人の中にいるストレスのために、心身的症状で苦しむ人もめずらしくありません。
会社員のYさんは、一見したところ明るい、くったくのない美人さんです。
会社の人はみな良い人で彼女をかわいがってくれるのに、みんなと一緒にいるのがとてもつらいと言います。
彼女はもともと人のなかにいると緊張するタイプでした。
普段はくったくなく遊べるのですが、幼稚園や小学校の誕生会やお楽しみ会など、なにか行事のときには、ただ「自分に注意が向かないように」と身を縮こまらせていたと言います。
小学校の高学年ごろから、少し強迫的な傾向が出てきました。
たとえば、字を書く時に、罫線やますめにきっちりと書かないと気がすまず、何度も書き直したりしました。
また、シーツにしわがあると気になって、手で何度ものばしたりすることもありました。
こうした行為は中学2年ごろにはなくなり、その後はとくに自分で問題だと意識するようなことはありませんでした。
ところで、人をおそれる傾向が、会社に入ると再び現れてきました。
たとえば、人と接するとき「つっけんどん」にならないかなどと気になって、必要以上に気を使ってしまいます。
書類を何度も点検しないと不安です。
字も書き直すことが多くなりました。
もっとも、他の人からは「仕事が丁寧ですね」と言われる程度で、勤めていて問題になるほどではありません。
しかし、内心では失敗しやしないかと、いつもひどく心配しています。
こうした内心の緊張からか、もともと便秘気味の体質がいっそうひどくなってしまいました。
腸内にいつでも便が溜まっているような感じで、お腹が張り、おならが出そうになります。
じっさいおなかが鳴ることもあります。
あるとき、その音を他の人に聞かれ、そのときは笑ってすませましたが、内心ひどく傷つきました。
それ以来、ますます自分のお腹の具合に注意が集中してしまい、いまではお腹から注意がそれることはありません。
お腹の鳴る音が聞こえてしまうのではないか、おならが出てしまうのではないか、おもらしをしてしまうのではないか―気が気ではありません。
心配でトイレに行きますが、音を聞かれたり、臭いを気にしたりするので、おならを出すことができません。
すると、ますますおなかが張って苦しくなり、痛みを感じます。
こうした状態なので、会社の同僚に食事に誘われても気軽に行けません。
飲んだり食べたりしたら、いっそうおなかの具合が悪くなるのではないかと心配だからです。
友達に旅行に誘われるのも苦痛です。
いつでも、なんとか理由をつけて断っています。
二度、別の病院でみてもらいましたが、異常はなく精神性のものだと診断されました。
薬をもらって飲みましたが、いっこうに効き目はありません。
電話を受けるのも苦手です。
電話が鳴るとぎくっとします。
誰か他の人が取ってくれないかと、あたりを見回します。
ちょっと離れたところにいるときは、用事があるかのように部屋を出たりすることもあります。
一度、電話に出そこなうと、二度目の電話はいっそう恐怖です。
こうした症状は、会社を離れてしまうとわりあい平気です。
自宅で電話を受けることはなんでもないと言います。
このように、人との緊張が消化器系や排泄器系の障害をもたらすことは少なくありません。
会食障害といって、友達と一緒だと食事ができない人がいます。
トイレで隣に人が来ると、おしっこが出なくなってしまう男子学生の例もあります。
逆に、人のなかで緊張すると、おしっこが知らず知らずもれてしまう尿漏れで悩む人もいます。
緊張が下痢を生じさせるので、学校が勉強する場というよりも、便意との戦いの場になっている人もいます。
快速だと駅と駅の区間が長いので、その間に漏らしてしまうのではないかと心配で、各駅停車の電車にしか乗れないという人もいます。