家庭内暴力の解消法

家庭内暴力とはどういうものか

家庭内暴力に入院治療は有効か

二十代の息子の家庭内暴力で困っています。

母親にあれこれと指示・命令し、そのとおりに従わなければ大声で罵り、あげくに殴る蹴るの暴力がはじまります。

もうそんな状況が3年以上も続いていますが、精神的にも肉体的にも限界です。

強制的に入院させるほかないのでしょうか?

ここではあえて、断定的に申し上げます。

家庭内暴力については、入院は最悪にして、最後の選択であるということです。

とりわけ強制的な入院だけは、絶対させないでいただきたいと思っています。

家庭内暴力が入院治療で解決することはまずありません。

逆に、入院させなくても治す方法はいくらでもあります。

もちろんご本人が入院治療を望む場合はその限りではありません。

しかし一般に家庭内暴力の事例は、入院はおろか、外来に顔を出すことすらまれです。

強引に治療を受けさせようと考えるなら、ご家族が入院治療をまず第一にお考えになるのも無理からぬところとは思います。

しかし家庭内暴力の入院治療は思いのほか困難です。

まず強制的な入院についてですが、医療保護入院をさせるにしても、なんらかの精神疾患がなければ不可能です。

しかし家庭内暴力の事例は、ひきこもりと同じく、とりたてて精神病を伴わないことのほうがむしろ多い。

不思議なことですが、子どもが親に対して暴力を振るう場合はかなり安易に入院治療という発想が出てきますが、夫が妻に暴力を振るう場合は、夫を入院させるという発想はまず出てきません。

両者は問題としても病理としてもほとんど同一であると確信しておりますから、家庭内暴力の子どもが入院治療を受けるべきなら、まったく同じ理由でDV(ドメスティック・バイオレンス)の夫も入院させられるべきでしょう。

また、かりに警察経由などで入院治療が開始された場合はどうなるでしょうか。

もしご本人が精神疾患を伴わない家庭内暴力のケースであるなら、入院後の展開はおそらく次のようになるでしょう。

まず入院の翌日から、ご本人はなんの問題もない物静かな青年として振る舞うでしょう。

面接ではきわめて礼儀正しく、しかしけっして担当医に内面をあかすことはないでしょう。

他の患者さんは「なぜあなたのような何でもない人が入院しているの?」と不思議がるでしょう。

このように問題も症状も乏しい「患者さん」を、長期間医療保護入院という名目で入院させておくことは不可能です。

一カ月ほどして、担当医はご家族に告げるでしょう。

ことお子さんは病棟では何のもんだいもありません。もう帰宅しても大丈夫でしょう」

そして退院したその日から「お礼参り」がはじまります。

「なぜ入院させた」「精神病院なんかに入れやがって」「入院中の苦しみは、倍にして償ってもらうぞ」などと叫びながら、ご本人は入院前以上の激しい暴力を振るいはじめるでしょう。

以上のような展開を何度も目の当たりにしてきたセラピストは、家庭内暴力の入院治療が意味のあるものとはとても考えることはできません。

しかし、入院治療に踏み切らずとも、家族のしっかりした覚悟さえあれば、家庭内暴力をなくすことは十分に可能です。

以下の項目で、その方法を詳しく述べていきたいと思います。

家庭内暴力は犯罪にエスカレートしていくか

19歳の息子ですが、ひきこもりはそれほどでもないのですが、激しい家庭内暴力があります。

少しでも気に入らないと母親を殴り、時には刃物を持ち出しかけたこともあります。

そのうち通り魔犯罪などをおかすのではないかと心配です。

具体的な対応策については以下の項目を読んでいただくとして、家庭内暴力と犯罪の関係ですが、ほとんど無関係と考えられます。

ところが、この点はいまだに誤解されているところで、マスコミの論調などを眺めていますと、いまだに家庭内暴力と犯罪を安易に結びつけて報道する傾向がみられます。

まず確認しておきますが、家庭内暴力というのは、家の外ではけっして暴かれないからこそ「家庭内」なのです。

外でも容易にキレて暴れたり他人に暴力を振るったりする人の問題は、「ひきこもり」とも「家庭内暴力」とも無関係ですから、ここではふれません。

外では誰が見てもおとなしい好青年、あるいは温厚な紳士が、家の中では別人のようになって家人に暴力を振るったり器物を破損したりするのが家庭内暴力なのです。

「内-外」の二面性が最大の特徴といってもよいくらいですから、もちろん犯罪とは直接に関係はありません。

ですから、この点に関しては、ひとまずご安心いただきたいと思います。

家庭内暴力は予防できるか

家庭内暴力はどのように防ぐことができるでしょうか。

それは果たして予防可能なものでしょうか?

家庭内暴力を予防することは十分に可能です。

そのためには、家庭内暴力が生ずる「条件」を知っておく必要があります。

「原因」ではなくて「条件」です。

家庭内暴力が起こるには、1.密室化した家族関係があること、2.そこで「退行」が起こっていること、の二つの条件が満たされる必要があります。

1.密室化とは、家族以外の誰も入り込めない家庭環境があり、家庭内暴力に対して干渉も介入も不可能であることを意味します。

2.の退行とは、いわゆる「幼児退行」などの退行ですが、ここは文字どおり「子ども返り」とご理解ください。

ひきこもり生活が長期化すると、ご家族によるご本人の抱え込みによって、1.の密室化が起こりやすくなります。

密室化は2.の退行=子ども返りをいっそう促進します。

言動が幼稚化し、なかには文字通り赤ちゃん言葉でしゃべり出すような事例もみられます。

このため予防には、以上の条件が成立しないように工夫していただく必要があります。

まず密室化を防ぐことですが、これはご家族が社会参加するなどして活発に動き回ることで、ある程度可能になります。

もちろん普段から家に来客が絶えないようにしておくなどの工夫も大切ですが、こちらはご本人が非常にいやがる可能性がありますので、そういう習慣がない場合は、あまり無理になさらないでいただきたいと思います。

次に、ご本人を退行させないことです。

退行させないためにはどうしたらよいか。

そのためには、まず第一にスキンシップをさせないことです。

身体接触の禁止、これが第一番目の鍵を握っています。

もう成人したお子さんにベタベタ触られて、いやがりながらも容認してしまっている親御さんは結構多いのですが、それは大変危険なことです。

握手とか肩を揉むとかそのくらいは常識の範囲としても、それ以上のもの、ましてセクシャルなタッチなどまで強要されるべき治療的根拠はなにもありません。

夫婦間暴力でもそうですが、家庭内暴力は必ず性的なニュアンスを帯びてきますから、二重に危険を伴うのです。

また身体接触に「ここまでなら良い」という線引きをすることはきわめて困難です。

スキンシップは一律に避けること、この単純なルールで十分かと思います。

断るときは、はっきり「いやだ」と断っていただきたいと思います。

断る場合の大事なポイントは、「ダメよ」ではなく「いやだ」と言うことです。

「ダメよ」というのは、相手を子ども扱いしてたしなめる言い方であって、しかも勘ぐれば誘惑的にも響く可能性がある。

勘ぐる余地がないほど明確に「イヤだ」と表明することで、「親の中の個人」の部分を強調していただきたいわけです。

ただし、拒否するだけでは殺伐としてしまいますから、スキンシップを禁止した分、ご本人の依存要求を会話で補うという形をとっていただきたいと思います。

一般に退行が進行すると、会話も乏しいものになりがちです。

逆に言えば、十分な会話は関係性の密室化を防ぎ、退行を食い止める潜在的な力をもっていると思います。

家庭内暴力の対処法

暴力をどうやって拒否するか

暴力はどの程度受容し、あるいはどの程度拒否で臨むべきでしょうか?

暴力に関する枠組み設定は非常に単純で「いかなる暴力も100%拒否する」、これが唯一の指針です。

どんな暴力にも甘んじてはいけません。

器物破損についてはケースバイケースのところがありますが、身体を叩く、殴る、蹴る、などといった肉体的暴力は、それがどんな些細なものであっても拒否する姿勢で臨んでいただきたいのです。

ただし、拒否するというと対抗することだと誤解される場合がありますが、もちろん暴力に暴力で対抗してはいけません。

ご本人がまだ中学生ぐらいだと、つい親御さんの力で抑え込んでしまいがちですけれども、これは間違った対応です。

その時は抑え込んだつもりになっても、身体的に成長してからその恨みが爆発する可能性があるからです。

暴力は暴力の連鎖しか生まないという常識をもう一度確認しておきましょう。

暴力は拒否するしかありません。

家庭内暴力では主に母親が犠牲になりますから、母親が独立した判断力を備えた一人の個人であるという認識を常にご本人に持ってもらうためにも、意志表示はしっかり示していただきたいと思います。

それが受容の枠組みを設定するうえでの大事なポイントです。

家庭内暴力への対応

すでに起こってしまった暴力に対しては、どのような対応で臨めばいいのでしょうか?

起きてしまった暴力については二つの段階に分けて考えていただきたいと思います。

「初期の暴力」と「慢性化した暴力」です。

初期の暴力というのは、起こり方が単純な、因果関係のはっきりした暴力のことです。

要するに、親御さんが悪い刺激をした結果、起こっている暴力です。

親御さんが地雷を踏んづけているわけです。

ですから対応方針も単純で、要は地雷を踏まなければいいのです。

ただしそのためには、どういう刺激がご本人にとって悪いかということを慎重に検討していただく必要はあるでしょう。

もちろん何がイヤだったかをご本人に聞いていただいてもかまいません。

意外に気付かれにくいのは喋り方とか、そういう微妙な部分に対する反発です。

お父さんが非常に偉そうな言い方をするとか、お母さんが常に皮肉を込めて喋るとか、そういう態度が暴力を誘発する場合もありますので、態度にも十分に気を配っていただきたいと思います。

いっぽう慢性化した暴力というのは、一番家庭内暴力らしい家庭内暴力です。

ごく些細なことから、あるいは何のきっかけもなしに、毎日のように突発する暴力です。

こうなると、もはや刺激をやめるだけでは治まりませんし、いろいろな意味で一筋縄ではいきませんので、かなりラジカルな対応が必要になってきます。

DV(ドメスティック・バイオレンス)は夫が妻に振るう暴力のことです。

DVも家庭内暴力も基本的メカニズムは一緒だと思っています。

家庭内暴力の現実的な対応法は、三通りしかありません。

一番目は第三者が介入すること。

二番目は司法の介入、これは警察への通報です。

三番目は避難です。

第三者の介入については、こんな経験があります。

ある事例でご兄弟のフィアンセが同居しはじめたら急に家庭内暴力が治まってしまったというケースがありました。

家庭内暴力は、家庭という密室で起こる暴力、言い換えるなら他人の前では起こらない暴力です。

だから他人が家に住んでしまえばいいわけです。

もし可能であれば下宿人を置くとか、海外留学生を受け入れるとか、そういう工夫をなさると、暴力は簡単に治まってしまうでしょう。

次に司法の介入、つまり警察への通報です。

これはこれで有効なのですが、なかなかここまで踏み切れるご家族は少ないようです。

一つは世間体、もう一つは報復を恐れるからです。

世間体は乗り越えていただくほかはありませんが、報復に関してはタイミングさえ誤らなければ防げます。

少なくとも、ご家族が怪我を負うほどの激しい暴力が続いている場合は、一度は通報したほうがいいでしょう。

ただ、タイミングは重要です。

その暴力が起こった直後に通報すれば、その時点ではご本人も罪悪感にかられ、反省していますので、通報されてもやむなしと納得してくれます。

しかし昨日起こった暴力で今日警察を呼ぶというように間があいてしまうと、そのことで再び本人の怒りと恨みを買うことになりかねません。

ひきこもりや家庭内暴力をやっている人というのは、けっして善悪の判断がつかないわけではなくて、そうせざるをえないところまで追い込まれて暴れているのですから、悪いことをしたという自覚のあるうちに対応すれば、そんなに恨まれることはないということです。

最後に避難についてですが、これをお勧めすることが実は一番多いのです。

これにはいくつか押さえておくべきポイントとコツがありますから、次の項目でふれることにしましょう。

家庭内暴力からの避難マニュアル

それでは、避難の方法について具体的に教えてください。

家庭内暴力から避難することは、克服していく上できわめて有効な対応でありえます。

しかし問題はやはり「ただ逃げればよい」と誤解されてしまうことです。

やみくもに逃げるだけでは、下手をすると逆効果ということになりかねません。

あくまでも「いかに巧みに逃げるか」ということを考えていただきたいと思います。

避難において重要なのは次の三点、すなわち1.逃げるタイミング、2.避難中の連絡、3.戻るタイミング、です。

この三点を正確に理解し実行していただければ、避難はおおむね成功すると思います。

逃げるタイミングは、大きな暴力の直後がいいでしょう。

これは逆に言えば、暴力が起こっていないのに避難してはいけないということです。

つまり、この避難計画は暴力を少なくとも一度は受けることを前提にしていますから、その意味ではご家族に辛い負担を負っていただかざるをえず、この点は申し訳なく思います。

これを防ぐには、いつでも有効とは限りませんが、あらかじめ避難を予告しておくという方法もあります。

「それ以上暴力をふるうなら逃げる」「もしまた暴力を振るわれたら逃げる」などと、あらかじめ告げておいたほうがフェアですし、ケースによっては抑止効果も期待できるでしょう。

さて、もし暴力が起こったら、避難は必ずその日のうちに完了してください。

暴力を振るわれている最中に無理に逃げるのは危険です。

いったんおさまってから避難してください。

なお避難先についてはホテルでもご実家でもかまわないと思います。

ほかにもシェルターやウィークリーマンション、長期化しそうなら、アパートを借りるという方法もあるでしょう。

いささか突飛ですが「入院する」という方法もあります。

ここで大事なことは、親御さんが家から逃げ出すと、ご本人は「自分は親から完全に見捨てられた」という深い絶望感にとらわれますので、これを防ぐことです。

そのためには、家を出たらすぐ、これもその日のうちに、外から電話を入れることです。

電話口で「これから定期的に連絡する、生活の心配はいらない、いずれは帰るがいつになるかはわからない、どこにいつかも教えられない、暴力が完全におさまるまでは帰らないが、あなたを見捨てたわけではない」とはっきり告げるわけです。

こうすることでご本人が絶望感にとらわれてしまうのをかなり防ぐことができます。

もしご本人が電話に出なくても、それはそれでかまいません。

「連絡を試みた」というアリバイができればいいわけですから。

それ以降は定期的に電話連絡を続けてください。

なお、あまり長電話になるようでは逆効果ですから、だいたい5分程度を目安にして切るようにしたほうがいいでしょう。

最後は、戻るタイミングです。

おそらくご本人は暴力の直後か翌日には、かなり反省して謝罪したり「もう暴れない」と誓約したりしようとするでしょう。

しかしそうした態度にほだされてあっさり帰宅してしまっては元の木阿弥です。

親御さんが避難した後のご本人の感情は、まず「後悔」に傾き、しばらくすると「怒り」に変わります。

この時期に電話しますと、ご本人は逃げたことを非難し「帰ってくるな」「家に入れない」などと暴言を吐くでしょう。

もちろんそんな状況下では戻れません。

しかしこうした「怒り」の時期もそう長くは続きません。

次第に避難された事実を受容し、もはや暴力は振るえないのだと悟る「あきらめ」の時期がやってきます。

この「あきらめ」の段階が「戻るタイミング」です。

ここまでに最低でも一週間はかかるでしょう。

この時期になったら、とりあえず一時帰宅をしてみます。

ここで大事なことは、すぐ同居をせずに一時帰宅を繰り返すことです。

もちろん帰宅の際には、ご本人に暴力を振るわないと約束をさせることもお忘れなく。

この一時帰宅の段階で特に暴力もなく、通常の会話ができるような状態が続くようであれば、本格的に帰宅してかまわないでしょう。

以上の対応は、専門家との連携があればなおスムーズかもしれません。

ただ、こうした家庭内暴力への対処法は自明のことですが、他の治療者にはこうした方法論に必ずしも賛同していただけない場合もありえます。

その場合、ここで述べたポイントさえ十分にご理解いただけるなら、ご家族が独自に実行しても十分に成果を挙げることができると考えられます。

言葉の暴力や器物破損

言葉の暴力にどのように対処するか

言葉の暴力が目立ち、母親を「ぼけ」とか「バカ」とか呼び、「こうしろ」とか「持ってこい」とか命令調です。

「そんな言い方はしないでほしい」と言いますが受け入れません。

どう対処すればいいでしょうか?

言葉の暴力も慢性化すると退行を促します。

ただ、確認しておかねばならないのは、いま現在のお母さんの対応は、ご本人を刺激するものにはなっていないでしょうか。

また、日常的な会話は十分にされたうえで、このような言葉が出ているということでしょうか。

もしそうでないのなら、やはり基本は十分なコミュニケーションからということになります。

そうした努力がことごとく無視され、どうしても暴言がやまないなら、この場合は毅然とした対応が望ましいといえます。

引き続き「その言い方はやめてほしい」と言い続け、やまなければ乱暴な言い方には一切応じない、という対応に切り替えます。

ここでもし暴力が出るようなら、もちろん暴力への対策に切り替えましょう。

壁を殴って穴をあける息子

二十歳の息子です。

誕生日を過ぎてから荒れるようになり、壁を殴って穴をあけたり、窓ガラスを割るなどの暴力行為をするようになりました。

やめさせようと思ってこちらから何か言うとますますひどくなるのですが、どうしたらいいでしょうか?

まだご家族への肉体的な暴力は伴っていない段階という前提でお答えします。

もしそれが伴っている場合は、もちろん前述項目の対応をご参照ください。

器物破損についてはまず理由を尋ね、はっきりしないようであれば「そういうことをされると非常につらい」という親御さんの感想を繰り返し丁寧に伝えていったほうがいいでしょう。

もちろん頭ごなしに叱ったりすることは論外です。

実はご本人も、やってしまった後で、すっきりするよりはむしろ後悔している可能性が高いのです。

そのことを考えるなら、何の反応も示さないのは、かえって不自然でしょう。

こうした器物破損タイプの暴力については、壊されたらすぐに修復していただきたいと思います。

治療者のなかには、「きりがない」あるいは「みせしめ」の意味で修復しないことを勧める方もおられるようです。

そちらにも一理はあります。

実のところ、どちらでもそんなに大差はないのではないかと考えられます。

片づけることを勧めるのはまさに「みせしめ」の発想がそぐわないからです。

それと、壊れたままにすることで暴力の記憶が刺激されないか、ちょっと心配です。

少なくとも、それを見て単純に反省する可能性は少ない。

むしろきれいに直しておいたほうが、また壊す可能性を小さくできるのではないでしょうか。

いったん壊れたものをもっと壊すのは抵抗が少ないですが、きれいにしたものをまた壊すのは、けっこう抵抗があるはずです。

ただ、破壊がご本人の部屋の中でしか起こっていないなら、もちろん口を出すべきではありません。

ほんとうに困って「直して欲しい」と言ってくるまでは、そのままにしておきましょう。

大きな破壊の場合は、必ず専門の業者に依頼してください。

これには二重のメリットがあります。

破損個所をそのままにしておくことの問題はさきほど述べました。

また、壊すと必ず業者が家に入り込んでくるという慣例ができると、ご本人は恥の意識と、他人に家の中に上がり込んでほしくないという気持ちから、暴力をこらえる方向に向かう可能性もあります。

こちらもぜひ、試みていただきたいと思います。

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家庭内暴力から避難して二週間、以後の対応について

資格試験に失敗し、ひきこもって四年になる二十六歳の息子です。

母親の私を嫌って拒否、直接暴力は振るいませんが壁や家財を壊したりしてイライラをぶつけます。

父親はじっくり話しかけるので表面的には強く反発はしませんが、はなしを聞いていると正論や説得なので本当に通じているとは思えません。

今回夫が地方へ単身赴任し、その夜から器物破損がどんどんエスカレートしてきたので、私はいたたまれず夫の転勤先に逃げて二週間が経ちます。

メールをいれても一切無視しているので対応に困っています。

暴力から避難されたことは正解だったと思います。

ただ、どうも逃げっぱなしになっている印象もあります。

逃げるにしても守るべき原則がいくつかあるのです。

たとえば器物破損止まりの暴力であるなら、まず冷静にそれを制止し、やめない場合は避難も辞さないことを十分に伝え、そのうえで避難するといった手順があっても良かったと思います。

また本当なら、避難した直後からまめに電話連絡を試みるなどして、ご本人との接点を維持しておくべきでした。

ただし、まだ連絡を試みる意味はあると思います。

メールは無視しているとのことですが、これは要するに返事がないという意味ですね。

しかし、ご本人は必ずメールは読んでいると思います。

メールで日時を予告したうえで、電話連絡を試みてはいかがでしょうか。

また、そういった方法に反応がまったくないのであれば、一度帰宅してみることをお勧めします。

その場合も、きちんとメールで予告したうえで、訪ねていただきたいと思います。

その際お母さん一人では心配な点もありますので、可能な限りお父さんも一緒に帰宅されたほうがよろしいでしょう。

ものに当たってしまう次男

大学途中でひきこもり、今年で三年目になる二十四歳の次男は、しばしばイライラしてものに当たったり、廊下に水をまき散らしたりします。

長男は私の対応を甘いと批判的で、「今度会ったら厳しく言ってやる」といいます。

父親も状況の理解が難しく、正論でものを言ってしまうので「とにかく黙っていて」と止めている状態です。

お父さんやお兄さんの厳しい対応でご本人が変わる可能性はきわめて低いと思われます。

むしろお父さんやお兄さんへの不信感が高まり、いっそう断絶が決定的になったり、大暴れになったりしてしまう可能性もあります。

また、御兄弟間のこうした説得は、まず間違いなく双方が感情的になるのみで、実りある結果に至る可能性は限りなくゼロに近いでしょう。

ですからまず、お兄さんだけでも関わることをやめていただく必要があります。

お父さんについては、ちょっと時間をかけてみる必要があるかもしれません。

たとえばお母さんのほうから、このような提案をしてみてはいかがでしょうか。

「あなたの方法ではうまくいかないと思う。

そのように本にも書いてあるし、講演会や勉強会でもそう言われている。

でも、たぶんあなたはそうは思っていないでしょう。

だから、あなたがそれをすることは止めません。

でも、ひとつ約束してほしい。

今度そういう方法でうまくいかず、ますます荒れるようなことになった場合は、やり方が間違っていることを認めて、私が勧める方針を取り入れてほしい。

私のやり方も試させてほしい。

もし、私のやり方で次男によい変化が出てきたら、そのときは私のやり方が正しいことを認めて、協力してほしい」

ちょっと長くなりましたが、喧嘩みたいにして問い詰めるよりも、まずは穏やかに、こうした提案から始めてみるのも一つのやり方ではあると思います。