人は新しい価値観を知り、受け入れていくことで、他人も自分も許せるようになっていく。
その価値観を広げる二大チャンスが「結婚」と「就職」である、と考えている。
特に、結婚は「異文化との遭遇」。日常生活をともにする分、夫婦はぶつかりやすいもの。
今度は、こうした夫婦がうまく折り合うコツを考えてみよう。
夫も妻も”エネルギーが低下していく者同士
恋愛の”賞味期限”は三年まで、という説がある。
恋愛という感情はDNAを残すのが目的。
1人の人を世界で一番愛して、子どもを作り、ある程度まで育ってくれたら、恋愛の目的は達成されるからだ。
どんなに熱い想いで結ばれた夫婦も、やがて恋愛感情は終わる。
すると、日常生活の中では人間と人間の付き合いになり、やがて価値観の違いのほうが目立つようになっていく。
また、夫も妻も等しく年を重ねていく。
許容範囲もだんだん狭くなってくる。
夫婦に訪れる代表的なクライシスを知っておこう。
一つ目のクライシスは、この恋愛モードが終わる時。
しだいに価値観の差が気になり始めると同時に、初めての出産、子育てが重なりやすい。
ライフイベントの重なりで消耗し、お互いの許容範囲が狭くなってくるのだ。
自衛隊員が海外に派遣されると、慣れない環境で緊張した勤務をするのだが、一番大きなストレスは、意外にも人間関係だ。
優秀で好感を持っていた隊員同士が、同じ部屋に入った。
当初は仲間意識のほうが大きいが、三カ月もすれば、緊張感はあるものの、同じパターンの勤務に疲れを感じるようになる。
すると、生活面でも日常のちょっとしたことが鼻につき始めることがある。
例えば、洗濯物の干し方、取り込み方。
洗面所の使い方。
食べ方の癖・・・。
元気な時は許せる相手のちょっとしたことも、つかれてくると次第に我慢ができなくなり、喧嘩になってしまう。
誰にでも経験があるだろう。
夫婦も同じである。
子育ての方針、家事の分担、実家や近所との付き合い方など、お互いのエネルギーが豊富な時は表面化しなかったことが、年月とともに、次第に浮かび上がってくる。
結婚数年目の後は、35歳クライシスだ。
そのころに、動物としてのエネルギーの低下が顕著になってくる。
家庭と仕事のバランス、パートナーと自分のライフスタイルに悩む時期でもある。
次は、50代。
仕事や家事に精力を傾けなければならない。
その一方で更年期などの体の変化で、大きなエネルギーを使う。
最後は、定年後。お互いのエネルギーはかなり低下している。
と同時に、二人の時間が多くなる。
それぞれの価値観は、もうなかなか変えられない。
一方で、老後の不安、親の介護、子どもの独立支援、などの現実的な問題には、共同して対処しなければならない。
このように見てみると、まさに夫婦とは、二人の価値観の闘い、クライシスの連続だ。
人間関係の悩みで調査すると、対象で最も多いのが「配偶者」。
離婚する人も多いが、別に離婚が悪いことではない。
苦しい関係を続けるより、よほど建設的だ。
しかし、「結婚はたやすく、離婚は難しい」と言われるように、長く婚姻生活を営み、子どもや親族を巻き込んだ関係を終了するとなると、周囲にもかなりの影響を及ぼすし、何しろ大変な労力が必要になる。
できることなら、大人の知恵を使い、上手に価値観を共有していきたいものだ。
ポイントは、なんといってもコミュニケーション。
人は嫌になると、話さなくなる。
情報がないとお互いの行為を、最初から悪くとりがちになってしまう。
先の自衛隊の例でも、少人数単位の毎日のミーティングを開くようになったら、不要なトラブルが減ってきた。
上手にコミュニケーションをとることが、夫婦が折り合うためにも有効だろう。
ただし、男性側と女性側とで気を付ける点が違う。
夫が気を付けること、妻が気を付けること
日曜日の朝。
共働きのHさん夫婦にとっては、一週間ぶりの休日。
夫は朝、ちょっと早起きをして散歩に出た。
今日は休みを利用していろいろやりたいことがある。
その前に朝の散歩で気持ちもリフレッシュしたかったのだ。
充実した気分で家に帰ると、妻が不機嫌な顔で起きていた。
「どこに行っていたの?」「え?ちょっと散歩だけど」「何で散歩行ったの?いいわね、自分のペースで。私だって好きなことしたいのに、朝ご飯をつくらなきゃいけないんだから」
どこにでもあるような夫婦の会話だ。
夫婦が折り合うため、ここで、夫が気を付けるのは、「言わなくてもわかるだろう」というような態度を取らないこと。
男性はとかくコミュニケーション自体が少ないものだ。
できるだけ、「今日は散歩の後に、これとこれとこれをする予定なんだ」とか、「これをしたくない」など、こまめに言葉で表現することだ。
これに対して、妻が気を付けることは、攻撃的でない会話を振っていくこと。
女性はコミュニケーション術が男性より長けているので、言葉が上回る。「どこ行っていたの?」
と、いきなり非難がましく言うのではなくて、せめて「おかえりなさい」を初めに言う。
とはいえ、「異文化の遭遇」である夫婦間で、言い合いがゼロになることはなかなか難しい。
一番やってはいけないことは、お互いに我慢をしてしまうことだ。
我慢の量が多くなるほど、暴発してしまう。
こまめに我慢を吐き出しておく、こまめにケンカしておくほうが、結果、夫婦の風通しを良くするほうに働くことが多い。
「ケンカする(夫婦)ほど仲が良い」とは昔からわりとよく聞くが、それは心理学のデータでも裏打ちされている真理なのである。
■参考記事
喧嘩できない人が本音を言うチャンス
終わりの合図を作る
夫婦が折り合うために、もう一つ意識したいことは、言い合いを拡大しない工夫だ。
夫婦喧嘩で発動するのは「怒り」の感情。
どうしても本来の原因から離れて、拡大しがちである。
最初は、どうして朝の散歩に行ったかだけが問題だったのに、「どうして先に言わないの」「先に言っても文句を言うだろう」「どうして、あなたはいつもそう決め付けて何も言ってくれないの?あの時もそうだった」などと、違う話に発展していく。
こうなったら水掛け論。
建設的な話はしにくい。
ただお互いを攻撃する非難大会になってしまうことが多いだろう。
不必要な嫌悪感と防衛(恨み)記憶が育ってしまう。
時間に余裕のある時は、それでもお互いの腹の内までさらけ出すのも一つの方法だが、夫婦喧嘩は、そんなに計画的に起こってくれない。
むしろ時間のない時にこそ、発生しやすい。
勃発した夫婦ゲンカは、なるべく長期戦にしたくない。
そこで、2人なりの「終了」の合図を決めておくのがいい。
1人がトイレに入ったら終わり、子どもの話が出たら終わり、お茶を出したら終わり、など何でもいい。
できれば、夫婦ゲンカが終わってしばらくしたタイミングで、そのケンカのことではなく、終わり方について2人のルールを共有しておくのがいいだろう。
そして、次からはその終了の合図が出たら、「全力で」言い合いを終わらせる。
それが、怒りのプログラムの不必要な拡大を防ぎ、夫婦が上手く折り合っていく一つのコツである。
ちなみに、「終わり方」のことで、付け加えておくことがある。
夫婦ゲンカをルールで終わらせた場合、男性は、「終わった」のだからと、もうこの問題は、解決済みという気分になりがちだ。
けれども、女性である妻を相手に、それは無理な話だと心得ておこう。
女性は、今回の出来事の背景にある感情や過去の傷つき体験まで、しっかり、何度も話して、ようやく落ち着くものだ。
男性は、夫婦の言い争い、夫婦ゲンカ、夫婦の会議について、会社の会議のような「一つの会議で何らかの結論」「結論が出たことは蒸し返さない」というイメージ(価値観)を持ってはいけない。
夫婦の日常の言い争いは「公聴会」のようなもの。
一回では終わらない。
何回かやっているうちに、次第に感情が収まり、お互いの妥協点や対策が見えてくるのだとイメージしておこう。
また、逆に、妻の側も、話し合いが終わったのに、「でも、さっきの件だけど・・・」などと議論を蒸し返しがちだ。
「公聴会」が終わったら、少なくとも、夫の中ではその話は終わっている。
しばらくは保留する。そのことを意識しておこう。
最近は、共働き家庭の増加、晩婚、晩産という社会事情もあり、夫婦ともに疲労の要素が増している。
家事や仕事に加え、子育てと介護が重なるケースも多い。
疲れの要因は増えているのだから、その分、言い争いやトラブルが増えても当然だ。
また、年齢とともに疲れ方が変わってきているのだから、今までとは違う考え方や方法で、家庭の蓄積疲労をためない工夫を積極的に取り入れていくことも必要だ。
疲労への根本的なケアを心がけつつ、紹介したコツを試してみてほしい。