人付き合いの苦手意識を克服するには、心、身体、行動のそれぞれに対処することが必要です。
そこでまず、心の機能で対処する方法を取り上げます。
「逃げずにぶつかる」ことが原則
逃げたいと思っていると、つらさが増すだけ
脅威的な場面から逃げようとしないことが、人付き合いの苦手意識に対処するもっとも原則的な姿勢です。
逃げたいと思っていると、つらさが増すだけです。
逃げたいと思うことは、気持ちで負けてしまっていることです。
弱気になっていることです。
弱気とは、自分に力がないと認めることです。
ですから、自信がなくなり、ますます不安がつのります。
また、逃げていると、慣れる機会が失われてしまいます。
そのために抵抗力がつきません。
対処能力も磨かれません。
その結果、外界は怖いままにとどまってしまいます。
したがって、逃げるのではなく、ぶつかっていくことです。
誰でも、多かれ少なかれ人付き合いの苦手意識を感じています。
この苦手意識に対処することで、自分を作っていくのです。
ですから、つらい場面を自分の成長の機会ととらえて、むしろ積極的に立ち向かっていくことです。
外界とは本来魅力に満ちた世界です。
思い切って入っていけば、心が刺激され、躍動し、軽やかになるものです。
一人自閉的にしていると、気持ちは落ち込むばかりです。
とりわけ、若いうちは、つらい場面こそ自分を成長させる場面だとして、歓迎する姿勢を持つことです。
逃げていては成長できないし、いつまでも恐れることになります。
「つらい場面は成長の機会」
「たとえ心が傷ついても、命に別状はない」
そう覚悟を決めて、人の中に飛び込んでいきましょう。
人付き合いの苦手意識のつらさを乗り越える方法を知ろう
とはいえ、やっぱりつらい。
このつらさに耐え、乗り越える方法があればよい。
そんな気持ちだと思います。
以下、そのために役に立つ心理的技法を紹介します。
これらは、人付き合いの苦手意識の軽減に役立つだけでなく、その他のストレスや人生上のいろいろな問題への対処に役立ちます。
また、よりよい人生を築くためにも役立つ技法です。
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気持ちを楽にする方法とは
つらい気持ちを少しでも軽くできれば、がんばって立ち向かっていこうという気持ちが湧いてきます。
対策を考えたり、準備したりするためには、ある程度気持ちが落ち着いていることが必要です。
このために、最初に、つらさが減って、気持ちが落ち着く方法を紹介します。
快感イメージ法
人付き合いが苦手な人は、暗いことばかり考えてしまいがちですが、つらいときに、あのときは楽しかったなとか、あの頃はよかったな、と自然に過去の思い出に浸っていることがあります。
心がつらいときには、無意識のうちにそのつらさを打ち消すイメージによって、心のバランスを取り戻そうとするメカニズムが存在するのです。
意識は同時に複数のことを対象にはできません。
楽しいイメージが意識にあるときは、つらいイメージは意識から排除されています。
これを使って、沈んでいた気持ちを快感情に置き換えるようにするのが「快感イメージ法」です。
快感情に置き換えるには、色々な方法があります。
- かつて、同じような場面で、うまくできたことを思い出す。
- 今の課題で、うまくいった姿をイメージする。
- 楽しい気分にしてくれる体験を思い浮かべる。
- 実際に笑顔を作る。
脳神経科学は、こうしたことが実際に効果があることを示す知見を得ています。
というのは、行動しなくても、そのことを思い浮かべるだけで、行動した場合と同じ脳の部位が活性化することがわかってきたのです。
沈んだ気持ちのときに笑顔を作るようにする。
それによって、気持ちが少し明るくなります。
不安にとらわれているときに笑顔を作ると、不安が和らぐことがあります。
タイムスリップ法
つらくて挫けそうなときや、仕事に消耗を感じるときなどは、過去ではなく、希望の未来をイメージすることで、気持ちを変えることもできます。
これは、「タイムスリップ法」と言われるものです。
自分の夢や希望が実現した姿をイメージするのです。
あるいは、夢や希望への道を現在進みつつあるということを確認することも、大いに元気を与えてくれます。
このとき、現実性のない夢ではなく、現実的な希望や夢であるほうが効果的です。
自分の夢を実現するための計画表を見るということは有効です。
単なる空想としての夢では、現実逃避に終わってしまいます。
夢の中にいる間は気持ちが救われますが、現実に戻ったとたんに、現実の厳しさに無残に打ち砕かれてしまうということになってしまいます。
このためにも、自分がいかなる人生を目指し、自分をどのように成長させていくかという人生プランを持っておくことが大事です。
心の隔壁法
心配なことがあると、それだけに心が占領されてしまいます。
嫌な気持ちが、心全体に広がってしまいます。
そのために、過度に否定的、悲観的、絶望的、自暴自棄的になってしまいます。
ですから、まず、嫌な気持ちを広がらせないことが大事です。
そのためには、心に隔壁を作ることです。
これを「隔壁法」と呼んでいます。
そのやり方は以下の通りです。
1.白紙の真ん中に大きな円を描きます。
この円が自分の心全体を表します。
2.生活の領域をリストアップします。
自分の生活の中での諸事項をあげます。
仕事(ないしはアルバイト)、子ども・家庭、健康、友達や近所づき合い、趣味等々。
それらを1.の円の中、円周近くに書いて、それぞれを領域として線で囲みます。
3.今、心配していることを、該当する領域に書き込みます。
たとえば、仕事で大きなミスをして、頭の中はそのことでいっぱいだとしたら、仕事の領域に「仕事でミス」と書き込みます。
そうすると、問題は仕事のことであり、それ以外の領域には関係ないことが明確に意識されます。
これにより、問題が小さく感じられます。
4.対処法を決めて、書き込みます。
上記の例でいえば、とにかく、明日一番で上司に事情を説明し、指示を受けようと決断します。
決めた対処法を書き込みます。
5.以上を確認して、「今、ここ」を楽しもうと決意します。
仕事でのミスは、家で心配してもしょうがないこと。
今は、家庭での生活を大事に楽しもうと決意します。
こうすると、だいぶ心が落ち着いてきます。
それでも、波のようにその不安がよみがえってくるかもしれません。
そのたびに、この「心の隔壁用紙」を見て、決意を新たにします。
苦手な気持ちを受け入れる
いろいろ試しても苦手意識が消えない。
どうすればいいんだろう、どうなってしまうんだろう、とまんじりともせずに眠れない夜を過ごしている。
そんなとき、苦手意識をそのまま受け入れてしまうのも、一つの方法です。
いろいろと苦手なことが生じますが、その大部分は実際に起こることはないものであり、想像の産物に過ぎません。
あるいは、たとえそれが起こっても、心配しているほど重大なことにはなりません。
ですから、たいがいは放っておいて大丈夫なのです。
少なくとも、自分の中で処理してしまえば、済んでしまうものなのです。
「苦手があるのは当たり前。先を考える力があるから、誰でも、いつだって、人間は苦手になるものなのだ」、そう思って、不安になることをそのまま受け入れてしまうことです。
瞑想で不安を受け入れ一体化する
瞑想を行っている人は、瞑想が役立つかもしれません。
通常の瞑想では呼吸などに意識を集中することで、苦手を意識から除外することを目指します。
これだと瞑想中は安心が得られますが、不安そのものに対処するものではないので、日常生活に戻ると苦手意識が戻ってきます。
そこで、プロセス瞑想として知られるミンデルの瞑想法を変形して用います。
苦手に意識を向け、苦手を受け入れ、苦手と同一化することで心の平穏を得るものです。
自分の中にある苦手意識を自分には存在しないものとしようとするから、苦手意識に苦しめられるのであって、そのままに受け入れてしまえば、苦手意識と平穏に共生できるようになる、という考えです。
具体的には次のように行います。
- 軽く目を閉じて、リラックスします。座った状態でも、横になった状態でも結構です。
- いろいろと頭に浮かんできますが、そのままにまかせます。考えようとするのではなく、自然にまかせます。
- すると、心配なことが浮かんできて、不安な気持ちになります。
- それをそのまま「受け入れよう」とします。このとき、強く意識して「受け入れよう」と努力するのではなく、自然にまかすという感じを保ちます。
- 苦手意識が明確になったら、それと一体化しようと意識します。このときも、強く努力するのではなく、自然にそうした方向に意識が向くようにします。
- やがて、苦手意識がさほどのことはないと感じられてきます。
この方法は、ちょっとした身体的な痛みにも有効です。
夜、十二指腸潰瘍や胃炎の痛みを感じても、この方法で痛みから解放され、眠ってしまいます。
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「あるがまま」を心がけてみる
前節のような方法で、ある程度気持ちを落ち着けながら、心の持ち方を修正する訓練を行います。
心の持ち方の基本は、「あるがまま」を心がけることです。
人と接するときに、「あるがままの自分で接しよう」とすることです。
それは、あるがままの自分を信頼し、外界を信頼することです。
「あるがままの自分」でいることを意識しよう
人と接するとき、「あるがままでいよう」と心がけるだけで、ずいぶん気持ちが楽になるものです。
「自分以上の自分を見せなければ」と思うからプレッシャーなのであり、苦手意識を感じるのです。
自分以外のものであろうとするから苦痛なのです。
そうではなく、あるがままの自分でいいのです。
それで誰も迷惑しているわけではありません。
ただ自分で苦痛に感じるだけなのです。
だから、自分が辛いと感じること以外に、なんの問題もないのです。
「あるがままの自分でいよう」と、意識的に努めることです。
「あるがまま」でいいのですから、本来、楽なはずです。
努力などいらないはずです。
実際社交的な人は楽にしています。
無理していません。
しかし、人付き合いの苦手意識が強い人は、長年、自分以外の自分であろうとしてきたので、意識しないうちに無理をしています。
心を緊張させるとともに、身体を緊張させています。
姿勢もまた、油断なく身構えているか、恐れのために腰が引けてしまっています。
ですから、人の中にいるときに、「あるがままでいよう」と、意識的に努めるとともに、身体もリラックスすることを心がけることです。
自分の醜いところも「あるがまま」に受け入れる
「あるがまま」とは、自分の心の醜い部分をも、そのままに受け入れることでもあります。
人付き合いの苦手意識の強い人は、他の人とつい比べてしまう。
他の人に嫉妬してしまう。
張り合ってしまう。
だから、人と比べないこと、自分は自分という姿勢を徹底して、嫉妬しないようにすることだ、とよく言われます。
しかし、それは解脱を求められているかのように感じられます。
なるほど、そうした本を読んでいるときは、「そうだなあ、がんばってみよう」と思います。
ところが、いざ、現実の生活に戻ると、すぐに人と比べてしまいますし、嫉妬してしまう自分がいます。
比べてしまう心。
嫉妬してしまう心。
本音で自分の心に向き合ったとき、これらから完全に抜け出ることなど、不可能に思えます。
だから、「あるがまま」とは、比べてしまう心があること、嫉妬してしまう心があること、張り合ってしまう心があること、それらをそのままに認め、受け入れることだと考えています。
それらから脱却しなければいけない、と思わないことです。
比べてもいい。
嫉妬してもいい。
同時にその人の優れた面を賞賛するようにすること、そして、私も「あの人のようになりたいな」、「あの人のようになれるよう頑張ろう」と、思うようにするのです。
「あるがまま」とは、自分と他人を信頼すること
「あるがまま」とは、また、自分の中にある安心感に身をゆだねることでもあります。
私たちの心の根底には、至福の10カ月間を過ごした母胎内で培われた根源的な安心感があります。
成育過程でその安心感にベールをかぶせてしまったために、人と接するのが怖いのです。
ですから、この根源的な安心感にゆったりとひたろうとすればよいのです。
この安心感に身をゆだねるということは、自分と外界とを信頼するということです。
弱さや醜さを持った私、たいした取り柄もない私、そうした「あるがままの私」で、他の人は受け入れてくれる。
そうした人の心の温かさを信じることでもあるのです。
「あるがまま」とはまた、自分を不必要に責めないことでもあります。
人付き合いの苦手意識の高い人は、「こうすればよかった」「ああすべきだった」などと、何ごとかを行った後で後悔ばかりしてしまいがちです。
そうではなく、自分が行ったことを肯定的に受け止めることです。
評価できる点もあれば、不十分な点もあるでしょう。
いずれも自分が行ったことで、それはそれでよいではないか。
この世界で、完璧などあり得ない。
完璧など求められていないと思うことです。
さらに、「あるがまま」とは、時を信じることでもあります。
時が経てば、恥ずかしさや不安を感じやすい年代をやがて通り過ぎていきます。
このように未来を信じることでもあるのです。
自分を守ろうとしないことも大切
「あるがままでいよう」と努めることとは、具体的にはどうすることなのか、今一つ具体的に実感できない人がいるかもしれません。
そうした人のために、さらに別な観点からの心の持ち方を述べておきます。
それは、人と接している時に、「自分を守ろうとしない」ということです。
人付き合いの苦手意識の強い人は、いつでも自分を守ろうと身構えてしまっています。
恥をかかないように、ぼろを出さないように、失策しないように、笑われないように、能力が低いと思われないように、自分が傷つかないように等々と。
このように、自分を守ろうとしていると、心が萎縮してしまいます。
守ろうとする意識を抜け出たとき、伸びやかに心が動くようになります。
身体も伸びやかになります。
人付き合いの苦手意識の強い人の中には、自分を優れた人として印象づけようとする傾向が強い人がいます。
それで、つい無理に背伸びして、不必要なつらい場面を引き起こしていることがあります。
この傾向の強い人は、「優秀さを示そうとしない」と心がけることです。
こうしたことを心がけていると、自分の中にこの心が生じたときに気が付き、「あるがまま」の姿勢に転換することができます。
「あるがまま」「自分を守ろうとしない」あるいは「優秀さを示そうとしない」。
こうしたことを意識するだけで、人の中にいることがずいぶん楽になります。
この体験を積み重ねることで、楽にいられる場面が次第に広がっていきます。