相手のコツを盗む大切さ

できる人はコツを持っている、そこからいいとこ取りをしよう

勉強というのはコツを覚えれば成績も上がり出します。

成績はテストの点数で示されますから、客観的に判断できます。

そういう意味ではわかりやすい世界でもあるのです。

問題は、そのコツをつかむまでの苦労です。

自分でいろいろなやり方を試して、どうすれば覚えられるか、どうすれば効率よく頭に入れることができるかを探ってみなければいけません。

でも、勉強のできない人がそれを探るのは容易ではありません。

自信がないから何を試してもすぐに不安になるのです。

「これじゃダメだ」と思うばかりで、いつまで経っても一つのやり方に絞り込めません。

そういうときには素直に「できる人」の勉強法をマネするのがいちばんです。

「できる人」だって最初からできたわけではなくて、自分なりに工夫して見つけた勉強法を実行しています。

それをマネすることは、いわば「いいとこ取り」なのですが、少しも悪いことではありません。

じつはこういうときにも、争いの嫌いな人は有利なのです。

勝ち負けの感覚にこだわればどうしても意地になってしまい、「いまさらあいつに教えてもらいたくない」とか、「自分は自分のやり方で頑張る」と思うからです。

争いの嫌いな人、マイペースな人は違います。

「この人にはかなわない」と思えば素直に頭を下げて教えてもらうことができます。

でも教えてもらったら、つぎは実行しなければいけません。

ここから先は本人が頑張るしかないのですから、決してただの「いいとこ取り」ではないのです。

満員電車状態で争ってもそこから抜け出せない

セールスや営業の分野には、2番手グループの人がいます。

トップセールスマンほどの数字を残せなくても、自分の目標はきちんと達成する人たちです。

その下に、目標を達成できたりできなかったりという中位グループがいて、さらにその下にいつも目標に届かない下位グループがいます。

ここで面白いのは、中位グループと下位グループはかんたんに入れ替わるのに、中位グループから2番手グループに上がるのは容易ではないということです。

そのかわり、一度2番手グループに上がってくるとそこで成績が安定してくるようになります。

トップをめざす位置につけたことで、仕事に意欲が生まれてくるからです。

何をいいたいかといいますと、人はどこを見るかで意欲も努力も工夫も、もちろん結果もずいぶん違ってくるということです。

中位グループにいれば「まだ下がある」と思います。

下位グループにいても、すぐ上のグループにはいつでも追いつけると思ってしまいます。

実際、この二つのグループはかんたんに入れ替わります。

ということは、中位も下位もおたがいに相手のグループしか見ていません。

しかも、「どっちが上か」といった低レベルの目線しかもっていません。

何がいちばん足りないのかといえば、売り上げを伸ばすための技術や方法を探る気持ちなのです。

「負けないぞ」と争ったところで、しょせんはダンゴになった下位グループのなかでの争いでしかないのです。

向上心から技術を盗む

ところが2番手グループに上がってくると、トップが見えてきます。

中位グループにいたときには「どうせ無理」とあきらめていたトップが、ぐんと間近な存在になってきます。

すると、「何が違うのか」と考えるようになるのです。

「まずまずの結果は出せるようになったけど、あいつはさらに上にいる。

自分だって努力はしているんだから、追いつくためにはきっと何かのコツがあるはずだ」と気がつくのです。

実際、2番手グループのセールスマンはトップのやり方を可能なかぎり試してみるといいます。

「全体の業績が低迷していても、トップはつねに目標を達成している。なぜそれができるのか」

そう考えて、前向きな思考法や時間管理やセールストーク、1日の動きや電話のかけ方までマネをしてみるようになるのです。

そのなかで、「これは使える」と思った技術を実行します。

2番手につけていればすでに自分なりの工夫でつかんだ技術もありますから、それにさらに「いいとこ取り」を実行することでどんどんトップに近づいていくのです。

ここで大事なのは、上に近づくことでさらに上を細かく観察できるようになったということです。

トップにあって自分にないものは何かが、見える位置に来たということです。

中位以下にいるときは、そもそもトップを見ようともしません。

あるいは見ても「とてもマネできない」とあきらめてしまいます。

技術を盗もうという発想がまったく出て来ないのです。

できる人に手を貸すチャンスを逃さない

じつは「できる人」の代理を務めることでその技術が盗めるというメリットもあるのです。

たとえばあなたが上司の代理で見積書を提出するような仕事を命じられたときに、先方の担当者とも短い挨拶やことばのやり取りが生まれます。

そのときに、その上司の仕事が評価されていればかならず好意的な話題が出てきます。

「Aさんはこうして顔を合わせたあとも、かならずメールで短いお礼をいってくるんですよ」といったことです。

そのときおそらく、あなたは「えっ?」と思うはずです。

そんなことはいままで上司の口から聞いたことがないからです。

「そうだったのか。課長は大雑把に見えるけど、そんな気遣いをしていたのか」

そう知っただけで、きっと上司の仕事のコツを盗んだような気がするはずです。

したがって、できる人に手を貸すチャンスがあったら、それを逃してはいけません。

代理にかぎらず、手伝いを頼まれたときでもぜひ喜んで引き受けてください。

たとえば子どもは親の手伝いをしながら、掃除や料理や洗い物といった基本的な家事を覚えていきますね。

いくら口で説明されてもわからないことが、母親と一緒にやってみればコツを呑み込むのが早いのです。

仕事だって同じです。

上司や先輩に限らず、できる人と一緒に同じ仕事をしてみると、「なるほど、そうやるのか」という発見がかならずあります。

手伝うことで距離が縮まる

技術を盗むということを、狭い意味で考えないほうがいいです。

「こんな仕事を手伝ってもなんの得にもならない」といった考え方は短絡に過ぎるし、もったいないと思うからです。

なぜなら、いまの自分の仕事に直接役立たないようなことでも、覚えておいて損をすることはない

たとえばメーカーのデスクワークをしているような人が、販売の一線に立ってみることは貴重な経験です。

それがほんの手伝いだとしても、手伝いで店頭やユーザーの前に立てることが貴重なのです。

それからもっと貴重なのは、不慣れな仕事を手伝うことで、ふだんは接することのない部署の人に親近感を覚えるようになるということです。

会社というのは不思議なもので、仕事内容の見えない他人の部署が気楽そうに見えてしまいます。

毎日、デスクに縛りつけられて、上司の視線を気にしながら数字の操作に神経を遣っている経理のような部署から見れば、社外に飛び出して自由に動き回れる営業は気楽な商売に思えてくるのです。

ところが、そういう人でも自分が販売の一線に立ってみれば、「楽じゃないな」とわかります。

手伝ってもらうほうも「わかったかな」と満足します。

その瞬間、いままで感じなかった親近感が生まれてきます。

少なくとも、距離は縮まるはずです。

争いが嫌いならば部署が異なっても心地よい関係ができる

他人の仕事を手伝うことで、知らなかった仕事のコツを学べるチャンスが生まれます。

勉強だって、できる人と一緒にやればそのコツがどんどんわかってくるでしょう。

それと同じです。

手伝うことも、教わることなのです。

そして手伝ってもらうほうからすれば、素直に仕事のコツを覚えようとする人はやはり気持ちいいでしょう。

ところがここでも、勝ち負けにこだわる人は素直に教わる気持ちになれません。

「こっちは不慣れなんだからできなくて当たり前だ」と考え、「こんな仕事、覚えたって自分のためにならない」と考えます。

基本的に、「手伝ってやってるんだ」という態度なのです。

これではコツを覚えないどころか、親近感も生まれません。

素直じゃないというのが、勝ち負けにこだわる人の欠点でもあるのです。

その点で、「争わない生き方をする人」「マイペースな人」は幸せです。

きちんとした受け答えができて、コツコツやれる人です。

気さくな態度で教えたり教わったりできます。

つまり自分が手伝うときでも、手伝ってもらうときでも、パートナーとうまくやっていける人なのです。

したがって、部署を飛び越えていい人間関係をつくっていけるのです。

人はみんな何かしらの取り柄がある

他人とうまくやっていく最大のコツは、その人の取り柄となる部分と付き合うことです。

人にはだれでも長所と短所がありますが、人間関係につまずきやすい人にかぎって、相手の短所にばかり目をやってしまうことが多いのです。

たとえばことばのきつい人が相手でも、「この人はズケズケとものをいう」と受け取れば短所に目が行ってきます。

でも「この人はものごとをはっきりいってくれる」と受け取れば長所に気がついたことになります。

ほんのちょっとした受け止め方の違いですが、その違いはあまりに大きいのです。

ここまでに、できる人のコツを盗む効用について書いてきました。

「いいとこ取りをしよう」とか「上を見よう」といった、じつに打算的な考え方を提案してきました。

けれども、たとえ打算だとしても、相手の長所に目を留める気持ちがなければできないことばかりなのです。

勉強でも仕事でも、あるいは家事でも趣味でもスポーツでもすべて同じです。

「この人の技術を盗もう」という気持ちになるためには、まず相手の取り柄を素直に認めなければいけません。

コツを盗もうと考えることじたいが、他人を認める気持ちなのです。

それができるのは「争わない生き方をする人」です。

勝ち負けにこだわる人、他人には負けたくないと考える人は、いつまでも自分のやり方にこだわり続けて苦しむ人でもあるのです。