創造的無能のすすめ
皮肉屋の研究者ピーターが提唱した法則がある。
それは、地位が上昇するほど人は無能になる、というものである。
たとえば、ある人が、工員として優れた技能を持っているとすると、彼はやがて職長になる。
がんばって職長として認められれば、副工場長へ、さらには工場長へと昇進するかもしれない。
しかし、工員としての技能が優れていることは、職長として部下を管理したり、工場長として工場全体を管理する能力とは無関係である。
このために、彼は地位が上がるほどそれに対する適性が欠如することになり、仕事が苦痛でストレスに満ちたものとなる。
では、どうすればよいか。
ピーターは創造的無能という姿勢を推奨している。
それは、有能さを示さず、自分に適度な場所で、楽しんで仕事をすることに徹するというものである。
自分を自分に合った位置に置く。
適所に位置することで、余裕を持って仕事ができるし、持てる能力を存分に発揮できる。
補佐役が合っていると思う人は、それに徹することである。
古代中国蜀の公明は軍師としての地位にいて、自ら主君になろうとはしなかった。
大学教員は大体が研究さえやれれば満足なので、管理的な地位を積極的に望む人は少ない。
そのなかでも、明らかに創造的無能に徹する人が何人かいた。
Tさんはもっぱら自分がやりたい学外の活動に力を注いでいた。
Sさんは多趣味でスマートで、自分独自の世界に浸ることを楽しんでいた(もっとも、こうした人は魅力的なので、職場で選挙があると選出されてしまうのが気の毒ではあったが)。
逆に、職場で地位や評判を求めて自己アピールに余念のない人がいる。
そして、多くの職場では、実際の業績や能力よりも、アピール力の方が幅を利かす。
地位はそのようになりたくて仕方がない人に任せておこう。
職場での地位など求めても、退職してしまえば何の意味もない。
あなたにとって本当に意味のあるものとは何だろうか。
それを追求しつつ、創造的無能の姿勢で余裕を持って、楽しく仕事をする方が賢明であると思う。
社内便利屋にならない
真面目で良心的な人ほど、職場で便利屋として使われてしまう。
無価値感を持つ「いい人」は、いっそうこの傾向が強い。
誰かに頼りにされ、見事にやり遂げることで自己価値を得ようとするからである。
女性は尽くすことで自己価値感を得る傾向があるので、とりわけ女性の「いい人」がこの罠にはまりがちである。
余計な仕事を背負い込んで過重だと感じる。
「何で自分だけ」などと被害者意識が湧いてしまう。
依頼を拒否したら自信がないと思われるのではないか、能力がないと思われるのではないか、認めてもらえないのではないか。
そんな消極的な気持ちから余計な仕事を引き受けているなら、あなた自身のために断る勇気をもつこと。
ただし、無理に「ノー」と言わなくていい。
今の位置は、あなたのよさを生かした位置でもあるのだから。
受ける場合は、「自分を成長させるため」と意識づけて行うようにしよう。
割り切る姿勢を身に付ける
現代の仕事の多くは、終業時間できちんとケリがつくというものではない。
そのうえ無価値感が強いと、「より早く、より多く、より完璧に」という強迫観念にとらわれがちである。
だから、どこかで割り切らないと仕事を終わらせることができない。
別に早くなくていい、締め切りまでに完成すれば。
たくさんの仕事をこなす必要はない、ほどほどのがんばりでできる範囲でいい。
完璧を求めない、一応できあがればよい。
こうした割り切る姿勢を身に付けたい。
そのためには、以下のような手立てが役立つ。
締め切りを決める
この仕事は水曜日までで終わりにするとか、5時間かけたら終わりにするなど、自分なりの制限期日を決める。
そして、その期日内に仕上げるように全力を尽くす。
こうすると、時間の割に効率的に仕事ができる。
80対20の法則を念頭に置く
これは経済学者のパレートが提出した法則で、たとえば、ある会社の収益の大部分(80%)は少数の商品(20%)によってもたらされる、というものである。
経済現象のみでなく、多方面の社会現象に当てはまり、俗に80対20の法則と呼ばれている。
ここでは、仕事量の80%は全体の時間の20%で達成されている、と考えることにする。
逆に言えば、残りの時間の80%を費やしても、20%の量の仕事しか達成できないということである。
だとしたら、多くの時間を無駄にすることになる。
たしかに、仕事の進捗具合を振り返ってみると、細かいことで(しかも、余り重要でないことで)けっこうな時間を使っていることがわかる。
20%の時間で80%は完成しているのだ。
そう考えると、ぐずぐずと時間を延ばさず、すっぱりと割り切れる気分になれる。
雑務処理の日時を決めておく
雑務は仕事中に侵入してきて、仕事への集中を妨害する。
また、雑務がたまると気が重い。
それでついつい先延ばしにする。
すると、いっそうストレスになる。
これに対抗するには、雑務処理の曜日を決めておくこと、また、一日のうちの雑務処理の時間を決めておくことである。
雑務が生じたら、とりあえず付箋紙に書いておく。
その日のうちに処理しなければならないことなら、その日の雑務処理時間に処理する。
急ぎではないものや多少時間をとるものなら、雑務処理の日に処理する。
このとき、重要なものから済ませてしまうことを心がける。