んでいくのです。

考えてみてください。

ひきこもっている青年たちがせいぜい頑張って早起きしたとして、それがさしあたり何の役に立つでしょうか。

早起きは必要に応じてすればいいのです。

ひきこもり生活においてのぞましい起床時間は、だいたい正午くらいが理想です。

夕方起床となると、さすがに体内時計に響きますから、いちおう日が高いうちに起きておくほうがいいでしょう。

正午起床という形である程度リズムができていれば、なにか必要があって早起きすることもそれほど苦痛にはならないでしょう。

さいわい、昼夜逆転という生活習慣は症状ではありません。

ひきこもり状態の改善と並行して、自然に回復するものです。

その点からも、あまり心配される必要はないでしょう。

それと、次の項目にも書きますが、部屋の掃除はいかなる場合も、かならずご本人の同意をとりつけてから行うのが原則です。

ご本人にとって、部屋は「城」であり、「聖域」です。

どんなに汚い部屋であっても、勝手に入り込んで掃除をしたり、ゴミを勝手に捨てたりすることは感心しません。

「だらしなさ」を受け入れるということは、ご本人のプライバシーを尊重することにつながります。

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留守中に部屋を掃除したら怒られた

本人の部屋があまりにも乱雑で汚いので、留守の間に掃除をしたらひどく怒られてしまいました。

よかれと思ってしたことですが、やはりやめておくべきだったでしょうか?

ご本人との信頼関係を築くためには、ご本人のプライバシーを確実に尊重する姿勢を示していく必要があると思います。

そのための第一歩は、まず「本人の部屋」というテリトリーをみだりに侵さないことです。

個室はご本人の城であり聖域です。

どれほど乱雑で汚い部屋であっても、断りもなく勝手に入り込んで掃除したり、ゴミを勝手に捨ててしまったりすることは感心しません。

まして日記を盗み読みしたり、なにか刃物を隠していないか捜索することはもってのほかです。

なにか特別な事情があって、ご本人との対決覚悟でされているのなら仕方ない場合もあるでしょうが、けっして安易な気持ちではしないことです。

プライバシーの尊重については、ほかにも「ノックもせずにドアを開けないこと」「ノックしても返事を待たずにドアを開けたりしないこと」「声をかけるときは必ずドア越しにかけること」など、配慮すべき点は多々あります。

他人行儀と思わずに、こうした点からしっかりと対応することで、はじめてご本人は個人として尊重された感覚を持つことができるでしょう。

「公正さ」という点から補足しておくなら、プライバシーの境界をはっきりさせるためにも、お茶の間のような共有の場には、できるだけご本人の物を置かせないことも大切です。

これも「受容の枠組み」をあきらかにするうえで欠かせないことです。

六年分も新聞をため続ける息子

三十三歳の息子です。

約六年分の新聞をすべて自分の部屋に積み上げ、ドアの開閉もできない状態です。

片付けを手伝うというのですが、ウンとは言っても行動に出てくれません。

このまま見ぬふりをするか、新聞購読を中止するか、迷っています。

強制的に片づけたり、購読を一方的に中止することは、ご両親への不信感や決定的な断絶につながるおそれがあります。

強行策に走るのではなくて、まず受容の枠組みをしっかりしてください。

ここでの「枠組み」としては、「自室以外には絶対に物を置かせない」ということになります。

新聞が溜まり過ぎれば、いつかは他の部屋にもあふれてくることは必至です。

しかし親御さんの姿勢として、自室以外のところに自分のものを置くことは絶対に認められない、という点はきちんと告げてください。

あらかじめ告げておいたうえで、もしそれでも置きはじめるようなら、その分に関しては勝手に処分してしまってかまいません。

強迫行為には、行動療法的なアプローチとして、行動範囲の枠付けや限界設定をしたうえで、その範囲を少しずつ狭くしていく方法も有効とされています。

ご相談のように大量にものを溜め込んでしまう場合にも、枠付けをしたうえで可能であれば範囲を狭めることを考えたほうが良いと思います。

ときどきこうした「症状」を示す方はいますが、単純に「ひきこもり」だけでは説明がつかない病理を抱えている可能性もあります。

ですから、もちろん克服への試みへの促しも並行して進めていただきたいと思います。

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ひきこもり青年が秘めたものを理解する

親への命令をどのように受けたらよいか

息子はひきこもって六カ月目の十六歳です。

買い物ぐらいは自分で行ってほしいと思うのですが、私に「買ってこい」と強い口調で命令するので、つい負けて買ってきてしまいます。

これでいいのでしょうか。

お小遣いの原則は守られていますか。

もし原則なしで「欲しいときに欲しいだけ」という対応をされているのなら、まずそこから仕切り直しをしてください。

もちろん、買い物に費やした金額は、その都度お小遣いから差し引くことをご本人にも伝えるようにしてください。

買い物に行くかどうかは、その次の問題です。

買い物の代行は、絶対にまずいというほどのものではないのですが、もちろん言いなりになるのは考えものです。

買ってこいと言われたら「一緒に行きましょう」と誘ってみるのも一法です。

また、時には「今日はくたびれているから」と言って断ることがあってもいいでしょう。

命令口調がストレスになるのであれば「もう少し丁寧な言葉遣いで話してくれると嬉しい」とお願いしてもかまいません。

なにかを買ってきてあげたら、そのお返しとして肩をもんでもらったり、家事を手伝ってもらうなどを頼んで釣り合いをとるということもあってよいと思います。

いずれにせよ、親子といえども公正な関係を維持するためには、親御さんの側でも「断る自由」は確保しておかれたほうがよいと思います。

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本を勧めてみたら大声で叫びはじめた

本人は二十四歳の男性で、現在は通院しており、デイケアにも参加しています。

親も家族会に参加しながら待つ姿勢で対応してきました。

ここ数ヵ月落ち着いてきて良い方向に向かいつつあるようだったので『僕らが働く理由、働かない理由、働けない理由』という本を息子に読んだらどうかと勧めたところ、「お前は何もわかってない、もう終わったんだ」と大声で叫びはじめました。

なにがいけなかったのでしょうか。

『僕らが働く理由、働かない理由、働けない理由』(稲泉連著、文春文庫)は、けっして「いかに働くべきか」といった単純な内容のものではなく、むしろひきこもりやフリーターの若者たちが抱える悩みや葛藤を描いた好著だと思います。

ただ残念ながら問題は、これを親御さんがご本人に勧めた、そのタイミングです。

ご本人が腹を立てる理由がおわかりでしょうか。

本の内容いかんにかかわらず、ご本人は、理解してくれていると思っていた親御さんが、実はまだ自分を働かせようとしているのか、と絶望感を感じたのでしょう。

一般に、今抱えている問題にあまり近すぎるテーマを扱った本は、うかつに薦めないほうがいいように思います。

むしろ「ひきこもり」や「就労」とは何の関係もない、しかしお父さんが若い頃に読んで感動した小説などを薦めるほうが、交流としても実り多いものになるでしょう。

たとえばもしご本人が、「なぜ働かなければならないのかわからず悩んでいる」と訴えてきたときに、この本が差し出されたのなら、むしろ感謝してくれたかもしれません。

ご本人への共感性や、本の選択という点では問題なかったのですが、ちょっと先回りしすぎたという印象はあります。

不用意に本を薦めたことを謝って、もう一度良い関係性を取り戻す努力からはじめていただきたいと思います。

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つい当人を責めてしまう

中学からひきこもって九年になる二十三歳の息子がいます。

本人も家族も通院はしています。

本人がだらしないことをしていると、私がついうるさいことを言って、本人を傷つけてしまうことが続いています。

父親も同様で、飲酒した折などに、本人に理不尽なことを言って責めたりするので困ります。

たしかに小言や暴言でご本人を傷つけてしまうことは大いに問題です。

ただ、ご両親はこうした問題点についての自覚はおありのようですから、その解決も必ずしも不可能ではないと思います。

もし本気で解決を望むのでしたら、一度ご家族で話し合って、ご本人に「もう叱ったり批判したり、余計なことは言わないように気を付ける」と約束することです。

場合によっては、約束事項を紙に書いて、居間の目立つところに貼っておいてもいいでしょう。

それでもうっかり口出しをしてしまったら、あとで必ず謝ることです。

どうしても小言がやまない場合は、ペナルティを設けることも一つの方法です。

内容は罰金でも何でもいいのですが、飲酒で出てくる暴言については、禁酒がいちばんいいでしょうね。

こうして、まず親御さん自身が本気で変わろうとしている姿を見せていくことで、ご本人にも良い影響が期待できると思います。

ちなみに、ご家族がご家庭で飲酒することを、ひきこもりの人は一般に嫌います。

ご本人と一緒に飲むことができる場合とか、晩酌にちょっとだけとか、ある程度許容できるケースもあります。

お酒が好きな方に、子どもの克服への試みのために禁酒せよとまで過酷な要求をするつもりはありません。

ただ、飲みたければ外で飲み、できるだけ酔いを醒ましてから帰宅するといった心がけはあってもいいと思います。

極端になると、自宅で連日飲酒して、飲酒のたびにご本人に絡んでは暴言を吐いて傷つけることを繰り返すようなお父さんもいました。

そのような場合、ご本人の克服への試みに先立って、お父さんにアルコール依存症の専門医を紹介することになるケースが多いです。

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ひきこもりの原因と克服の兆し

自分より他人を優先してしまう息子

現在二十歳の長男は高三から不登校、そのまま二年間ひきこもっています。

親のみ精神科へ通いはじめ、本人にも声をかけている段階です。

幼い頃から自己抑制が強く、自分より他人の意向を優先する傾向がありました。

いま家にいても、表面はくつろいでいるかのようですが、私が仕事で忙しくしていると、遠慮したり気配りしたりしている様子です。

感情を解放させのびのびしてほしいのですが、どう対応すればいいでしょうか?

ご本人はおそらく、昔から手のかからない良い子だったのでしょうね。

気持ちが優しすぎて対人関係やご家族の雰囲気に気を遣い、配慮をしすぎる傾向が強いのかもしれません。

ですから、おっしゃるとおり、ご家庭内でも遠慮などから緊張がとれない状態が続いているのだと思います。

こうした傾向は、長年かけて出てきたものですから、ちょっとした工夫でガラッと方向転換するのは難しいと思います。

また、別にこの性格が決定的な短所というわけではないので、無理に変える必要もないでしょう。

これまで述べてきたように、ひきこもりの方への家族対応の基本方針は、ご家庭内で安心してひきこもれること、つまりリラックスさせることですね。

ご本人がしばしば緊張したり不安になったりしているとすれば、それは家族の雰囲気を先取りしてそうなっているのかもしれません。

その一因が、ひょっとしたら普段の会話の乏しさにはないでしょうか。

もし話し合う機会が少ないようなら、まずは十分な会話からです。

また、遠慮や気遣いが強い場合は、むしろ家事の手伝いなど、積極的に頼んでみたほうがよいと思います。

ご本人はおそらく、ご両親に対して強い「負い目」を感じていると思います。

頼み事は、そうした負い目を中和するうえで役立つことでしょう。

ご本人のように対他的配慮ができる方は、かなり早い時期に治療・相談にいたる可能性が高いと思います。

その日を待ちつつ、じっくりと腰を据えて対応してみてください。

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趣味に没頭している息子

二十四歳、長男、ひきこもり三年です。

最近になって熱帯魚にはまってしまい、本人の誕生日に水槽を買ってあげたら、いっそう本格的にやりだして、私(母親)はそれを手伝ったりしている毎日です。

言いなりになりすぎてはいないか、少し心配しています。

ひきこもりの人が趣味を持つことは大きな救いです。

ほとんどのケースでは没頭できる趣味すらなく、漠然とテレビやゲームで過ごしていることが多いからです。

これは心理的な余裕のなさも一因ですが、抑うつ気分などによる集中力の低下も関係しているように思います。

克服への試みの中で、趣味を持つことを仕事やアルバイトに行くこと以上に評価しています。

ある意味でそれは、仕事やアルバイト以上に困難なことであるからです。

また、安易に就労のほうへ進んでしまうと、もはや趣味などと悠長なことを言っている暇はなくなってしまいます。

ですから私は、まだ時間的ゆとりがあるうちに、なんらかの趣味を見つけることを推奨することが多いのです。

趣味の効用は、もちろんそれだけではありません。

趣味の存在で親子間のコミュニケーションも進めやすくなります。

そうした視点からみると、ご相談の状況はかなり良いのではないでしょうか。

ぜひご一緒に熱帯魚飼育を楽しんでいただきたいと思います。

それが「言いなり」かどうかの判断については、難しいところもありますが、やはりお金を目安にしたほうがいいでしょう。

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どんどん出費がエスカレートするようであれば、もちろん一定の制限は必要です。

また熱帯魚の世話にしても、大切なところをすべてお母さんに任せているような態度では、あまり趣味を克服への試みに生かすことができません。

趣味を通じて親子の会話がいっそう豊かになされているかどうかが、「言いなり」かどうかの判断の指標になると考えます。