固有の体験を大切にしよう

●固有の体験を受け容れる

「あなたがあなたの現実をつくる」

アルフレッド・アドラーは、体験は人間が作るのだと述べている。
アメリカの経営コンサルタントの書いた「ブレイン・スタイル」その中からの一節を引用してみる。

「ヒューストンのスタッフ・ディベロプメント・センターの所長のテリー・ブラント医師は、神経生理学者と他の専門家とともに、問題を解決するのに脳がどう働くかを調べる研究をしている。
その中で一つ分かったことは、私たちが考える時に脳から生じる神経物質の測定方法である。
人間の脳に現れる「考え」(情報小片)の数は、一分間に五万近くだと、彼は報告する。

これは、私たちが表す知覚入力の数の何百倍にもなる。
環境からの入力よりも、脳内でもっと「考え」を引き起こしているという事実を、私たちは実際に測ることができる。
ブラント医師が一緒に研究をしている精神生理学者の一人が、脳の働き方を測ることについて次のように言う。
「あなたは、あなたの現実をつくるのだ」」

それは、人間が他人の態度や環境からどういうふうに影響されるかは、専らその人間によって違うということであろう。
事実がどう影響するかは、その人の心の世界に依存しているという意味である。

同じ体験ををしても、ある人は傷つき、別の人は傷つかない。
つまり、問題は体験とか環境そのものではなく、その人の心の世界にある。

人生の中で出会う障害がどれだけその人を苦しめるかは、その人次第である。
生涯が全く障害でなくなるかどうかは、その人次第である。

人が社会的・経済的・肉体的に同じ経験をしていても、その楽しさあるいは辛さはその人によって全く違う。

たとえば、何かを失うことの意味は、人によってちがう。
あることやあるものが「ない」ことの意味も人によって違う。

十分に愛されないで育った人がいる。
たとえば、肛門性格でケチな人が十万円なくしたとする。

肛門性格とは、フロイトによれば口唇期(生後およそ一年間のことをいう)を過ぎて次の肛門期(排泄のしつけが始まる二歳から四歳くらいまで)で成長が止まっている人である。
肛門性格は「節約」と「頑固」を特徴とする。
もう一人、愛されて心理的に成長した人が同じように十万円なくしたとする。

この二人が同じ給料で同じ額の貯金を持っていたとしても、十万円なくした体験の辛さは全く違う。
だから嘆き方も違うのである。

肛門性格の人は、悔しくて悔しくて夜も眠れないだろう。
やっと寝られても、夜中に目を覚ましたら「あー、何でなくしてしまったのだ」と嘆いてまた眠れなくなるであろう。
その後一週間ずーっと嘆いている、他のことはもう考える余地がない、食事中も、仕事中も上の空である。

気質的に陽気で、しかも愛されて育ったもう一人は、「また稼げばいいさ」とスッキリしている。
「これからもっと注意しろということだろう。これをなくしたおかげで注意深くなって、百万円なくすことが避けられた、あーよかった」と思う。

誰でも、「また稼げばいいさ」とスッキリしていたい。
しかし、人はそれぞれ違って生まれて、違った環境で育ってくる。
だから、他人と同じ体験をしたからといって同じ気持ちになることができない。

何を体験しても、それはあなた固有のことを体験しているのである。
そして、その固有の体験を受け容れるということが自分の運命を受け容れるということである。

対人恐怖症、社交不安障害を克服するには固有の体験を受け容れることである。