つらさを避ける行動は、通常は適応的行動です。
ところが、人付き合いの苦手意識が強い人にとってはマイナスに作用していることが少なくないのです。
ですから、人付き合いの苦手意識の克服のためには、こうした行動を修正することが必要です。
つらさを減らす少しの行動
原則は、逃げずにぶつかること
逃げずに、ぶつかる。
これが人付き合いの苦手意識の強い人に対処するもっとも原則的な姿勢です。
逃げていると、慣れる機会が失われてしまい、抵抗力がつきません。
対処能力が磨かれません。
逃げていると、そのときは心安らかになれます。
だから、逃げる姿勢が身に付いてしまいます。
そうすると、外界はますます脅威に感じられ、人付き合いの苦手意識が強まる方向に進んでしまいます。
したがって、逃げる行動(回避行動)をとろうとする自分を意識して、気持ちを奮い立たせて立ち向かうことが必要です。
そうしたとき、行動に少し気をつけることで、つらさを減らすことができます。
その場しのぎの行動をしない
今、この場さえしのげればということで、「私のほうで処理しておきます」などと安請け合いしてしまうことがあります。
はっきり「ノー」と言わないで、そのままにしてしまうことがあります。
こうした行動は、そのときは心安らかであっても、かえってその後大きな苦手意識やストレスを抱えることになりがちです。
また、嘘をつく気がないのに、成り行きからつい事実を話せなくなり、そのつじつまを合わせるのに苦労した、という体験をお持ちの方も少なくないはずです。
このように、後で苦手意識やストレスになると懸念されることは、多少つらくともその場に踏みとどまって、その場で処理しておくことです。
見栄を張らない
私たちの不安やストレスの相当部分は、見栄に由来しています。
たとえば、知らないのについ知ったかぶりをしてしまい、その後でぼろを出しそうな場面に遭遇することがあります。
結婚式の挨拶でも、「そらで言わなければ」という見栄の心が、大きな負担になるのです。
祝辞を書いていって、それを読み上げるという形で行えば、精神的にかなり楽になります。
「あがってしまって、お祝いの気持ちをうまく伝えられないので、お二人に送る言葉を書いてきました。
これを読むことで私の祝辞といたします」と、最初に率直に言って読み始めればよいでしょう。
わざわざ書く手間をとってくれたということで、あなたの誠意が伝わり、好感を持たれるはずです。
見栄を捨てると、楽になります。
本来の課題に集中する
大勢の前で発表するときなど、本来の課題を忘れて、自分が評価される場面だととらえると、不安が大きくなってしまいます。
たとえば、結婚式でのスピーチで不安になるのは、自分が評価される場だととらえてしまうからです。
そうではなく、「二人の幸せを祈る気持ちを伝えること」が本来の課題なのです。
その本来の課題だけに集中して行動しようとすれば、比較的落ち着いてできます。
上司に不愉快な情報を報告しなければならないという場面なら、現在の進捗状況と問題点を正確に伝え、上司の判断を仰ぎ、指示をもらうことが、報告するということの本来の課題です。
このように本来の課題を確認すれば、上司からの非難や叱責を避けようとするのではなく、積極的に問題点や反省点を報告し、そのことによって上司と責任を分かち合おうという気持ちになります。
役割に徹する
役割としての行動に徹することも、苦手意識を減少させる有効な方法です。
ある学校の教授は100名を超える女子学生を相手に講義することがありますが、ほとんど緊張することはありません。
しかし、一人の若い女性と対面すると、ひどく緊張してしまいます。
授業の場では教師という役割に徹しているからです。
授業内容をできるだけわかりやすく、興味をもたせるように提示すること、この役割行動に徹しようと、注意を集中させているためです。
とりわけ、相手がストレスの対象である場合に、役割行動に徹することが有効です。
たとえば、上司に接するとき過度に緊張してしまったり、上司の言葉にひどく感情を乱されてしまう人は、批判的であった親の影を、無意識のうちに上司に投影していることが多いのです。
このために、上司に対して、親の前に立たされた全面的に無力な子どもとしての役割をとってしまっているのです。
ですから、上司に会うときには、「上司と部下として、仕事のことで対応すればいいのだ」と、自分の役割を確認することです。
本来の役割を確認したら、その役割を何回も何回も思い起こして、頭にしっかりと刻み込んで対応するようにします。
他者から学ぶ
他の人の行動を見ることにより学ぶことを、心理学ではモデリングといいます。
何かを学ぼうという姿勢でその人を見てみると、どのような人からも学ぶべきことが見つかります。
嫌な上司にも学ぶべきことが見つかります。
地味で目立たず、社内の評価も高くないけれども、物事に対する心の持ち方がうまい人がいることもあります。
また、図太いとしか見えなかった人でも、意外に小心な部分があったり、弱気が隠れていることを発見します。
それで、自分と同じであるという安心感をもたらし、いっそう人間味を感じさせられたりします。
これを利用した反面教師としてのモデリングも大いに役立ちます。
たとえば、以下のような人が周りにいないでしょうか。
いつでもマイナス思考をする。
誰にでもいい顔を見せようとする。
人から依頼されるのを自己価値の証明のように感じている。
依頼してもまかせきることができないなど。
こうした自分にも共通する要素を発見することで、自分の修正すべき課題が明確になります。
まさに「人はすべて我が師」であるといえます。
モデリング法は、身近な人と同じようにすればよいのですから、非常にやりやすい方法です。
また、その人で試され済みのことなのですから、確信を持って行うことができます。
素敵な人の行動様式を「自分にはできない」とか「自分には似合わない」などと思わず、「真似してみる」ことをお勧めします。
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思い切ってやってみよう
行動せずに頭だけで考えていると不安がふくらむ
傷つきやすい人は、傷つきそうな場面を回避してしまいます。
このために、傷つくことへの耐性が作られず、ますますいろいろな場面で傷つくのではないかという恐れだけがふくらんでいってしまいます。
ですから、不安や恐怖というストレスは、本人の頭の中だけのことである場合が多いのです。
このために、思い切ってやってみると、意外に吹っ切れることがあります。
たとえ思い切ってやったことが失敗に終わっても、自分で飛び込んでいった結果であると、心理的ダメージは少ないものです。
かつて渋谷駅のハチ公前で蛮声を張り上げている学生服姿の男子集団がいました。
それは、ある大学の応援団の新入部員の訓練の一環でした。
大勢の中で、大勢の人の視線を浴びながら大声を出すという体験をすると、一気に恥ずかしいという気持ちが吹っ切れ、人前で大声を出すことが平気になるのだということでした。
行動しないで頭だけで考えているために、不安が増幅してしまうのです。
結婚式でスピーチするときなども、順番を待っている時が一番緊張します。
実際にしゃべり始めてしまえば、しゃべることに集中して、意外に落ち着いてくるものです。
不安の源が、禁止令である場合があります。
禁止令とは、成長する過程で親により植え付けられた「〇〇してはいけない」という信念です。
たとえば、「自分で決断してはならない」という強固な禁止令が形成されていると、自分で決めたり、一人で行動することに苦手意識を感じてしまいます。
「みんなの仲間入りをしてはならない」という禁止令にとらわれていると、集団にはいっていったり、集団の中にいることが苦痛になります。
禁止令は根拠のない確信なので、思い切ってやってみると、意外に苦手意識が霧散してしまうことがあるのです。
このように、恐れていることを思い切ってやってみることで治療する方法は、エクスポージャー法の中でも、とくにフラッディング法と呼ばれることがあります。
一時感情が洪水のように(フラッドとは洪水のことです)襲うかもしれませんが、その後は平気になるということを目指すものです。