いつまでも自由気ままでいたいけれど

急増しているモラトリアム人間

大人になりたくない若者が増えています。

NHKの調査によると、中学生および高校生の53パーセントが「早く大人になりたいとは思わない」と答えています。
理由として、「子どもでいるほうが楽」「なんとなく不安」をあげる者が多くみられました。

大学生でも、大人として社会に出ることへの不安から留年をくりかえす者がしばしばみられます。
大学院に進学する者のなかにも、大人になるのを今しばらく延期したいとのモラトリアム心理を多分にもっている者が少なくないと思われます。

学校を出ても定職に就かずアルバイトを転々としている人や、就職はしても腰かけ気分で責任感の乏しい人たちの間に、そうしたモラトリアム心理が蔓延しています。

大人としての社会的自己をつくるのを拒否して、子どもとして自由奔放な存在でありつづけたいという思いがどこかにあるのです。

伝統的価値観が支配的だった時代なら、女性は二十代半ばには結婚し、やがて母親になるものという社会通念が、よきにつけ悪しきにつけ多くの女性の生き方をコントロールしていました。

三十歳近くになっても結婚しない女性は、周囲から異様な目でみられたのです。

ところが、女性の高学歴化や本格的な職場進出の進行により、二十代を独身で駆け抜ける女性がいてもおかしくないという雰囲気ができあがってきました。

仕事に本格的にうちこむために独身を貫くという女性もいますが、それはごく一部にすぎません。
多くは、このように多様な生き方が認められる自由度の高い時代の雰囲気に甘えて、なんとなく責任の軽いモラトリアムに浸っているのです。
職業人としての仕事、あるいは主婦として、母親としての仕事を引き受けることをためらい、責任のない自由な立場に甘んじているのです。

今の時代、高校生や大学生のアルバイトでもかなり稼ぐことができます。
二十代の女性がアルバイターとして働く場はいくらでもあります。
企業の側は、アルバイトを雇うばかりでなく、そうして豊かになった若い女性層を消費文化の担い手としてもてはやし、彼女らをターゲットとする商品開発を進めるのです。

こうして、アルバイターや腰かけ気分のOLでも、ブランド商品を手に入れたり、海外旅行に出かけたりする豊かさを享受できるようになりました。

べつに大人にならなくとも、自由気ままに行動できるし、欲しいものは手に入ります。

高校生を対象としたある調査で、自分が大人になったときの「大人の世界の色は」という問いに対して、「灰色」と答えた者が21パーセントと最も多くなっています。
大人の世界の魅力は色あせてきたのです。

大人としての社会的自己を引き受けずに経済力を得た者が、あえて自由を捨てて大人になろうと思わないのも無理のないことです。

友達と騒いだ後一人になったとき急に心細くなる人へ

しかし、やがて年をとることを考えると、ずっとこのままでいいと居直るわけにもいきません。
ときに、
「こんな生活をしていて私はいつか大人になれるのかしら」
「結婚できなかったらどうしよう」
「いつかは私を育ててくれたお母さんみたいに子どもを育ててみたいけど、私に母親がつとまるかしら」

などの不安が脳裏をかすめます。

それでも、今のままが一番楽な状態であることを知っていますから、結婚して責任ある役割を引き受けたり、時間面・行動面の制約を受けることから逃げ続けるのです。

今後の経済的めどが立ち、また一生一人で生きていく覚悟ができているのなら、それでもいいでしょう。
でも、ときおり不安に脅かされたり、友達と騒いだあと一人になって急に心細くなったりすることのある人は、ちょっと真剣に自分をみつめ直したほうがいいと思います。

今の家庭には、父性原理が欠けています。
あたたかく包み、慰め、すべてを受け入れる母性原理に対して、父性原理は厳しく裁き、切断し、鍛えていきます。
生まれ育った家庭のなかにぬくぬくと根をおろし、巣立つ力をもたない若い世代が増えたのも、家庭で父性原理が機能しなくなったからです。

親と自分とは一世代ズレています。

生涯親もとで保護されて生きるわけにはいかないのです。
それなのに、子どもをいつまでも自分にとってのかわいい存在としてペットのように手元に置こうとする親の側の問題でもあります。

大人になるとは、社会的役割を責任をもって果たすために自己限定をし、小さい頃からかわいがってきた自分およびその生活の一部を切り捨てることです。

経済的事情や伝統的価値観の圧力のもとでそれをせざるをえなかった時代と違って、今は自分で自分を切断しないと大人になれない時代です。
自由な甘い時代、すなわち厳しい時代でもあるのです。

自分のなかの甘えが発見できたら、さっそくあたたかな家庭から精神的に抜け出すことを計画しましょう。
もともと他人同士である父親と母親が築きあげたと同様に、あたたかな家庭を、あるいは社会を、今度は自分でつくれるようにならなければならないのです。

二十代というのは、育てられる世代から育てる世代への移行期と考えられます。
迷いもあって当然ですが、決断も必要なときです。