何でも打ち明けられる友達がいますか
とある心理学者のには、学生が深刻な顔で研究室を訪ね、性格的な問題、就職の問題、家族関係の問題、恋愛や友人関係の悩みなどを相談してくることがあります。
悩みの内容は人それぞれですが、相談に来る学生には二つのタイプがあるのに気が付きました。
一つは、わりと内向的で、日頃から自分自身についてつきつめた考えをめぐらし、悩むことの多いタイプです。
もうひとつは、非常に明るく元気で人付き合いには積極的、学生の間でも中心的存在で、いつもにぎやかにしているタイプです。
前者のタイプに尋ねると、クラスメートにはとくに心を打ち明けられるような親しい相手はいないし、普段からあまり人と付き合うほうではないといいます。
付き合うことが少なければ打ち解けた話をする機会が少ないのは当然です。
しかし、後者のタイプに尋ねても、やはり心を打ち明けて話すような相手がいないというのです。
友達はたくさんいるし、いつもみんなに囲まれてにぎやかにしているのですが、改めて深刻な話を持ち出すような雰囲気にはなりにくいというわけです。
人間関係にたけている社交的な人をも躊躇させるような、軽くて楽しい関係に終始すべきという現代的な人間関係のルールが、暗黙のうちに人々を支配しているようです。
現代の学生は、さっぱりした、かつ楽しい付き合いが主流のようです。
ウェットになってはいけない、とにかく楽しく、軽やかに。
友達関係にも、恋愛関係にも、そうした傾向がみられます。
ギャグやジョークをとばし、大勢でワイワイ騒ぐという形の付き合いが多いように思います。
若者を対象に行なった調査でも、二人に一人が「ウケるようなことをよくする」「一人の友達と特別親しくするよりはグループ全体で仲よくする」などと答えています。
つまり、真剣に語り合い個人的に深く付き合うというより、群れをなしてはしゃぐといった感覚的な付き合いをしているのでしょう。
だからといって、日々の生活のなかで友達の占める比重はけっして小さいわけではありません。
たとえば、総務庁の調査をみると、休日は「友人と共にすごす」という者が最も多く、生きがいに関しては「友人や仲間といるとき」に生きがいを感じるという者が最も多い。
そして、欲しい友達は「何でも話し合える人」とする者が最も多くなっています。
友人関係についてけっして冷めているわけではないことがわかります。
むしろ、深く親密な関係をほんとうは求めているのだけれど、自分をさらけだす勇気がない。
だから、個人的に深く関わるのを避け、グループのなかに逃避している、といった感じでしょうか。
専門機関の調査によると、友達付き合いに不満を感じている者には、「ウケるようなことをよくする」とか「突然まじめな話をして友達をしらけさせない」などの傾向がより強くみられました。
距離をおいたドライでスマートな関係を維持することに心を砕きつつも、それだけでは満たされない部分があり、距離をおかずに何でも打ち明けられる相手をどこかで求めている―そんな気がしてなりません。