ひきこもりの弟への接し方
「ひきこもり」の弟に姉としてどのようにかかわるか
三十歳の弟がひきこもり、私は結婚して家を離れています。
父が重病で母は介護で手一杯です。
私とはEメールのやりとりはありますが、訪ねていくと顔を合わせようとしません。
私はどのようなスタンスで接していけばいいでしょうか?
原則として、ごきょうだいは「ひきこもり」の対応にあまり関与すべきではないと考えています。
対応の主体はあくまでもご両親です。
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ごきょうだいが対応を一手に引き受けると、ご両親はつい任せきりになってしまって、対応や配慮も不十分になってしまいかねません。
また、ごきょうだいのかかわりは、結婚、就職などによって数年以内に中断してしまう可能性があるでしょう。
しかし、そうした一過性の濃密なかかわりは、中断することで結果的にご本人を傷つけることがあります。
本気でかかわるのなら、少なくとも向こう十年はかかわりつづける覚悟が必要が必要となるでしょう(10年かかる、という意味ではありません)。
しかし、そうなると今度は、弟さんのためにお姉さんの生活設計が犠牲にされることになります。
もちろん「それでもかまわない」とおっしゃる方には、その信念を貫いていただきたいと祈るばかりですが。
弟さんのことはなんとかしたい、でもあまり自分の負担が増えるのは困る。
このあたりが、一般的なごきょうだいの感覚ではないかと思います。
もしそうであれば、くれぐれもお姉さんご自身が弟さんを背負い込んだり、立ち直りのために丸抱えにしたりすることがないように気をつけてください。
もちろん、補助的なかかわりはかまいません。
ひきこもりに関する有益な情報をご両親に伝えたり、弟さんには克服への試み場所や若者のたまり場の情報、あるいはひきこもりの人たちが集うインターネット上の掲示板やホームページなどを教えてあげてもいいでしょう。
しかし、もっとも重要なことは、メールでなら気楽に何でも話せる相手として、ずっとかかわり続けていくことではないでしょうか。
いずれ対面して雑談くらいはつきあえるようになればそうした関係はご本人にとってもかけがえのないものになるでしょう。
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他人が家に来るのを拒む弟
ひきこもって四年になる、二十六歳男子の姉です。
細かいところは両親の努力に任せるようにしていますが、同居の自分が家を出たりすることは弟に刺激を与えてしまうでしょうか。
また、弟は他人が家に入るのをとてもいやがるのですが、私の友達を呼ぶことも我慢すべきでしょうか?
ひきこもりの克服への試みの中心は、あくまでご両親です。
私はごきょうだいには、ご本人がリラックスできる環境作りに協力してほしいとは思っていますが、それはせいぜい雑談につきあうとか、お説教や干渉をしない、という程度の協力です。
その他の場面では、ごきょうだいはご自分の都合や趣味を優先して動くほうがいいでしょう。
ごきょうだいにあまり気を遣われると、ご本人も苦しみます。
お姉さんがどうするのが一番楽で動きやすいか、そのことを基準にして自由に方針を決めていただいていいと思います。
「家を出る」ことが、弟さんに対して気を遣ってのことではなく、あくまでもご自分の気持ちとしてそうすることが望ましいのであれば、特にためらう必要はないと思います。
また、お友達を呼ぶことも特に問題ないとは思いますが、いちおう事前に日時などをご本人に伝えておくこと、お友達とご本人が不用意に顔を合わせることがないよう気をつけること、などといった配慮はあってよいと思います。
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暴力的なひきこもりの兄への接し方
兄が弟に暴力を振るう
十九歳浪人中の長男、ひきこもり六カ月です。
家族は母親の私と十七歳の次男、祖母の四人です。
次男とはよく話をしていて、弟が部屋に食事を運ぶなど、何かと面倒を見ています。
ただ気に入らないといらついて次男をカッターナイフで切りつけたりするので、次男に対する影響が心配です。
私には暴力を振るいません。
また長男が理不尽なことを言うと、いけないと思いつつ私は意見してしまいます。
何を言われても反論しないほうがいいのか悩んでいます。
六カ月というのは、まだ初期段階と考えてもいい状況かもしれません。
もう少し経過を見ないとわからないこともありますが、ご本人の弟さんへの対応はちょっと穏やかではないですね。
今のように弟さんが楯になっているような状態では、いずれ弟さんも巻き込まれてしまう可能性があり、早急にかかわり方を変えたほうがいいように思います。
もちろん怪我をするような暴力があった場合には、家庭内暴力をなくす方法を参考にして毅然として対応していただきたいと思います。
なんとなくそのほうが楽だから、という漠然とした理由で対応を弟さん任せにしてしまうようなことは、これ以上あってはならないと思います。
お母さんが不用意に意見を言うことは、そのうっぷが弟さんに向かったりする可能性を考えると、非常に危険ではないでしょうか。
まずかかわりの主体を、お母さん中心に徐々に変更するべきでしょう。
会話にしてもお母さんができるだけ頻繁に話しかけ、弟さんは徐々にかかわりを減らしていくほうがいいと思います。
食事を運ぶことは、それ自体が本当は好ましくないのですが、いったんはお母さんが引き受けるようにして、それからだんだんと食卓に着くよう誘導していくことが望ましいでしょう。
ともかく、弟さんの負担はできるだけ速やかに除いてあげることが肝心です。
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兄が弟にしつこくまとわりつく
ひきこもりはじめて六年、二十三歳の長男が、次男にまとわりついて兄弟関係が悪化しています。
時には暴力も見られ心配です。
次男に長男のことをどう伝え対応させればいいでしょうか?
ごきょうだいの問題は、一般的な形で答えるのが一番難しいところです。
とりわけ、ひきこもっているご本人が弟さんたちにまとわりついたり、いじめたりするといった事例は対応に困ることが多いように思います。
しかし、どのような場合も「基本」を忘れないでください。
まずご家族全体で、わかりやすい長期目標を共有することです。
親御さんが家族会や治療相談に通いはじめたら、そのことをご家族みんなで理解し、共有する。
このとき弟さんたちには「お兄さんの状態は、精神病ではないけれども、克服への試みや援助を必要とする状態である」ということをしっかりと伝えて、理解を求めてください。
このような全体的な枠組みを作ったうえで、さらにまとわりつきやいじめが問題になるようでしたら、そのつど家族全体で、それについて話し合い、ご本人にはまとわりつきをやめるようにお願いしてみていただきたいと思います。
またこのほかにも、できるだけ頻繁にご家族みんなで外食をしたり、旅行に行ったりすることも有意義です。
はじめから弟さんとの関係を断ち切ったり、隔離したりするのではなく、できるだけ良い関係を持てるように、いろいろ工夫していただきたいと思います。
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ひきこもりのきょうだいの距離のとり方
兄弟がともにひきこもり
ひきこもり五年目になる二十五歳の長男は、二年前からやっと断続的ながら通院できるようになりました。
ちょうどそのころ、次男も受験に失敗してうつ状態になり、兄と同じ先生について克服への試みを受けています。
弟のほうはさきに改善して、大学にも合格し、今は何事もなかったように楽しく過ごしています。
そんな弟を長男は何かと目の敵にして、「自分の悪口ばかりドクターに言っている」とか、「母親は弟にばかり甘い」とか責めるので困っています。
一概にはいえませんが、どちらかといえば、たしかにきょうだいの治療者は別々のほうがいいように思います。
やはり互いに疑心暗鬼になったり、主治医をめぐってライバル意識を持ちやすいということはあるでしょう。
ただ、体質が似ているために同じ薬が効きやすいなど、メリットもないわけではないので、ケースバイケースのところもあります。
ご相談のケースで問題なのは、いまから治療者を替えることが、きわめて困難であろうと思われることです。
もしどうしても替えるとすれば、比較的経過の良い弟さんのほうになるでしょうが、もちろん弟さんの同意も大切です。
担当医に相談してみて替えても問題ないようならご検討ください。
ただ、その前に、お兄さんの意向も確認しておくべきでしょう。
なんの断りもなしに勝手に変更することは、また別の勘ぐりを生んでしまう可能性があります。
きちんと理由を説明して、「弟の担当医を替えようと思うがあなたはどう考えるか」と尋ねておくべきでしょう。
それで納得できるようなら、弟さんと担当医に打診してみる、という順番ですすめるのがよいと思います。
ほかにも、弟さんには事情を言い含めて、お兄さんの前では大学の話や友人関係の話など、劣等感を刺激しそうな話題はできるだけ避けるようにしてもらうほうが無難でしょう。
また外食をする場合なども(そういう機会はできるだけたくさん持ってほしいのですが)、「どうせ行かないだろうから」と決め付けず、必ずお兄さんにも誘いをかけて、断られたらほかのご家族だけで行く、ということを繰り返したほうがいいでしょう。
こういうときのご本人の心境としては、いったん断ってはみたものの、家族が楽しそうに食事をしている様子が目に浮かんで腹が立つ、ということが多いようです。
しかしその怒りは必ずしも無意味なものではありません。
むしろそうした感情の動きが度重なることによって、いずれはご本人も外食に参加される可能性が高まると思います。
いずれにせよ、これに限らず、きょうだい間の不公平感は、後にさまざまなしこりを残しがちです。
とりわけ一方の経過が良好なときは、もう一方は劣等感から調子を崩す傾向が強いように思います。
だからといって、うまくいっているほうのごきょうだいに犠牲を強いたり、分離のために安直に単身生活をさせたりという対応も好ましいとは言えません。
事例ごとに対応のばらつきが大きい問題でもありますから、いくつかの原則を除いては、専門家の判断もふまえて決定していただいたほうがよろしいでしょう。
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姉が妹を分身のように思っている
ひきこもって十年になる二十五歳の長女です。
五歳下の次女を自分の一部と思っているらしく、いないと落ち着かず、いれば何でもやらせ、気に入らないと荒れたり落ち込んだりします。
姉妹を切り離したいのですが、どんな手だけがあるでしょうか。
それほど妹さんのほうに依存するということは、なにかご両親との関係にも問題があるのではないでしょうか。
そうした可能性にも十分配慮しながら、他の項目も参考にして、まずご両親がご本人との良い関係を作り直していただきたいと思います。
しかしいずれにしても、このような支配は、すでに一種の暴力です。
ごきょうだいの支援が難しいのは、容易にこうした上下関係が成立してしまうということも理由のひとつです。
その意味では、ここでも暴力への対応に準じた方針で臨むことをお勧めいたします。
ただ、そのためにはまず、妹さんが今の関係の異常性を十分に自覚し、お姉さんと適切な距離をとる覚悟を決めていただかなければなりません。
さもないと悪しき共依存関係にはまりこんでしまい、「お姉さんが可哀想だから」という理由でいつまでもこうした関係性に甘んじてしまう可能性もあるからです。
今の時点で妹さんに考えていただきたいことは、こうした関係にどれほど耐えてつきあったとしても、自然にそれが終わることはまれで、むしろ時と共に関係がこじれていく可能性が高いということです。
現状のままではまずい、という認識がはっきり生まれたら、まずは妹さんがお姉さんの要求を拒否する権利を、親御さんも協力しつつ確立していく必要があるでしょう。
できるだけ公平かつ公正な関係を目指していただくためにも、お姉さんに言われたことでもいやなこと、無理なことは毅然として断ることです。
あるいは何かをしてあげた場合は何かをしてもらう、というギブ・アンド・テイクの関係でも良いでしょう。
もちろんお姉さんはこうした変化に戸惑い、ときには荒れたりもするでしょうが、これは仕方がないことです。
ここは親御さんが防波堤になって、妹さんを守っていただきたいと思います。
このままの関係がずっと続いていけば、いつ妹さんの我慢が限界に達しないとも限りません。
お姉さんにとってはもっとも残酷な形で、唐突にこの関係が断ち切られる可能性も示しておいたほうがよいでしょう。
そういった冷静な対応では埒があかない場合は、いったん妹さんに家から出てもらうことも検討しておかれたほうがいいと考えます。
膠着した関係をいったん冷却するためにも、物理的に距離をおいて考える時間を持つ意義は大きいでしょう。
そのうえで、互いに冷静になり、依存関係を超えて対等に付き合えるようになれば、再び同居してもやっていけるかもしれません。