自己実現は自分でつくる自分の人生

自己実現とは、自分の本性の現れの必然的な結果です。

自分が本当にしたいことを行い、その行いのなかで諸能力の獲得がなされ、行い自体から充実感を得ることができ、業績としての結果ではなく、自分自身の能力の拡大を楽しめる事、このことが自己実現なのです。

ですから、自己実現の生き方とは、自分の本性としての欲求から自分なりの人生の価値を見直し、自分なりの価値を追求する人生に意識と行動を向けていく生き方なのです。

自己実現は他の人から評価されなくともよいのです。

自己実現とは自分の好きな人生を自分の好きなように生きることです。

こうした生き方こそが、私達に真の喜びと充実をもたらすのです。

自己実現とは、他の人の目から見た人生を生きるのではなく、自分の目で自分の人生を生きることなのです。

自己実現の生き方をしている人は、自分の人生を受け入れ、生きることを楽しんでいます。

自己実現の生き方をしている人は、自分独自の世界に価値を実感し、生き生きと充実した生活を楽しんでいます。

あるところに自己実現の生き方をしているFさんという女性がいました。

彼女は、高校三年生のときに父親が急死し、大学進学をあきらめ就職しました。

結婚して子どもが生まれ、やがて子どもたちも少し大きくなり手がかからなくなると、R大学に社会人一期生として入学しました。

また、二十代後半からバレエを始めました。

これがFさんに合っていたらしく、いまではバレエに夢中で、舞台で踊ったり、イギリスにバレエのレッスンを受けに行ったりと、多忙の身です。

将来は子どもたちのためのバレエ教室を開く夢をもって、自己実現に、生き生きと日々を送っています。

自己実現の生き方をしている以前、ある大学の数学の助教授は、優れた研究は二、三十代でないとできないと言って、四十代に入るとフランス語の通訳に商売替えをしました。

おかげで、大学教授であれば絶対に経験しないような多様な経験を楽しんでいると自己実現の生き方をしています。

自己実現の生き方をしているT大学の化学教授だったNさんは、定年を数年残して退職し、奥さんの実家に帰って農業を始めました。

いまでは農業のかたわら塾を始め、近所の子ども達を集めて、自分の思う通りの教育を楽しんでいるという自己実現の生き方をしています。

自己実現の生き方をしている出版社のTさんは山が大好きで、四十代半ばで編集長をやめ、穂高の麓の町に移り住みました。

地元の小さな会社に就職し、出版社時代に夢見ていたゆったりした生活を楽しんで自己実現の生き方をしています。

自己実現の生き方をしている、ある女子学生は、両親が行くはずになっていたタイ、ベトナムを回るパック旅行に、急用で行けなくなった母親の代わりに参加しました。

ほんの軽い気持ちで参加したのに、そこで見た人々の生活の大きなショックを受け、自分の生き方を考えるようになりました。

そして、大学卒業後に看護学校に入学しなおして看護師の資格を取り、いまではボランティアとして外国の医療団に参加して自己実現の生き方をしています。

このように自分の生き方を自分ですきなように選択する自己実現の生き方は、すべての世代に確実に広がっています。

ある大学教授は四十代半ばで国立のC大学から小さな私立大学へ転出しました。

教授の専門の研究が一区切りついたことと、ちょうど二十年勤めてマンネリズムを感じたことなどがその理由でした。

また、マンモス大学すぎて、大学にアイデンティティを持ちきれないもどかしさもありました。

教授の恩師はH先生といって、大変面倒見のよい先生でした。

教授がC大学に就職するときにも、H先生の力添えが大きかったのです。

それなのに相談もなく私学へ転じることになり、その挨拶に行くと、「そりゃ君、自己実現だよ」と快く選択を激励してくれたものでした。

現在、小さい家庭的な大学の良さを味わい、多くの優れた女性研究者を知ることができ、また、なによりも学生の良さにリフレッシュされた感じで勤務しています。

そして、若い人達のために心理学を分かりやすく紹介する仕事を、自己実現の実感とともに楽しんでいます。

自分の人生を決めかねるという若い人がいるかもしれません。

その人たちのために、ある大学の教授のK氏のことをお話しておくのは参考になるでしょう。

K氏の恩師もH先生です。

K氏の大学卒業時は就職難で、とにかく就職できればと就職試験を片っ端から受け、受かった楽器会社に就職しました。

しかし、入社前の実習で早くもイヤになり、H先生に相談しました。

H先生はそれでは学士入学をして、自分の道をあらためて模索してはどうかとすすめ、編入学試験日前日に会社に電報を打って、会社が休暇を出すように手配してくれました。

さいわいC大学の法学部に受かり、三年に編入学しました。

ところが、ほどなくしてH先生から警視庁科学検査所の就職口を紹介されました。

面白そうだというのでC大学を中退し、就職しました。

たしかに最初は面白かったのですが、結局、警察や検察の下請けなので、それならむしろ検事にでもなったほうが思い切りやれるという思いを抱くようになりました。

そこでH先生に相談すると、せっかく紹介した良い就職口なのにもかかわらず、やりたいことをするよう激励してくれました。

自己実現です。

それでまた八カ月勤めただけで退職してしまいます。

その後、浪人生活を経て司法試験に合格し、いまでは弁護士をやって自己実現に生き生きとしています。

このように、人生を生き急ぐ必要はないのです。

じっくりと自己実現の自分の道を探せばよいのです。

人と接する苦痛から解放され、自分の人生をつくり出すためには、自己実現という自分の好きなことをすることです。

自分の得意なことをすることです。

やっていて楽しい事をすることです。

楽しんですることです。

その自己実現があなたらしいあなたをつくり、大きな能力の開発をもたらすのです。