仕事に打ち込むことは、自分を育て、自分の人生を作るベースである。
明確な目標を持って、誠実に日々の仕事に取り組むこと。
これを積み重ねていくことで、自己価値感に満たされた自分に出会うことができる。
消去法で決める
学校で優秀でも、必ずしも仕事や生活していく自信には結びつかない。
学校で求められる能力と、仕事や生活のための能力とは切り離されているからである。
これに対し、仕事とはまさに生活能力そのものであるから、仕事で自信を持つことは生きることそのものへの自信になる。
逆に、仕事に打ち込む日々がなければ、生きる自信が得られず、無価値感から逃れることは出来ない。
エリクソンが青年期の発達課題として、アイデンティティの獲得を挙げているが、その主要な内容の一つは、職業を決めるということである。
彼によれば、職業の決定にあたり、悩んだり、迷ったり、苦しんだりするのは普通の青年の姿であり、青年期とはそのための模索の時期と位置づけられる。
早くも高校を卒業するときに仕事を決定できる人がいる。
また、専門学校や資格取得のための学部・大学に進学するなど、実質的に職業選択をする人もいる。
しかし、多くの人は大学に進学すること自体が目標であり、その後の職業までを見通していない。
このために、就職活動を始める時期になって悩む大学生が出てくる。
仕事をしていく自信がない。
やりたい仕事がない。
どんな仕事が自分に合っているのか分からない。
そんなことで就職活動に動き出せない。
こうしたつらさから悩んでいる学生に消去法で決めることを提案している学校もある。
「自分には無理」「自分には合わない」、そうした職種を消していって、残った仕事にとりあえず挑戦してみるということである。
「これならできるかもしれない」、そう思えたら上出来である。
「これ以外、何も残っていない」という選択でもいい。
ともかく、消去法で選択した仕事に向けて懸命に就職活動をすること。
決まったら誠心誠意勤めてみること。
そのあとで、また考えればいい。
就職活動でせっせと動いている人たちも、必ずしも「これだ!」ということで決めているわけではない。
その証拠に、入社三年で三割近くの人が辞めていく。
就職しても、仕事上で自信がないとか、自分が劣っていると感じられるようなことがあるかもしれない。
そんなときは相手にどう思われるかなんて気にせず、積極的に先輩や上司に教えを乞うようにしてほしい。
職場ではいくつかのグループができるが、真面目な人柄で建設的な生き方をする人たちのグループに属するように心がけるのも大切である。
仕事をしていれば、失敗や挫折はつきものである。
大企業の社長なども、若いときに失敗をした体験があると語る人が少なくないそうである。
iPS細胞の研究でノーベル賞を受賞した山中伸弥氏でさえ、大きな挫折を体験している。
外科医を希望していた彼は、手術のアシスタントをしても役に立てず、指導の先生からは山中ではなく、「邪魔中」と言われるほどで、外科医の夢を諦めて基礎医学に方向転換したという。(山中伸弥・益川敏英著『「大発見」の思考法』文春新書)
失敗で委縮したり、諦めてしまうのではなく、失敗をその後に生かすように向き合うことである。
通常、失敗はそれ自体の問題よりも、その後の対処の仕方が問題である。
すなわち、失敗とは、うまくいかなかったことに対してきちんと対処しないことである。
失敗はそれをバネに力をつけていけばよい。
去年よりは今年、今年よりは来年と、目標を明確に持って力をつけていくことである。
自分にぴったりの仕事など存在しない。
多かれ少なかれ自分を仕事に適合させていくしかない。
ある程度満足できそうな仕事に徹底的に打ち込んでみる。
それによって、自分の力がついて、仕事を楽しめるようになって、やがて適職と思えるようになる。
それでもどうしても満足できなければ、道を変えればいい。
私の周囲にも一度選択した職業を捨てて、進路変更した人が少なからずいる。
ある人は数字から心理学に専攻を替えた。
大学院で心理学を一緒に学んだ学生は、不動産鑑定士の資格を取得して不動産屋になった。
ある数学の助教授は、フランス語の通訳に職業替えした。
進路変更するにしても、まずは力をつけることが適職に出会う必要条件である。
仕事にも人生設計を
現在の仕事をめぐる状況は、自己価値感を高めてくれるよりも、むしろ無価値感を体験させられることが少なくない。
また、多忙さや過重労働により、与えられる仕事をこなすだけで終わってしまい、仕事を通して成長できず、消耗するばかりという状態になりかねない。
とりわけ、無価値感を持つ「いい人」ほどこの危険がある。
「あの人ならちゃんとやってくれるから」と、面倒なことがどんどん回ってくる。
それを頼りにされているという満足感で引き受けてしまい、便利に使われてしまうからである。
仕事を通して自分の望む方向に成長し、自己価値を実感し、よりよい人生を築くためには、仕事と自己実現とを重ね合わせた明確な人生設計を持つ必要がある。
一日何時間も、30年、40年と精力的に取り組むのが仕事。
だから、人生設計を持って仕事に臨む人と、ただ目先の仕事をこなしていくだけの人とでは、やがて大きな開きができてしまう。
仕事が夢の実現である人
仕事と自己実現とが重なっている人がいる。
それは夢を仕事にできた人である。
しかし、そればかりではない。
逆に、仕事を夢にできた人も含まれる。
すなわち、必ずしもその仕事に就くのが夢ではなかったのだが、仕事をしていくうちにその面白さや意義に目覚めた人である。
いずれにしても、仕事イコール自己実現という人は、好きが仕事のベースになっており、幸福な人生の有利な条件を手に入れたといえる。
仕事と自己実現とが重なる人は結構多い。
特別な才能を生かせた人たちや、特別な資格を取得した人達ばかりではない。
好きを仕事にしている多くの人たちがいる。
電車が好きで電車の運転士になった。
美容関係の仕事が好きで美容師になった。
自分で起業するのが夢で会社を作った。
パソコン関係の仕事が好きでIT企業に勤めている。
大部分の研究者もこれに該当する。
仕事と自己実現とが重なる人は、全身全霊を仕事に打ち込んでいける。
それで悔いはないし、むしろそうしなければ悔いが残る。
ただし、こうした人も、人生設計と明確な目標を持って仕事に打ち込むことが必要である。
現在の自分には何が欠けているか、いっそう仕事の能力を高めるためには何が必要か、そうした課題を明確にして追求することである。
料理の鉄人で有名な道場六三郎氏の次の言葉をかみしめたい。
「ダラダラと働いても仕事って覚えられないんですよ。自分でテーマをつくらないと。僕の場合は若い頃から、今年は何と何と何とを覚えようと、必ずノートに書くようにしてきました。」
仕事と夢とが異なる人
仕事と夢の実現とが異なる人の中には、いわゆる二足の草鞋を履く人がいる。
医師でありながら作家。
銀行員でありながら音楽家。
会社員でありながら経済研究者。
地方公務員でありながら郷土史家等々。
こうした人の多くは、仕事と自己実現の両方を楽しめるという特権を有している。
今の仕事を離れて夢を追いたい人もいる。
たとえば、仕事で要求される能力が自分の望む能力とは異なる場合。
自分の位置が機構の歯車の一つで、成長がこれ以上望めない場合。
希望する職種についたが、飽き足らなくなって次へのステップを求めている場合。
さらに、現在の仕事にどうしてものめり込めない場合などがある。
こうした場合でも、現在の仕事の自己実現的要素を生かすようにしたい。
自己実現的要素とは、その仕事を通して自分が成長できて、その成長が自分の目標達成になんらかの役に立つことである。
いかなる仕事でも義務的要素ばかりでなく、自己実現的要素が含まれる。
明確な人生設計を持っている人ほど、仕事の自己実現的要素を利用できる。
だから、今の仕事をおざなりにしないで、自己実現のために学べることは学ぶように真剣に取り組む必要がある。
仕事は主体的に取り組むほど面白みが出てくる。
仕事を給料をもらうための義務だと考えずに、プレイ(遊び)だと考えたり、成長するためのチャレンジ課題だと考えたりする。
そして、もっと楽しく、もっと楽に、もっと効率的に、もっと上手にやるにはどうすればよいか、日々、創意工夫の姿勢で臨むようにする。
また、仕事上の嫌なことは、意味づけを変えたり、新たな意味を与えたりすることで、ストレスを減らすことができる。
こまごまとした雑務も給料に含まれると思えば、処理しようという気持ちになる。
職場でのストレスの多くは人間関係であるが、人間関係に堪えるのも給料のうちと割り切ることにする。
いらいらさせられる上司に仕えるのは、人間としての幅を広げるための訓練と意味づける。
そして、上司と自分を入れ替えてみて、自分ならどのようにふるまうか、自己成長の材料にすることができる。
ともあれ、現在の仕事を卒業して別な自己実現的仕事に就きたいのなら、そのための実行計画を持たなければ実現しない。
そうでなければ、満足できないままに今の仕事を続けることになるか、見通しもないままに無謀な行動に出てしまうかもしれない。
単なる夢にとどまらず、その夢を実現するために、自分が獲得すべき能力は何か、いかなる行動をするべきか、それらを明確にして目標として設定する必要がある。
これを粘り強く追求し、毎年、その作業を繰り返していくことで、やがて大きく成長できるし、夢の実現に近づくことができる。
現実的な計画を立てて、自分を信じて行動を開始することである。
資格を取得する必要があるなら、そのための計画を立てよう。
職業の変更は人生の後になるほど困難になる。
できるだけ早めに決断をして、できるだけ早く計画の実行を開始することである。