PやCの心は深く根を張っており、日常生活のなかで無意識のうちにこれに支配された行動が現れてきます。
ある日、小学校の教員をしている教え子が相談に訪れました。
彼は結婚して数年になりますが、彼がいくら尽くしても奥さんは彼を受け入れてくれない、というのです。
給料を全額、家に入れ、共働きなので家事もよくやっています。
子どもの保育所の送り迎えをし、週に2,3回は夕食をつくり、食器洗いはほぼ毎晩しています。
布団の上げ下ろしも、風呂をたくのも彼の仕事です。
休みの日には子どもと遊んであげます。
夫としての彼に、責められるべきところがあるとは思えませんでした。
彼の奥さんも面接を希望したので、何回か面接しました。
彼女も小学校の先生で、明るく活発で、最初はなんの問題もなさそうな感じでした。
しかし、面接を重ねていくうちに、彼女が無意識のうちにPの部分に翻弄されている姿が次第に明らかになってきました。
彼女の父親は商家の跡取りでした。
そのため大事に育てられ、情緒的にも未熟なところがある男性でした。
一方、母親は自立的な人でしたが、老舗のおかみさんとして夫をかげで支える役柄に徹することを求められました。
しかし、母親は夫の未熟な点を嫌っており、家庭のなかで夫と張り合うような生活でした。
その一つは、子どもを自分の味方につけることでした。
幼い彼女を味方につけて、ことあるごとに母親は、彼女に父親の「ひどさ」をこぼしていたのです。
一方、年の離れた兄は、父母のこうした関係を客観的に見られるようになっていたので、比較的、父親に同情的でした。
こうした環境で育った彼女の心には、父親に対する敵意と、母親をめぐっての兄に対する競争心が刻み込まれていきました。
この父親=男性への批判的な見方(批判的なPの心)と、兄=男性への競争心(母親に適応しようとするCの心)が、結婚生活のなかで夫に対して投影されているのです。
「ええ、夫は一所懸命やっていると思います。でも、それは愛情なんかじゃないんです。自分の方がよくやっていることを見せつけて、私がだめだっていうことを示したいだけなんです」
何回かの面接で、彼女はこうした自分の無意識の心理を受け止めるようになりました。
そして、改めて夫との愛情を確認し、つい夫と張り合ってしまうような行動の修正も試みるようになりました。
しかし、男性への批判的な態度という根深い心理傾向を完全に捨て去ることは困難でした。
夫としても、彼女のそうした心理を理解して、あるがままの彼女を受け入れて結婚生活を続けていくことがひつようであると思われました。