インターネットは「ひきこもり」に有効か
ひきこもる青年にとって、インターネットの効用はどの程度期待できるものでしょうか?
あるいはネットは百害あって一利なしの存在なのでしょうか?
ひきこもりの克服への試みや支援を考える場合に、インターネットはもはや必需品であると考えております。
いまだに「ひきこもり事例にインターネットを与えたらますますひきこもってしまう」という誤解が喧伝されがちなのは嘆かわしいことですが、これは「ひきこもり」と「インターネット」の双方についてよく知らない人が陥りがちな連想ゲームにすぎないと思います。
なぜひきこもり生活にインターネットが必要なのでしょうか。
ネット上にはさまざまな出会いがあるから?
そうではありません。
それもIT幻想のひとつで、実際にはそういうことは滅多に起こりません。
インターネットを万能のツールとして推奨したいのではなく、それが使えることで「テレビ」や「電話」がもたらした程度の便利さは手に入ると思います。
なくてもさほど困りませんが、あれば多少は便利なメディア。
ないよりはあったほうがましなのですから、これはもはや「必需品」でしょう。
ひきこもっていた青年たちも治療の過程で、たとえばデイケアとかたまり場、自助グループなどの場所でいろいろな出会いを経験します。
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残念ながら、せっかくそこで出会いがあっても、それが必ずしも継続していくとは限らない。
一度親しくなった者同士でも、忘れられていることや印象が変わってしまうことをおそれて、次に会ったときには再びよそよそしくなってしまうこともよくあります。
しかし、もし最初の出会いでメールアドレスを交換していたり、メーリングリストに入っていたとしたらどうでしょうか。
実際に会えるのは月に一度程度でも、メールのやりとりなどを通じて一定の親密さを維持することが可能になります。
また、内輪のイベントなどの情報もメーリングリストなどで簡単に流せますから、出会いのチャンスそのものを増やすこともできるわけです。
ひきこもりの人はおおむね電話が嫌いで、携帯電話もなかなか持とうとしないほうが多い。
でも、そんな方でもメールだったら、わりと抵抗なく打てるということもあります。
あるいは「チャット」もなかなか有意義です。
これは文字通り「お喋り」のような、文字によるリアルタイムのやりとりです。
あるデイケア・グループでも、一時は毎週のようにチャットでもりあがっていました。
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さらにネット上には、掲示板(BBS)というメディアもあります。
掲示板というのは、文字通り掲示板がネット上にあるわけです。
そこにいろいろな人が書き込みをする。
これもコミュニケーションの場として立派に機能しています。
いずれも一定のルール(誹謗中傷の禁止やプライバシー配慮など)を守って利用すれば、親密さを維持するうえで非常に役に立つと思います。
さらに付け加えると、今、自助グループや家族会などの情報が一番充実しているのは、やはりネット上でしょう。
その意味ではご本人ばかりではなく、親御さんにとっても十分役に立つメディアだと思います。
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チャット中毒でひきこもりは悪化してしまわないか
ひきこもり一年目の二十歳の息子は、最近ネットでチャットばかりしています。
没頭し過ぎて「ひきこもり」が悪化するのではないかと心配ですが。
パソコンやインターネットは、長くひきこもり状態にあった人にとって、社会との接点を回復する窓口として、非常に大きな意義をもっていると考えています。
メールであれ、チャットであれ、家族以外の他人とかかわれることは、ほぼ無条件によいことと考えていただいてよいでしょう。
インターネットにしてもゲームにしても、あるいは両者の特色を併せ持ったネットワークゲームにしても、その中毒性と依存性は早くから指摘されてきました。
しかし、いまだかつて依存症のレベルまではまっていったひきこもり事例の経験がありません。
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逆のケース、すなわち依存が度を越してひきこもり状態に至ってしまった人はいるかもしれません。
まったく心配ないという言い方はできませんが、そうした懸念はほとんどないと考えてよいのではないでしょうか。
依存症までいくのはもちろん良くないことですが、「なにかにハマる」という経験は、ひきこもりがちな生活の中では非常に大切なことなのではないかと思います。
長期間のひきこもり生活においては、趣味や嗜好が次第にやせ細っていく傾向があまりにも顕著だからです。
ひきこもり生活を少しでも豊かなものにするためには、アルバイトよりも勉強よりも、長期にわたって熱中できる趣味を持つことが最も大切なのではないかと思います。
趣味に打ち込んでいるご本人に「そのエネルギーを仕事につかえ」と言いたい親御さんはきっと大勢いらっしゃるでしょう。
でも、そういう問題ではないのです。
趣味のエネルギーは、その趣味に向けてしか注げないものです。
むしろ十分に納得のいくまで何かに没頭できれば、そこで賦活されたエネルギーが、おのずから社会や仕事に向かうこともありうるでしょう。
この点をふまえて、今はご本人の熱中ぶりを干渉せずに見守ってあげていただきたいと思います。
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一日中パソコンをやっている
起きている間はほとんどパソコンに向かっています。
インターネットで、事件で使用された刃物はネット上で買われたなどということが報道されてから、本人が何をしているかわからず不安になりますが、もっと介入したほうがいいのでしょうか?
ご本人が成人しておられるなら、「管理」や「干渉」は最小限、つまり金銭面のコントロールだけに限定して、あまり生活面に介入すべきではありません。
最近の報道に接していろいろと不安をお感じになるのはよくわかりますが、プライバシーを尊重する姿勢は忘れないようにしてください。
刃物などの武器については、ひきこもりの人たちが自己防衛のために所有している可能性はありますが、それで事件を起こす可能性も限りなくゼロに近いと言えるでしょう。
ちょっとご質問の趣旨からはずれるかもしれませんが、ネットではたしかにいろいろなものが購入できますし、それにハマってしまう人もいます。
むしろ親御さんには、「管理」ではなく「参加」をお勧めしたいと思っています。
ネットオークションでものの売買をしてみたり、日本では入手しにくい品物を海外から取り寄せたりなど、ネットの買い物には独特の楽しみ方があります。
欲しいものをご本人に頼んで取り寄せてもらったり、一緒にオークションに参加したりしてみることができれば、コミュニケーションの活性化という点からみても、一石二鳥ではないでしょうか。
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ひきこもりの息子にパソコンを買い与えたほうがいいのか
ひきこもって十五年になる三十歳の息子がいます。
パソコンやインターネットの話をしましたら、自宅でできるならと関心を示してきました。
しかし自分からは動こうとしません。
本人が自発的に買いに行くまで根気よく待つべきでしょうか?
親が買い与えるほうがいいでしょうか。
迷っています。
まず親御さんがご自分のために購入して、毎日使ってみせるのがいちばん有効な働きかけであろうかと思います。
つまりパソコンのほうへ「誘惑」するわけです。
何事もまず「やってみせる」のが基本です。
これでもし、ご本人もやってみたいと希望されたら、いちおうはご家族共用のものとしてしようしていただくことにします。
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パソコンやインターネットの治療的意義を高く評価するものなので、積極的なアプローチを期待します。
親御さん自身がもし、「自分たちはパソコンなんかできなくてもいい」などと考えていたとしたら、ご本人にパソコンを勧めようにも、まったく説得力はありません。
まず親御さんが率先して動き、徐々にご本人を巻き込んでいくことは、パソコンに限らず有効な動機づけとなるでしょう。
その意味からも、もしご本人がパソコンに取り組みはじめたとしても、ご両親も投げ出さずにパソコンを使い続けていただきたいと思います。
導入に際しては、地道にワープロや表計算のソフトを学ぶよりも、まずいきなりインターネットからはじめてみることをお勧めします。
キーボードが早く打てなくてもネットサーフィンはできますし、なによりもパソコンならではという世界を実感できるでしょう。
日記もパソコンでつけるようにして、日に一度はさわる機会を設けるようにしていけば、次第に体になじんでくることでしょう。