恋心に火がつくきっかけ

相手の意外な一面をみたときから恋が始まることもある

恋が芽ばえるきっかけは、人により千差万別です。
楽しい出来事を共有したのがきっかけで恋仲になったケースもあれば、悲しい経験を共有したことがきっかけとなったケースもあるでしょう。

ひとついえることは、マッチ棒を擦るように、何らかの心の摩擦が生じたときに恋人に火がつきやすいということです。

クラスメートなり職場の同僚なりで、ずでによく知っている間柄であっても、日頃の相手とはちょっと違った面をみたときなど、ハッとしたり、ドキッとしたりすることがあるものです。
新たに発見した面と既知の面とのギャップが摩擦を起こすのです。

たとえば、つぎのようなケースがあります。

常日頃から男性に対するライバル意識をむきだしにする、攻撃的タイプの女性がいました。

同僚の男性は、なんだかギスギスしていて生意気な女だなあと煙たく思っていましたが、彼女がある仕事上の失敗をきっかけに感情的なもろさをみせ、彼に相談してきました。
鉄の女のようなイメージを崩された彼は驚くと同時に、彼女も精神的にずいぶん無理をして突っ張っていたんだなあと、そのけなげさをとても愛おしく感じたということです。

また、ふだんは底抜けに明るくて、冗談ばかり言って周囲を笑わせてばかりいる女性がいました。
同じ部署にいる男性は、とても気立てのよい子だと思うし、場を盛り上げるのに便利なので接待に同席させることもあったそうです。
でも、はしゃぎ方といい、派手な服装といい、どうも深く物事を考えることの全くない軽い女としか思えず、とくに異性としての関心を抱くことはなかったようです。

ところが、転居をきっかけに、通勤電車で彼女が普段と全く違った真剣な表情で、けっこう固い本を読んでいるのをみかけるようになり、急に魅力的な異性として意識するようになったと言います。

反対のケースもあります。
まじめでガチガチの堅物と敬遠していた女性とたまたま仕事を組むことになり、貧乏くじを引いたと思ってひたすら機械的な打ち合わせですませようとした男性がいました。
ところが、どうにも堅苦しくて我慢できなくなり、バカな冗談を言ってしまいました。
そうしたところ、彼女が意外にもユーモアたっぷりの反応を返してきたのにビックリ。
真面目で控えめだけど、冗談が通じるし、反応がよく、とても楽しい人物であることを知って、今では一緒に仕事するのが楽しみだといいます。

これらのほかにも、意外な面の発見が強烈なインパクトとなったと思われるケースは多々あります。
ちょっとツンとした感じで周囲の人の気持ちにはあまり関心がないといった淡々としたタイプの女性が、こちらが落ち込んでいるのを察してコーヒーをいれてくれ、さりげなく励ましのことばをかけてくれたりしたら、それはたいへんな衝撃となるでしょう。
いかにも優しそうな女性の励ましよりも、意外なだけインパクトは強いのです。

とても内気そうで自分の意思を表明することなどほとんどないタイプの女性が、バレンタイン・デーにとびっきり大きなハート形のチョコレートを恥ずかしそうにくれたりしたら、その効果は絶大です。
ふだんから異性とも気軽にジョークをかわす積極的なタイプの女性が同じことをしても、残念ながら単なるジョークのひとつとしかみなされないかもしれません。

今まで身近に接していた人たちとは違った面をもつ人に出会ったときも、その異質な面が心の摩擦を引き起こします。

たとえば、今まで紳士的で抑制のきいた付き合い方をする男性しか知らなかった女性が、わりと何でもズケズケ言うタイプの男性に出会ったとします。

喜怒哀楽をストレートに表現し、ときに批判的なことも遠慮なく口にするので、はじめはなんて失礼な人だろうと腹を立てたりしますが、いつのまにか気になる存在になっているというのはよくあることです

今まで触れたことのないタイプとの接触が、自分のなかに潜在していたもう一人の自分を刺激するのです。

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このように意外な反応をする相手から受けた衝撃が、いつのまにかひきつける力に転化していくといったケースはままみられます。

ただし、今挙げた例では、もうひとつ別の要因が働いています。

何でも思ったままにあけすけに言う相手には、ときに腹を立てずにいられないことがあったとしても、こちらも思いをそのままぶつけることができます。
じつは、これがじわじわ効いてくるのです。

人は、こちらの心を開放してくれる相手に、知らずしらずのうちにひかれていくものです。
セールスでも饒舌にしゃべりまくるのではなく相手にしゃべらせることが肝心だといわれますが、通常の人間関係において働いている心の抑制を解いてくれる相手には、誰でも弱いものなのです。

こちらの心を開放してくれるのは、なにも相手自身のもつ雰囲気ばかりではありません。
物理的環境やそのときの心理的状況も、同様の効果を発揮することがあります。
そして、そのときたまたま横にいた人に素直に心を開くと共に、強くひかれていくというのも、ごく自然のなりゆきです。

たとえば、港の公園のベンチに並んですわって、はるか彼方の水平線上をかすかに動いている船らしきものをぼんやり眺めたり、真っ青な海と空の間にポッカリ浮かぶ真っ白な雲を目で追ったりしていると、細かなことにこだわりをもつ人間がとてもちっぽけな存在に思えてきて、いつになく開放的な言動をとっている自分を発見することでしょう。

高いビルの最上階にある薄暗いラウンジから夜景を見下ろすというセッティングも、同様の効果をもつはずです。

この場合は、景色だけでなく、暗い場所で他人をはじめとする周囲の刺激から一種遮断されたような雰囲気にひたれるというところがミソです。

フロイトが創始した自由連想法でも、薄暗い部屋で患者を寝椅子にあお向けに寝かせ、治療者は患者の頭のうしろの視界にはいらない場所にすわるというような工夫をします。
他人の存在を意識させない雰囲気づくりが、人の心を開かせるためにはぜひとも必要なのです。

旅行など日常空間から解き放たれた場では、人はいつにない気分の高揚と解放感を味わっており、出会う人に対しても心を開きやすい心理状態にあります。
そんな非日常的な場での出会いだからこそ進展した、というケースも少なくないはずです。

感動的な映画やスポーツの試合を見終わった直後などもそうです。
いつもなら知らない人と打ち解けて話すようなことのない人が、興奮した気持ちの発散を抑えることができず、思わず隣りの席の人と意気投合して話し込んでいたというのも、それほど珍しいことではありません。