対人距離の過度な接近が起きやすい状態に、さまざまな原因で起きる脱抑制がある。
脱抑制とは、理性の座である前頭前野の制御が甘くなり、ブレーキが利きにくくなった状態である。
アルコールが入って酔っぱらった状態も、脱抑制状態だと言える。
普段は小心で緊張が強い人も、大胆に振る舞ったり、気安く相手の体に触れたりする。
もちろん、危険なことも起きる。
酒でどれだけ多くの人が、取り返しのつかない失敗をして、人生や出世を棒に振ってきたことか。
間違った相手と親しくなりすぎてしまったり、逆にケンカになってしまったりということも起きがちだ。
しかし、アルコールが入ったような状態が、酒を飲んでなくても起きることがある。
その一つが、(軽)躁状態だ。
(軽)躁状態になると、普段よりも、よく喋り、誰でも気安く声をかけ、親しげに振る舞うようになる。
自信にあふれ、気が大きくなり、行動力や頭の回転も高まる。
春から夏にかけて元気になり、(軽)躁状態になりやすいタイプの人もいるし、何か良いことや、逆にショッキングなことがあって、それがきっかけで、(軽)躁状態になることもある。
まったくきっかけとは関係なく、周期的に(軽)躁とうつが入れ替わることもある。
気分に波がある人は、軽度なものも含めればかなりの割合に上る。
テンションが高い(軽)躁のときと、うつ気味の時では、別人ほど行動が異なる。
気分や感情に波がある場合には、人との距離も変動することになる。
気分がのっているときは、人との距離は近くなりやすいが、気分が落ちてくると、人と口をきくのも煩わしい。
同じ人なのに、他者との距離感が変動するのである。
気分の波がある人と接するとき、距離感が変動することを頭に入れておかないと、戸惑うことになる。
躁状態とは気づきにくく、性格だと見間違えてしまう場合がある。
激しい躁状態になると、1日1,2時間しか寝ずに、動き回ったり、喋りまわったりしているので、明らかにおかしいと気づくが、軽躁を繰り返すタイプの気分障害では、異常というほどではないため、単に性格かそういう活力に満ちた元気な人だと思ってしまう。
軽躁のときには、恋愛をしたり、新しい事業を始めたり、投資をしたり、大きな業績を成し遂げたりすることも多く、度が過ぎない限りは、効用の面も少なくない。
軽躁の時は口も頭も滑らかで、恋愛もとんとん拍子に進む。
双極性障害(躁うつ病)の男性は、とてもきれいな奥さまを連れていることが多い。
馴れ初めを聞くと、大抵は、(軽)躁の時に、恋愛で一緒になったということが多い。
軽躁の時は、活力にあふれ、朗らかで、性的にも活発である。
異性にとっても、魅力的なのだろう。
気分の波があり距離感が変動する人への対応の基本は、相手の距離感に合わせつつ、ぶれ幅を少し抑えるということだ。
特に、(軽)躁状態では、どんどん接近してきたり、電話やメールが増えてきたりしやすい。
相手に合わせすぎていると、トラブルに巻き込まれたり、自分のペースを狂わされることにもつながる。
返信のペースを空けるなどして、あまり加熱しないように制御することが大事である。