怒りと感情のケア
怒りは、体と心を「戦闘モード」にセットする。
それゆえ、怒りは正常な思考を奪い、「自分が正しい」と錯覚させる。
怒りの頂点にある時は、どんな人でも絶対的な自信を持つ。
ところが、その頂点は10秒も続かない。
怒りのレベルが下がると、かたよった自信はたちまち失せてしまう。
怒りのケアができていない人は、実は自信も失いやすい。
逆に言うと、自信のケアができている人は怒りのケアもできている。
あなたの周囲にいる怒りっぽい人は、実は自信のない人なのである。
怒りの感情への対処も原則通り。
「現実対応」より、まずは「感情のケア」を優先する。
具体的な現実問題への対応は、その後で行うようにしよう。
また、怒りが不安と違うのは、発動の瞬発力が強いこと。
それを抑えるには、かなりのエネルギーが必要だ。
また、不安は一人の中の思考で増幅していくが、怒りは対人関係の相互作用で悪化する。
我慢や忘れる対処で抑え込んでいるうち、疲れ果て、あるいは他者からの攻撃により、「ある時、暴発する」ことが多い。
そしていったん暴発すれば、売り言葉に買い言葉でさらにケンカが大きくなるように、外的トラブルが拡大しがちだ。
小さな怒りをまめに対処する
そこで、怒り対処の一番のポイントは、日頃から、小さな怒りをこまめにケアすること。
それが結果的に、怒りの暴発を防いでくれるし、対人関係への影響も抑えてくれる。
小さな怒りは、日常的に潜んでおり、普通はそれを我慢で押しつぶしている。
小さいので、本人は自覚できないが、日常の紫外線で肌のシミがだんだん広がるように、怒りも次第に蓄積されていくのだ。
ケアの手順は基本どおり。
特に「触れる」作業を丁寧にやりたい。
我慢と忘れる対処の強力な人は、「最近特にイライラしたことはないな・・・」となかなか思い出せないからだ。
どうしても触れるのが苦手な人の場合、怒りケアというより、自分の疲労と自信のケアをすればいい。
自分の疲労のケアは、人間関係だけでなく、仕事のパフォーマンス維持や健康管理など、すべての面で重要だ。
怒りのありなしにかかわらず、しっかりやっておきたい。
もう一つは、自信ケア。これも怒りにかかわらず、あらゆる方面に影響するので、三つの視点で、ケアしておく必要がある。
一つは、自分は成長している、問題に上手に対処しているという実感(第一の自信)を持てる場面を確保すること。
仕事でなかなか実感できない人は、プライベートでもそのような場を持つようにするといい。
もう一つは、自分の若さや美しさ、体力に関する自信(第二の自信)をキープすること。
最近、『どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになるすごい方法』(Eiko著、サンマーク出版)という本が評判だが、ベターッと開脚できても実益はほとんどない。
しかし開脚できるようになるのは、単に「できる」という第一の自信だけでなく、私にはこんな基礎的な発展期待値がまだあるのだ、まだ自分は若く、体力があるという第二の自信を強く補強するのだ。
三つ目は、他人に認められ、社会的な居場所があること(第三の自信)。
仕事や家庭でそのような実感をえられないなら、趣味で仲間を広げたり、ボランティア活動などで補強するとよい。
もし、自分がイライラしているなと感じたら、その対象である人物のことを考えるより、まずはしっかり休んで睡眠をとり、仲間や家族と語らいながら、おいしいものを食べてみる。
自分の得意な分野での活動をしてみる。
体を動かし、活力を感じてみる。
するとその相手に対しても、敵対だけのモードでなく、もっと広い視野で接することができやすくなる。
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記憶のケアでは、エネルギーのケアに重きをおく
怒りケアのもう一つのポイントは、「記憶のケア」をしておくことだ。
怒りは、命がけの反応なので、潜在的な敵がいたら、それを必死で覚えようとしてしまう。
だから、小さい怒りに対するケアをしたら、最後は必ずモデルの力で紹介したイメージの力を使い、その記憶の危険色を薄めておこう。
「防衛(恨み)記憶」に残さないことが、怒りケア独特の重要ポイントだ。
それでも、この防衛(恨み)記憶は、「これを忘れたら、命が危ないぞ!」とことあるごとに、心のスクリーンに上映してくることがある。
「この人こそ対処すべき敵」と主張してくるのだが、その人はもういなかったり、今の生活には直接影響のない場合もある。
理性ではわかるのに、感情は収まらない。
行き場のない感情があなたを消耗させる。
そのようなクライアントに対し、「記憶」を何とかしようとする心理的な援助方法もある。
しかし、原始人的に、何度も反復学習してきた「敵」の記憶を、簡単に上書きすることはできない。
かなりの時間と、努力が必要になり、その間クライアントが不安定になることも多い。
このような場合、まず効率が良いのは、エネルギーをケアすることだ。
二つの理由がある。
防衛(恨み)記憶の発動の予防しやすさと、抑えやすさだ。
一つ目は発動の予防のしやすさ。
防衛(恨み)記憶が思い出されやすいのは、危険な相手に関する情報に接した時(連絡があった、写真を見たなど)だけではない。
自分が弱った時にもそうなる。
弱った時というのは、自分にとっての危険な状況。
スランプ、体調不良、うつ状態などに陥ると、過去のさまざまなネガティブな記憶が思い出されやすくなるものだが、それは「こういう時は、こんなことに気を付けろ」と教えてくれているのだ。
だから、基本的にエネルギーが低下してくると、防衛(恨み)記憶が出て来やすくなる。
逆にエネルギーを回復すると、思い出しにくくできる。
二つ目は、抑えやすさ。
いったん出てきた記憶を、元気な時なら、それ以上そこに意識を向けず、力ずくで忘れることができる。
ところが、ちょっと疲れたり、エネルギーが落ちたりすると、記憶の連鎖を止められなくなり、イヤな記憶が、次々と出てきてしまうのだ。
記憶とエネルギーの関係を冷蔵庫の例えで説明することがある。
あなたの中には、記憶を保存する冷蔵庫があるとイメージしてほしい。冷蔵庫の中身は記憶である。
昨日のことのように感情が生々しい記憶は、熱くてまだ冷蔵庫に入れられない。
表面が冷めて、粗熱が取れた記憶は入れられる。
でもまだ中は熱いので、その分、冷蔵庫はエネルギーを使う。
本当にクールダウンしている記憶は、冷蔵庫にあまり負担をかけずに保存していられる。
冷蔵庫のエネルギーとは体力のこと。
まだ熱い記憶や、「我慢」や「忘れる対処」で表面だけを冷ました記憶が多いと、その分、体力が奪われていくのだ。
冷蔵庫は家電製品の中でも、一番エネルギーを使う。
元気でパワーが充分あるときは、多くの記憶を、過去として保存していられる。
しかし、エネルギーが落ちてくると、熱い(イヤな)記憶ほど、保存していられなくなる。
このように、感情は、エネルギーや防衛(恨み)記憶と関連しながら、私たちを苦しめる。
そのことをよく知らないで、「理性」でなんともならない、と感じていると、そこに「自信」を失う苦しみが加わってくるのだ。