しなやかな心をつくる

現在の自分を肯定的に受け入れたとしても、生きている限り、人とぶつかり、時に傷つくことを避けることはできません。

そのために、やはり強い心を持ちたいと思います。

強い心とは、何事にも動じない鉄のような心ではありません。

人の心の痛みも、自分の心の痛みも豊かな感受性で受け止める心であり、その痛みから速やかに回復する力を備えた心です。

柔軟性のあるしなやかな心です。

大リーガーのイチロー選手が、他の日本人選手と違って故障者入りすることなく毎年活躍できるのは、しなやかな身体を作っていることに一因があると考えられます。

彼は、強さとは硬さではなく、柔軟性だという考え方をしており、筋肉をただ硬直的に鍛えるのではなく、しなやかさをも強化しているのです。

これまでに述べたことは、こうしたしなやかな心を作るために役立つ心構えであり、スキルでした。

しかし、読むだけではいっときの気休めにしかなりません。

実行することです。

実行することで、それらを習慣として定着させることです。

そのために、以下のような手順で、計画的に取り組むといっそう効果的です。

1.自分の弱点を明確にする

人によって、とくにつらいと感じる場面が異なります。

会議など公的な場面が苦痛な人もいれば、雑談の方が苦手だという人もいます。

ある人は評価される場面を恐れる傾向が強く、ある人は過度の責任感のために苦しんでいます。

こうした自分の弱点を明らかにすることです。

そのためには、つらいと感じる場面や逃げたいと感じる場面を書き出してみることです。

2.課題とする心構えやスキルを決める

自分の弱点が明らかになったら、それを修正するのに必要な心構えや有効なスキルを選択します。

これによって、取り組むべき課題を明確にします。

たとえば、つい見栄を張ってしまい、それで苦しくなることが多いという人は、「見栄を張らない」という心構えの習得を課題にします。

防衛が強いために自分の殻を破れない人は、「自己防衛しない」という心構えを課題とします。

また、全般的に不安を感じやすいという人であれば、自律訓練法の習得も選択肢に含めるとよいでしょう。

3.目標の設定と練習計画を立てる

課題を明らかにして決心さえすれば、今日から実行することができます。

しかし、全面的に実行できるわけではありません。

このために、練習計画を立てる必要があります。

練習計画によって、実行する行動をより具体的に設定すると取り組みやすくなります。

たとえば、「見栄を張らない」という決心をしたならば、「話の中で知らないことがあったら、必ず、『それ、なに?』と尋ねるようにする」などです。

「自己防衛しない」と決意したなら、「退社時間を意図的にずらす回避行動をしない」などです。

これを、今週の目標や今月の目標などとして、いつでも確認できるようにしておきます。

4.実行と点検を繰り返す

設定した目標を実行するように努力します。

そして、毎日、毎週、毎月、点検して実績を積み重ねていきます。

ほぼできるようになったら、次の課題に移っていきます。

以上の手続きは、社会不安障害の治療に適用されるエクスポージャー法の自己治療版ということができます。

多少つらくとも、現実的な目標を設定し、実行と点検を繰り返していくと、しだいにその行動が身についてきます。

行動することで、しだいに社交不安も軽減していきます。

できるところから急がずに

初心者がフルマラソンに挑戦したいと思ったら、まず10キロ走り切ることを目標にして、それを20キロ、30キロと延ばしていこうとするでしょう。

ところが、なぜか心の問題だと、即座に最終目標を達成しようと考えてしまいがちです。

しかし、長いこと慣れ親しんだ心の持ち方ですから、そう簡単に修正できるものではありません。

そのために、絶望的になり、あきらめてしまうことが多いのです。

一気に変えようとするのではなく、練習を積み重ねることで、少しずつ変えていこうとすることです。

「無理だ」と思うような大きな問題でも、小さなことから手をつけていけば、チャレンジする勇気が湧いてきます。

「10キロ、ダイエットしなければ」と考えると「とても無理」という気持ちになりますが、「月に500グラムずつ減らそう」と考えると、なんだかできそうな気がします。

ですから、とにかくできることから始めて、焦らずに少しずつ広げていくことです。

また、楽しみながら広げていければ最高です。

そのためには、やってみたいことや好きなことと結び付けて始めるのがコツの一つです。

好きなことを介しての友達なら、共通の話題で話がはずみやすいし、親密感も湧きやすいものです。

共通の趣味を通しての恋人なら、長く幸福な関係でいられることでしょう。

プライベートなつきあいが苦手だったAさんは、サイクリングを一人で楽しんでいましたが、思い切ってサイクリングのサークルに入会しました。

仲間と一緒に遠出するうちに気軽に話せるようになり、それが他の友人との関係にも広がっていきました。

挑戦してみたかったヨガの講習会に参加して、人間関係の輪を広げつつある人もいます。

●まとめ

しなやかな心の自分になろう。
そのために、エクスポージャー法で少しずつ慣れていこう

好きなことと結びつければ、楽しみながら強くなれる。