完全に人付き合いが平気な人などいない
超一流のスポーツマンだってあがる
人付き合いの苦手意識を強く感じるために人前で何かをすることを極力避けようとする人がいる一方で、人前に立ちたくてしょうがない人もいます。
大勢に前でも悠然と、まったく平気に見える人もいます。
どうしてそのように平然としていられるのでしょうか。
大舞台で観衆を魅了する演技者や、超一流のスポーツマンは、あがるとか、緊張するなど無縁のように見えます。
しかし、実際にはそうした人たちも少なからず不安に駆られ、緊張しているのが実態のようです。
水泳の北島康介選手は、シドニーオリンピックのときに緊張して手が震えてキャップもかぶれなかったほどだ、と語っていました。
バラエティ番組でお笑い芸人が重宝されていますが、彼らは、気軽に語り、行動しているかのように見えます。
ところが、多数のお笑い芸人にインタビューした人の話によると、実際の彼らの姿は繊細で神経質ともいえる人が多いということでした。
内面では緊張しているのです。
人前でパフォーマンスしなければならないとき、人は誰でも多かれ少なかれ苦手意識を感じ、緊張するものなのです。
苦手意識や緊張があっても力を発揮できる条件とは?
必要なのは、苦手意識を感じたり緊張しないようになることではありません。
苦手意識があっても、緊張しても力を発揮できるようになることです。
そのための条件は、以下のようなことです。
1.徹底的な準備と練習
バイオリン奏者として世界的に活躍している女性が、60代になっても、演奏会の前日は徹夜で練習してしまうこともあると語っていました。
イチロー選手も、大きなプレッシャーを抱えてプレーしています。
ある年、年間200本安打に達しようという頃のことでした。
たまたまテレビが、ベンチでゲェッと吐きそうになる姿を映し出したことがありました。
こうした極度のストレスに耐えて実力を発揮できるのは、徹底的な練習によるのであり、徹底的な準備に支えられているのです。
ある俳優さんは、ナレーションを依頼されると、100回ほども練習するということです。
スピーチすることが苦手意識であれば、プロを見習って100回練習することです。
それでも不安なら、200回練習することです。
10回や20回練習して「それでも不安だ」などと言うのは、プロから見ればおこがましいことです。
そのくらいの回数で苦手意識が感じなくなるほど自分には力があるはずだと、自分を過信していることなのです。
2.自ら望んだことであること
一流の芸能人やスポーツ選手も、弱気になる心と内面で闘っているのです。
逃げずに立ち向かえるのは、自分がやりたいことをしているからです。
自分がしたくないこと、イヤイヤすることでしたら、弱気のほうが勝ってしまい、挫けてしまうことでしょう。
自分が望み、自分が選んだ道だからこそ、プレッシャーに打ち勝ってがんばれるのです。
人付き合いに苦手意識を感じる人に関する講演会に参加したときのことです。
参加者が500人近くいたのですが、その中で、人付き合いに苦手意識を感じているという人が挙手して質問したのです。
自分の人付き合いの苦手意識をなんとかしたいという強い願望のなせることだと、感動したものでした。
3.課題への集中
一流の人は、集中力が優れています。
できなかったら恥ずかしいとか、名声を得てやろうなどという意識は消え失せて、ただ直面する課題に意識を集中しているのです。
他のことに気を回せば、それだけ力が分散してしまいます。
眼前の課題だけに集中することで、全能力を課題の達成に向けることができます。
集中することで、他の余計なことは意識から消えていきます。
ですから、集中力をつけることは、苦手意識を克服することでもあるのです。
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確かな自己価値感を持つ人は恐れない
確たる自分があれば、あるがままの姿を素直に表現できる
人前でパフォーマンスするとか、未知の場面では、誰でも多少の苦手意識を感じます。
しかし、その程度において明らかに違いがあり、確かに不安が低く、緊張の程度も低い人がいます。
そうした人の代表は、確固とした自己価値感を持つ人です。
すなわち、自分という存在自体の価値を実感している人であり、本来の意味での自信がある人です。
この自信は、「〇〇ができる」という自信とは異なります。
「美人」だとか、「スタイルがよい」などという自分の属性への自信とも異なります。
自分が劣っていようと、欠点があろうと、そんなことには関わりなく、ただ自分という存在自体に疑いもない価値があるという、自分への確信という自信です。
「人は私を愛してくれるし、外界はわたしを受け入れてくれる」という揺るぎない信念ともいえます。
信念があるというよりも、そうしたことへの疑惑がないのです。
そのために、恐れることはなく、自分を守ろうとする必要もありません。
あるがままの姿を素直に表現することができるのです。
こうした特性が、幼い頃から発揮される子どもがいます。
そうした子どもは、臆することなく人前で素直にパフォーマンスするので、それが可愛らしく多くの人が魅了されます。
うまれつきの素質的な好条件と、養育の好条件との重なりによるものと推測されます。
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自己価値感のしっかりした人は外界をどう受け止めている?
しっかりとした自己価値感を持つ人は、基本的に楽天的であり、人付き合いの苦手意識が強い人とは外界の受け止め方が異なります。
人付き合いの苦手意識が強い人は、多くの場面を自分が評価される場面と受け止めます。
それに対して、自己価値感のしっかりした人は、面白そうだとか、わくわくする挑戦場面などと受け止めます。
自己価値感のしっかりした人は、他の人に劣っていても、失敗しても、マイナスの評価をされても、じぶんを全面否定するようなことはありません。
批判が当たっていなければ笑って済ませるし、当たっていれば自分の弱点であり、克服すべき課題と受け止めます。
克服できないものであれば、そのまま受け入れます。
自分の存在自体への価値を疑いませんから、失敗や挫折を、次に成功するための教訓を引き出すものとして受け止めることができます。
他者からの批判は、自己を省みるための指針として生かすことができます。
むろん彼らが傷つかないということはありません。
しかし、傷つきを不必要に広げてしまうことはありません。
傷つきをいつまでも引き延ばしてしまうことはありません。
傷つき体験からも、学ぶことがあれば学び、忘れるべきことであれば、忘れようとします。
許すべきことであれば、許そうとします。
柳に風でうまく受け流す人の特徴
柔軟な心こそ強い心
繊細な感性で、素質的には苦手意識を感じやすいのですが、対処の仕方が上手な人がいます。
苦手意識や緊張をひどくならないように、柳に風とうまく受け流しているのです。
こうした人は、心理低柔軟性があるのです。
イチロー選手が、身体の強さとは堅さではなく柔軟性だと語っていましたが、心の強さもまさに堅固さではなく柔軟性なのです。
心理的な柔軟性とは、場面を多様な視点からとらえることができる、行動を状況に応じて切り替えられる、否定的感情の処理が上手であるなどです。
こうした人を見てみると、人付き合いの苦手意識が強い人に対して適切な姿勢をとっており、技法のいくつかを、それと意識せずに使っていることが多いものです。
目標が明確な人は、不必要に悩むことがない
柳に風と受け流すことができるもう一つの要素は、自分が価値を置くものが明確であることや、明確な目標を持っていることです。
自分の目標を追求している人は、関心とエネルギーを目標達成に集中します。
自分の目標達成のためであれば、ひどい苦手意識を感じても、それに耐えて、その場を乗り越えようとします。
一方、自分が価値を置くことと無縁な場面では、自分を守る姿勢をさっぱりと捨てることができます。
川端康成に次のようなエピソードがあります。
中学では、体育の時間に順番に前に出て模範演技をするのですが、まったくの運動音痴の彼が演技をすると、その不格好さにみんなが笑います。
それを、彼は一緒になって笑っていたというのです。
彼にとって、文学こそが追求する価値であり、運動ができることなどには、まったく価値を置かなかったのでしょう。
強い格闘家は優しく穏やかです。
リングの上での強さに価値を置いているので、日常生活の中で強さを誇示する必要など感じないのだと思われます。
このように、自分の目標を追求していると、場面により取捨選択ができます。
その結果、不必要な場面でくどくどと悩むことなどなくなります。
失敗しても、下手くそでも、笑って済ませられるようになります。
あるカウンセラーは若い頃はひどい人付き合いの苦手意識を感じていて悩まされたのですが、心理学で飯を食っていきたいと決めてからは、必要なことには積極的に取り組み、それによって人付き合いの苦手意識を乗り越えてきました。
自分の目標を持ち、心の柔軟性を獲得することで、建設的に人付き合いの苦手意識を乗り越えていく力がつくのです。
感受性を閉ざして心の平穏を保つ人
鈍感さで心の平穏を保つ
人付き合いの苦手意識の強い人なら深く傷ついてしまい、とても耐えられないような事態に陥っても、平然としている人がいます。
繊細な感受性を欠き、鈍感さで心の平穏を保つ人です。
こうした人の中には、自己顕示欲が非常に旺盛な人が含まれます。
社交場面を、もっぱら自分を誇示する機会と受け止めます。
このために、大勢の中で、一言発言しないでは済まされません。
このタイプの人は、あまり深く物事を考えることもありません。
また、それほど責任を感じることもありません。
このために積極的に発言し、目立つ行動をするので、人付き合いの苦手意識の強い人の目には、生き生きとしている人のように映ります。
こうした人は、自分が思っているほど潜在能力がないことが多いのですが、積極性が彼らの能力を高める作用を果たします。
威勢がいいので一般受けしやすく、また、一般の人は質よりも量によって評価しがちです。
こうしたことを糧として能力を伸ばしていくのです。
このタイプの人は、おそらく素質としての神経の鈍感さがあると推測されます。
そのうえで、生育過程において、その鈍感さで自分を守るように自我を発達させたものと考えられます。
人付き合いの苦手意識の強い人は、こうした人をその鈍感さゆえに嘲笑しながら、その強さを羨望したり、嫉妬したりします。
そうではなく、自分の過敏さという特性を個性として受け入れて、長所として生かすことを考えるべきです。