相手の身になって話しやすい人になろう

相手の身になるとは

相手の身になってみる心理

私たちは、自分の話に謙虚に耳を傾けてくれる人に好意を持ち、心を動かされます。

人に受け入れられるのに、しゃれた会話ができる必要はありません。

人を動かすために、弁舌さわやかである必要はありません。

セールスにおいても、話し上手な人ほど成績が良いということはないそうです。

話し下手でも、誠実に対応する人の方が、相手の心にしみいるのです。

このことは、心理学の抵抗理論で説明がつきます。

相手が「立て板に水」だと、相手によって自分の心が動かされたと感じてしまい、それに抵抗したい心理が働きます。

ところが、相手の人が話し下手だと、自分から進んで心を動かしたと感じるので、抵抗が働くことが少ないのです。

研究によれば、会話の75%は無視されるか、誤解されるか、すぐに忘れられるということです。

実際、会話を少し注意して聞いてみれば、次のようなことが頻繁に行われているのがわかります。

・相手がしゃべっているのに、さえぎって話し始めてしまう。

・相手がしゃべっていることと関係のない話をしゃべっている。

・相手の話を受けたようにみえながら、実際には自分の話題をしゃべり始める。

・相手がしゃべったことに、すぐに評価を下してしまう。

人は誰でも自分に関心を向けて欲しい、認めて欲しいという基本的な欲求を持っています。

相手の話をきちんと聞いてあげることは、この基本的な欲求を満たしてあげることです。

カウンセリングにおいても、傾聴といって、このことをもっとも基本的なこととして重視しています。

また、ある研究では、対人場面における言葉の役割はせいぜい20%ほどであり、大部分は非言語的メッセージにより伝えられるということです。

つまり、なにを話すかよりも、表情や仕草、姿勢などの方がはるかに重要なのです。

ですから、しゃれた話ができるよりも、「しっかりと聞いています」ということが伝わるように留意することが求められるのです。

私たちは、相手の話を聞いているつもりでも、実際にはあまり聞いていません。

次になにを話そうか、なにを話したら有能だと思われるか、これを話したら品性の低い人と思われるだろうかなどと、相手の話よりも、自分の方に関心を向けてしまっていることが多いのです。

お笑いは、ボケに対するツッコミがあって成立します。

いくら優秀なボケ芸人でも、突っ込んでくれる相手がいないとうまく笑いを取れません。

日常の会話も同じです。

相手の話に適切なタイミングで反応を返してあげることで、スムースな会話が成立するのです。

相手の話に「関心を持って聞いていますよ」というメッセージを返してあげるようにすればよいのです。

そのためには、できるだけ相手の気持ちになって聞こうとすることです。

具体的には、「私がその立場だったら、どんな気持ちがするだろうか」と、自分に問いかけながら聞くことです。

人それぞれ、自分の人生を抱えて生きています。

それがその人の話の内容になり、感情になります。

その感情に共感してもらえると、自分が大事に受け入れられていると実感し、そうしてくれる人を身近に感じるものなのです。

話し手ではなくて、聞き手になることは、自分を相手の下に置くかのように感じる人がいるかも知れません。

そんなことはないのです。

偉大な成功を収めた多くの人々を研究したダビッド・J・シュワルツという人は、つぎのように書いています(『大きく考えることの魔術』桑名一央訳、実務教育出版)。

「各方面の何百人という人々とのインタビューから、私は次のような発見をした。-その人が偉大であればあるほど、その人はあなたに話させるように仕向けてくる。

ところが、その人が小さければ小さいほど、その人はあなたにお説教をしがちである」

「偉大な人は聞くことに専念する。小人は話すことに専念する」

あなたは誠実な人なのですから、にこにことうなずきながら、相手の身になって話を聞いていれば十分なのです。

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話しやすくするためには

以下のことを心がけると、相手の人が話しやすくなり、スムースな会話が成立します。

「聴いているよ」という明確なメッセージを送る

「うん、うん」「はい」「なるほど」「ええ」などの相づちをうつとか、首を縦に振るなどして、「聞いています」というメッセージを送りながら聞きます。

アイコンタクトするようにと助言されることがありますが、無理にする必要はありません。

感情は特に目の周辺に表れやすいので、アイコンタクトすると自分の緊張した気持ちを相手に押しつけることになり、お互いに気まずく感じることがあります。

むしろ、相手の目よりも口元や首のあたりに視線をやって、少し顔をかしげるぐらいの方が、お互いに安心することが多いようです。

素直な共感を表現する

話を聞く時も自己防衛や見栄を捨てて、「あるがままの自分」で聞こうとすることが基本です。

そんな姿勢で聞いていると、自ずといろいろな感情が浮かんできます。

それを素直に表現するのです。

すると、「大変でしたね」「がんばりましたね」とか、「そうだよね~」「うん、わかる、わかる」などの共感の言葉になります。

「すごいな」「えらいな」など、賞賛の言葉になることもあります。

「え、どうして?」などの疑問の言葉になることもあります。

「きっと、大丈夫ですよ」「焦らないで、がんばってください」といった援助や激励の言葉になることもあります。

いずれもその場、そのときにふさわしい言葉になります。

なにか相談をされたときにも、まずは共感の反応を返すことです。

「それはお困りでしょう」「難しい問題ですよね」

仕事の上での相談にしても、根底では共感を求めていることが多いのです。

ですから、解決案を出すのは、共感の時間をおいてからにします。

相談されるとすぐに解決案を提案してしまうのは、しばしば自分の優秀さを示したいがためです。

すぐに解決策を提案されると、相談した人は自分の能力を軽んじられた感じがしたり、「私の感情には関わりたくないのだ」と拒否されているかのようにかんじたりします。

また、ちょっと聞くのがつらい話のときに、相手の人があなたの表情を読んで、「この話、これ以上聞きたくないんじゃない?」と聞いてきたとき、相手に負担を負わせないようにとの配慮から、自分の感情を言葉では否定することがあります。

しかし、そうした配慮は、かえって相手に心づかいをさせることになりがちです。

なぜなら、「この人の言葉はそのまま受け取れない。

本心を推し量らなければ」と思わせることになるからです。

むしろ自分の感情を率直に伝えた方が、相手の方は安心します。

「はい、そのお話を聞くのはちょっとしんどいですね。

でも、それを直接体験したあなたの方が大変なのですから、聞かせてもらいますよ」

共感しようとしながら聞いていると、相手が言葉に詰まったときに、「〇〇〇ということ?」などと、相手が言いたいことを適切な言葉で表現することができます。

すると、相手の人は「そう、そう。そうなのよ」と確かに理解してもらっていることがわかって、感激します。

開いた質問をする

質問には「はい・いいえ」で答えられる閉じた質問と、「はい・いいえ」では答えられない開いた質問とがあります。

会話を途切れさせないためには、閉じた質問ではなく、開いた質問を心がけることです。

「あるがまま」の姿勢で聞いていると、もっと詳しく聞きたくなったり、理由を聞きたくなったり、その後のことを知りたくなったりします。

そんなとき、率直に質問することです。

それが、話の流れに乗った、開いた質問になります。

「え、どうして?」
「それでそうなったんですか?」
「そこのところをもっと詳しく」など。

話の中でわからないことがあっても、相手を気遣ってわかったふりをして済ますことがあります。

それは聞き流すことなので、わからなかったら素直に「どういうこと?」と質問することです。

ただし、相手が話したいことがあるのにその腰を折るような質問は、当然控えなければなりません。

また、プライバシーに関わるような質問をあまり繰り返すと、無遠慮に自分のなかに踏み込まれるように感じ不快になるので、避ける必要があります。

答えに一言付け加える

質問に答えるときに、「はい」「いいえ」だけで終わらせると、それで会話が途切れてしまいます。

そんなとき、なにか一言付け加えるだけで、会話が継続しやすくなります。

付け加えには、感想よりも、事実を述べるとその後の会話が展開しやすいものです。

たとえば、「日曜日に〇〇のイベントに行ったそうですね」と問われたとき、

「はい。でも、あまり面白くありませんでした」と答えるよりも、
「はい。でも、意外に人が少なくて、どこのブースも閑散としていました」などと答えることです。

こう答えると、「日曜日なのになぜ?」「やはり不況の影響?」「イベントの工夫が足りないせい?」など、いろいろな疑問が湧いてきて、話題の材料になります。

相手が話したことを繰り返す

相手の人がなにか話したいことがあるように感じた時は、相手の話したことを繰り返してあげると、有効な場合があります。

たとえば、「例の仕事、やっと終わったんだ」と、相手の人が言ったとします。

このとき、相手の心を安易に推し量って「よかったわね。ご苦労様」と返すと、それでその話題は終わってしまいます。

といって、声の調子から、大仕事が終わったという高まりよりも沈んだ様子が感じられるので、「なにかしゃべりたいことがあるのかな」と思い、「何かあったんですか?」と真正面からきくと、「いや、別に」と、相手は話したくなくなってしまいます。

こんなときに、「そうですか、終わったんですか」と、共感を示しながら相手の話を繰り返してあげるのです。

そうすると、その話題は継続しており、相手の人は話してもいいし、話したくなければ話さなくていいという選択の自由を与えられます。

そのために、強制された気持ちが起きずに話しやすくなるのです。

ただし、相手の言葉をただ繰り返すと、相手の人は馬鹿にされているように感じることがあります。

あくまでも「あなたの心をしっかりと受け止めていますよ」というメッセージになるように、心を込めて繰り返してあげることです。

相談する

相手を信頼し、尊敬して、相談する形で話を聞くことは非常に役立ちます。

「今度〇〇の担当になったんですが、どんなことに注意して取り組めばいいですかね?」などと。

経験豊富な人の話を聞くことは、興味深いことが多く、参考になります。

また、ふだん無口な人でも、専門のことになると雄弁になることが少なくありません。

専門のことならいくらでも話せるし、話したいという欲求を持っている人は多いものです。

自己開示する

自己開示とは自分について語ることです。

親しくない人には見せない自分の内面や個人的な事情を語ることです。

「今の仕事が自分に合っているのか、じつはとても悩んでいます」などと、人間味を表現することであり、しばしば弱みを見せることでもあります。

じぶんが傷つく可能性があるのに内面を語ってくれたということで、相手の人もまた防衛の姿勢を解くことができ、深い感情の交流への道が開かれます。

個人的なことを知り合えば、親しみが増します。

深く知り合うほど愛情が強まります。

●まとめ

相手の身になって話を聞こう。

相手が話しやすいように反応しよう。