悲しみの対処法は物語を作る

「悲しみ」は、原始人をひきこもらせるプログラムである。

例えば、仲間を一人失い、自らもけがを負ったとしよう。

原始人的には、狩りを共にしていた仲間が一人減ることは致命的だ。

一人減った体制で、危険な原始時代に以前と同じような行動を取っていたら、自分も死んでしまう可能性が高くなる。

そこで、まずは一人減ってしまった事実に向き合い、自らのけがが治るまで、あるいは他の仲間ができるまで(通常一カ月から三年)引きこもる。

これがいわゆる「喪」の期間である。

その間は、新しいことをする集中力やエネルギーがない。

また、悲しみで涙を流すことは、救難信号の意味を持つ。

他者の涙を見ると人はその人を助けたくなるようにプログラムされている。

原始人が相互に助け合い、ピンチを乗り越えるための仕組みだ。

現代人としても、悲しみには、まず時間をかけよう。

時間がかかるのが本来の流れだと知ろう。

現代の時の流れは速すぎるので、どうしても「いつまでも悲しんでいる自分」に自信を失いがちだ。

自信を失うと、「それは弱った自分」となり、悲しみだけでなくすべての感情が発動しやすくなり、

それでエネルギーを消耗し、うつ状態に移行しやすくなる。

悲しみの感情のケアは、タイミングを決めて行うのがコツだ。

というのも、怖さと同じで、悲しみも常にそのことが頭を占めている。

しばらくすると、そのことを忘れる時間も増えるが、そうなると今度は、「あんなに悲しいことがあったのに、それを忘れている自分がいる」と自分を責める気持ちが強くなる。

この、忘れたい気持ちと忘れたくない気持ちのバランスを上手に取る方法が、「タイミングを決めて悲しむ」という方法だ。

以前から、私たち日本人は、法事など喪の儀式によって、これを具現化している。

いつもは日常の忙しさによって、悲しみを忘れて生活していても、喪の時には、親族などに囲まれ、安心安全な雰囲気の中で、落ち着いてつらいことを思い出し、語り、涙を流す。

これらは、あなたの中の悲しみを「認める」作業だ。

感情ケアの「下げる」「触れる」が自然にできる仕組みだ。

悲しみ特有のプロセスとしては、「考える」の段階で、「悲しみの意味を見出す」作業が重要になる。

その悲しみが、自分の人生や未来に対し、何らかの意味を持つと感じた時、悲しみは、喪の作業の時の、お坊さんの法話などがヒントになることもある。

悲しみの意味を見つけるためには、喪の時期を過ぎてから、さまざまな活動をするといい。

悲しい場所を訪れる。

同じ悲しみを体験した人と語り合う。

宗教や哲学の考えを知る。

旅に出るなどだ。

その中で、悲しい体験について自分なりの「物語を作る」ことが、悲しみのプロセスを進めていくのだ。