エクスポージャー法で少しずつ慣れていこう
不安を引き起こす場面に実際に直面する体験を通して治療するのが、エクスポージャー法と呼ばれるものです。
この方法では、不安の低い場面から始め、次第に不安の高い場面でも平気になるように繰り返し脅威的場面を体験します。
これにより、「大丈夫だ」「耐えられる」「もう、平気だ」と実感することで、人付き合いの苦手意識を克服するものです。
エクスポージャー法の手順
エクスポージャー法は、認知行動療法の一つの技法として、社交不安やパニック障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、各種恐怖症など、いろいろの治療に用いられています。
一般に以下のような手順で行われます。
1.問題の明確化
クライアントとの話し合いにより、その人がどのような人付き合いで苦しんでいて、何が主要な問題かを明らかにします。
また、人付き合いが苦手になる理由や、人付き合いの苦手意識に関する理解を得るようにします。
とりわけ、治療のポイントや、回避行動を変える必要があることなどを理解します。
2.不安階層表の作成
人付き合いが苦手といっても、ひとによりそれぞれ特徴があります。
ある人は私的場面が不安なのに対し、ある人は公的場面が不安です。
その人がどのような場面で、どの程度苦手意識を感じているのかを明らかにします。
それにより、苦手意識の主観的程度を数値に表した不安階層表を作ります。
たとえば、次のようなものです。
不安な場面 | 不安の程度 |
大勢の前でプレゼンテーションする | 100 |
全体会議で発言する | 80 |
課の会議で発言する | 70 |
上司に報告する | 60 |
3.苦手場面への直面
比較的苦手意識の低い場面から、体験するようにします。
治療場面では、カウンセラーや補助者、あるいは同じように治療を受けている人を、同僚や上司に見立てて模擬的に体験します。
最初はつらくとも、ある程度平気になるまで、その場面にとどまるようにします。
不安が強くて、模擬的場面に耐えらえないような場合には、場面をイメージさせるということから開始することもあります。
また、可能であれば、実際の生活の中で体験することから始めることもあります。
4.直面の繰り返し
不安場面に繰り返し直面することで、次第にその場が平気になってきます。
その段階で、より高い不安場面に直面するようにします。
これを繰り返していくことで、これまで強い不安を引き起こしていた場面でも、平気でいられるようになていきます。
日常での使い方
エクスポージャー法は、このように実体験を通して、少しずつ自分を変えていくというものです。
この方法を用いると、最初からあきらめてしまうような問題でも、小さな目標から達成していけばよいのだということで、チャレンジする勇気が湧いてきます。
たとえば、「10キロダイエットしなければ」と考えると「とても無理」という気持ちになりますが、「月に500グラムずつ減らそう」と考えると、なんだか簡単にできそうな気がするのと同じです。
この方法を適用するには、とにかくできるところから始めて、焦らないことが肝心です。
当面の目標を手帳に書いておき、通勤時間などに確認します。
そして、できるだけその目標に沿った行動を心がけます。
実行できたときには、〇をつけると励みになります。
また、うまくいったときにその内容を簡単にメモしておくと、体験が蓄積できて有益です。
多少つらくとも、現実的な目標を設定し、実行と点検を繰り返していくと、次第にその行動が身についてきます。
行動する中で、人付き合いの苦手意識も軽減していきます。