どのようにして、私たちは感情と上手に付き合っていけるのだろうか。
まずは、これまで忌み嫌い、”なかったこと”にしがちだった、自分の中のすべての感情を認めること。
これが重要な第一歩となる。
クライアントのEさん(女性)の例だ。
ご主人をガンで亡くした後、すっかり元気をなくしてカウンセリングに来た。
当然、喪失のショックで落ち込んでいるのだろうと思われた。
ところが、本人は思いつめた表情で、「先生、主人が亡くなったこと自体は、実は、全然悲しくないんです。
看病が大変だったので、むしろホッとしているんです」と言いにくそうに話し始めた。
しばらく話を聞いている、残された子どもの将来のこと、これからの生活が不安なこと、自分の体調が悪いことなどに話がおよんだ。
30分程、不安を中心に話を聞いたところで、私はこれまでの内容を大きくまとめて要約した。
それを聞いていたEさんが、急にドッと泣き始めたのである。
「何か感じることがありましたか」と聞くと、「今まで悲しいと思わないようにしていました。
子どものこともあるし、涙は見せてはならないと・・・。
それに、夫が亡くなったのに、最初はホッとしてしまった自分はなんて薄情なのだろうとも思っていました」
初めて悲しみや自責を自覚したEさん。
泣きながら思いのたけを話すだけ話し、最後は少し笑顔も見せて、「ラクになりました」と言って、帰っていった。
夫を亡くした悲しみ、看病から解放された安堵感、そんな自分を責める気持ち、これから1人でいろんなことを決めていかなければならない不安。
これらはすべて、Eさんの中に生まれた自然な感情である。
けれども、なぜか自分で、「これはダメ、これはいい」と区別してしまっていた。
Eさんだけでなく、私たちの多くはこの傾向にある。
ネガティブな感情は、持っているのもつらいし、周囲にも隠しておきたい場合もある。
感情を押し殺すにはかなりのエネルギーが必要になる。
エネルギーがどんどん消耗していく苦しさに、次第に耐えられなくなってくる。
すると、統一した自分を保つことが難しくなる。
コントロールを失い、自信がなくなってくるのだ。
ただ感情はあなたを守ろうとしている。
それも必死で、全力で。
もし、あなたが家族の中で一人だけ、危険に関するある情報を持っていたとしよう。
あなたは家族を守るために、それをみんなに伝えたい。
ところが、父をはじめ誰も聞いてくれない。
あなたが発信しようとすると、笑われたり、無視されたり、果ては、口をふさがれる。
でも、危険は現実にそこにある。
あなたは、無視されたり、発言を封じられたりすればするほど、大きな声を出して、家族に伝えようとする。
「本当に危ないんだ、わかってくれー、逃げろー!」
これが、我慢し忘れられている感情の気持ちだ。
一見ネガティブで、どんなにないほうが楽だと思える感情でも、あなた自身を守ろうとしてくれている。
だから、無視してはいけない。
まずは認めること。
その上で、感情と理性を上手に調和させながら、現実の行動を選択していく。
自分を否定し、周囲に合わせて頑張っていた「子どもの心」だけでなく、自分の感覚も尊重し、状況に応じて適切な行動を柔軟に選択できる「大人の心」へ。
それを鍛えることが、感情との適切な付き合い方になる。
といって、これは、決して、心構えの話ではない。
「大人の心」を鍛えるための、具体的な感情の取り扱いのステップを、紹介していこう。