ひきこもり青年の心配な行動にどう接すればいいか

ひきこもり青年の強迫症状の対応

洗面やトイレなどの時間が長く困る

洗面所やトイレの使用時間が異常に長く、周りの者が困っています。

「家族もなるべく早く使いたい」と注意すると不機嫌になりますが、どう対応すればいいのでしょうか?

同じことを100回以上聞かれる

確認行為が強く、一度言ったことを100回以上も家族に確認しては返答を強要します。

家族も我慢して答えていますがやりきれなくなります。

「これが最後だからもういっぺんだけ答えてくれ」と求めてくるとき、どう対応したらいいかご教示ください。

いずれのご相談も、おそらくはひきこもり状態に伴いやすい強迫症状からきている可能性が高いと思います。

もしそうであるなら、単なる迷惑行為としてではなく、治療への導入も並行して試みながら、病気の症状として対応を工夫する必要があります。

もちろん困っているというご家族の意向は伝えてもよいでしょう。

しかし強迫症状であれば、注意されたくらいで容易にやめられるものではないので、伝え方にも配慮が必要になると思います。

無理に叱ったり注意したりしてやめさせようとすることは、風邪を引いて咳をしている人に、「うるさいから静かにしてくれ」と言うようなものです。

ひきこもりに伴う強迫症状なら、ひきこもり自体の治療過程の中で変わっていく可能性がありますから、その症状だけに注目するのではなく、ご本人の状況全体を見据えながら、包括的に治療戦略を立てていく必要があると思います。

強迫症状にはある程度枠付けが有効である場合もあります。

もちろん克服への試みと並行して進めることが望ましいのですが、トイレの場合は使用時間の枠組みを設定して、5分ずつ短くするように協力してもらうということも可能かもしれません。

後のご質問の確認強迫についても、基本的な考え方は一緒です。

そのことでご家族が困るということは伝えてもかまいませんが、急にやめることはできません。

克服への試みとセットにして、少しずつ回数を減らしていくように方向づけることがもっとも着実な対応ということになるでしょう。

ただし、あまり程度が激しい場合は、家庭内だけで対応する限界を超えているかもしれません。

この場合は、なんとか克服への試みに結びつけていただくほかはありません。

単に「ひきこもり」だけの事例とは異なり、むしろ強迫症状の苦しさに焦点をあてて、治療を受けるように説得を試みてもかまわないでしょう。

それが「強迫性障害」という病気であり、有効な薬や治療法が存在するということを繰り返し伝えていけば、ご本人も苦しんでいるはずですから、いずれ説得に応ずる可能性は高いと思います。

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二十歳になることに恐れを感じる息子

十九歳の息子です。

二十歳になることをとても恐れていて落ち込んでいます。

二十歳を迎えるにあたって具体的な対応策はあるでしょうか?

ひきこもっているご本人にとっては、誕生日は憂鬱なものです。

20歳、25歳、30歳という節目の誕生日はとりわけきついと言います。

ただ、こうした憂鬱は病的なものではなく、ある意味で健康な反応とも言えます。

無理に気分を持ち上げることはできませんし、その必要もありません。

ご家族は何も気にしていないという態度で、普通に接していただくだけで十分でしょう。

もちろん、苦痛や葛藤を訴えてきたら、丁寧に聞いてあげてください。

また、二十歳の誕生日に限ったことではありませんが、きちんとお祝いはしてあげてください。

ご本人は嫌がるかもしれませんが、そういう節目に配慮していく姿勢は、長期的には大きな意味をもつだろうと思います。

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対人恐怖のひきこもり青年のサポート

傷つきやすい息子をどう支えたらよいか

二十四歳の息子はひきこもって5年になります。

家族以外の人間に対する不信感が強く、しかし誰かと共感を得たいとも望んでいます。

たまにわずかな友人知人、ネットで知り合った人などに会うのですが、些細なことで傷つき、また会うことがなくなってしまいます。

人とうまくつきあうことができ、小さなことで傷つかないようになるために親がしてやれることは何でしょうか?

対人恐怖や人付き合いが怖い人は、ひきこもり状態において最も重要な症状の一つです。

ですから克服への試みのさいにも、ここに焦点をあてて進めることが多いのです。

治療に当たっている場合でも、人付き合いが怖い人は対人関係の中でしか改善できないという原則を常に念頭に置いています。

いい換えるなら、対人恐怖症状を抱えた個人を社会から隔離して克服への試みをすることは不可能であるという考え方です。

これには異論もあることでしょうが、さしあたりそういう考えを基本として克服への試みの計画を立てることが多いのです。

もちろん入院治療のような、保護された環境下で対人スキルを向上させることも不可能ではありません。

ただ残念ながら、そこがまさに保護された環境であるがゆえに、克服への試みの成果は実際の社会でためすまではわかりませんし、また事実、社会参加によって治療の「仕上げ」をせざるをえない場合も数多くあります。

治療行為とは、こうした社会参加をスムーズに促進するための補助手段にすぎないということもできるでしょう。

それでは、そうした克服への試みの中で、ご家族に可能な協力とはなんでしょうか。

ご本人の行動を、望ましい対人関係を求めて外海に出航を繰り返す船にたとえるなら、ご家族は帰るべき港としてかかわることはできると思います。

それは、傷ついて帰ってきたときにご本人を温かく迎え、ご本人の状態を全面的に肯定しつつ受け入れるはたらきを持った港です。

そのような港を背景にすることができれば、ご本人はたとえ傷ついても、傷を癒して再び新たな対人関係へと向かっていく勇気を持つことができるでしょう。

傷つかないことが大切なのではなく、傷ついたとしても、それを癒す場所がしっかり確保されていればいいと思います。

「対人スキル」なるものがもしありうるとすれば、そうした反復の中で獲得されるものが、いちばん信頼できる気がします。

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緊張が強くて昼食を食べられない息子

二十歳の息子は四月より専門学校に行っていますが、学校では緊張が強く弁当もろくに食べられないほどです。

こうした緊張の強い状態にはどう対応したらいいでしょうか?

学校がまた中断してしまう前に対処したいと思います。

対人恐怖は、まず克服への試みの中で、集団への参加と並行して対応を進めるというのが基本方針です。

治療者になじむことは、他人と信頼関係を築く貴重な機会という意味がありますし、カウンセリングによって、困難さがある程度解きほぐされて改善する場合もありえます。

しかしなかには、そうした対応のみではどうしても不十分なケースもあります。

心理的な原因がはっきりしないタイプの緊張には、抗不安薬や抗うつ薬がよく効くことがあります。

予防的対応ということでしたら、ご本人に働きかけて病院を一緒に受診し、不安や緊張をときほぐす薬をまず使用してみることをお勧めします。

もちろん、こうした薬を長期間にわたり持続的に使用する必要は必ずしもありません。

一時的に薬の力を借りて緊張をほぐしながら通学し、慣れてきたら薬の量を徐々に減らしていくことも可能でしょう。

さらに克服への試みが進めば、薬はいざというときのためのお守り代わりとして、ただ持っているだけで十分ということになっていくでしょう。

薬にせよカウンセリングにせよ副作用はありますが、うまく利用すれば非常に有効な補助手段となります。

積極的に活用されることをお勧めします。

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被害念慮のひきこもってしまうケース

娘が「警察に監視されている」と言う

二十二歳の娘、高一から不登校になり、そのままひきこもって現在に至っています。

二年前にアパートの人から怒鳴られた(本人の主張)のが怖かったそうで、今はさらに大掛かりになって警察が監視している、などと言いはじめています。

親としては一生懸命聞いているのですが、娘は「いくら言っても信じてくれない」と毎日訴えます。

どのようにつきあえばいいのでしょうか?

被害念慮もまた、「ひきこもり」における重要な症状の一つですから、克服への試み、もしくは克服への試みへの促しはなさっているものという前提でお答えします。

外との交流を遮断してしまいますと、こういう被害感はどんどん悪化します。

このまま放置すべきではありません。

できるだけ一緒に外出できるよう、頻繁に誘い出してみてください。

電車やバスは難しいかもしれませんが、車なら比較的抵抗なく外出できるでしょう。

ある程度外出が可能になるだけでも、被害的な訴えが改善することはよくみられます。

また、被害的な訴えに対しては、単純な否定ではもちろん通用しません。

かえって思い込みが固定してしまいます。

また、理詰めで説得することもまったく無効です。

ではどうすればいいか。

まず時間をかけて、繰り返し訴えに耳を傾けることです。

そして、親御さんからの「感想」として、「あなたの言うことはわかる気もするけれど、どうもお母さんには、そういうことがあるようには思えないんだけど」といったような、かなりぼかした、曖昧な否定をしてみてください。

もちろん、そんなことで簡単に被害感が消えるわけではないのですが、少なくとも不毛な議論に巻き込まれることは避けられますし、親子間の信頼関係もさほど損なわれずにすむでしょう。

以上の対応と並行して克服への試みがすすめば、被害念慮の改善はそれほど困難ではないと思われます。

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被害念慮などから問題を起こしてしまいそう

息子はひきこもって六年、ことし二十四歳です。

家の前の道路によく駐車している車をみて「あれは自分を監視している」と決め付け、「車を壊しに行く」とか「乗っている奴を殴る」などと物騒なことを口にします。

精神病によるものではない場合の被害念慮に対しては、説得が有効である場合もあります。

被害念慮そのものに対しては前の項目でふれたように「監視などの悪意があって止めているようには思えない」と否定的にふれつつ「もし暴力を振るえば、振るった側の非になるだけで解決にはならない。

そういうことはやめてほしい」と繰り返し伝えていくことです。

もちろんそうすることで考えがすっかり変わるというわけではなく、行動が多少はおさえられるという程度ですが、ともかく担当医と相談しながら、少しずつ説得を試みてください。

実際にはご本人も、心の隅のほうで止めてほしいと願っていることが多いものです。

また、実際になにか問題行動を起こしてしまった場合は、小さいことでもできるだけ警察に介入を依頼してください。

どうしてもことを荒立てずに、内々に済ませたいと願うご家族は多いのですが、それでは問題は解決しません。

あとで先方とこじれないためということもあります。

そのような対応をするということについては、あらかじめご本人にも通告しておいたほうがいいでしょう。

それだけでも、かなり行動の歯止めにはなるでしょう。

警察の介入を頼んだことをあとで本人から恨まれるということは、案外ないものです。

多くの場合、一度通報しただけでかなり長期間、そうした問題を防げるはずですから、ぜひとも試みていただきたいと思います。

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醜形恐怖で美容整形したいひきこもり青年の対処法

娘が醜形恐怖で「整形したい」と言う

二年前からひきこもった二十一歳の娘です。

醜形恐怖があり、現在は精神科に通院しています。

最近アルバイトを始めましたが、「もっとお金を稼げるキャバクラで働きたい、お金は美容整形の代金にしたい」と言います。

またしきりに「自分の顔は醜い、こんな顔に生んだ親が憎い」と言い募ります。

私はキャバクラも整形も反対なのですが、どう説得すればいいでしょうか?

このような場合、およそいかなる「説得」も「議論」も無効です。

精神病の可能性はなさそうなので完全な妄想とは言えませんが、こうした思い込みは反駁で解消するものではありません。

せいぜい「私はどうもそんなことはないような気がする」という程度にとどめておかれたほうがいいでしょう。

「キャバクラ」の件についても、ご心配はよくわかりますが、もしご本人が成人されているのなら、職業選択を強制したり禁止したりすることはそもそも無理があるでしょう。

ただ、この場合はご本人の発言は本心からではなく、自分の葛藤の深さを親に十分に理解してもらいたい、という気持ちがひそんでいるようにも思います。

そうであるなら、親御さんから「そういう仕事は親としてはしてほしくない、そういう方面に行かれるととても悲しい」という感想を繰り返し伝えるほうがいいと思います。

おそらくこれだけでも十分な歯止めになるでしょう。

これは個人的な偏見ですが、ひきこもる傾向を持った人は基本的に水商売関係には向かないと思います。

どうしても適応できずにひどく傷つけられて脱落するか、あるいは無理な適応がたたって他の仕事が選択できなくなる、といったことが起こるように思われてならないからです。

その意味からも、強制はできないにせよ、個人的に反対であるという意見表明ははっきりとされておいたほうがよいと思います。

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美容整形を決断したら行動的になった息子

大学休学中の二十四歳の息子は、容姿のことをひどく気にして美容整形をしたいと言い出しました。

四年間ひきこもって家族以外誰とも会わなかったのに、手術の決心をしてからはインターネットで病院を調べ、メールで質問し、電話をかけたり、カウンセリングを受けたりと行動的になっています。

親としてどう対応すればいいでしょうか?

ご本人の容姿へのこだわりが醜形恐怖的なものであった場合、かりに美容整形を受けたとしても、必ずしも結果が気に入るとは限らず、かえって悩みが強くなってしまうこともおこりがちです。

ただ、せっかくご本人が活動的になっているのに、まったく協力しないのも残念なことのように思います。

とりあえずの提案としては、親御さんが費用面についてある程度協力するかわりに、いくつか条件をつけてみてはいかがでしょうか。

あるケースで、必要な費用の半分をご本人がアルバイトで稼ぐこと、という条件をつけてうまくいったことがあります。

手術は少なくとも数十万円はかかりますから、こうした条件をつけることは、ご本人の社会参加を促すきっかけにもなります。

醜形恐怖は対人恐怖の一つの形ですから、社会参加が進む中でおのずと改善したり、なくなってしまうこともよく見られます。

とりわけひきこもり状態に伴いがちなタイプの醜形恐怖は、そうした傾向が強いと思います。

このケースの場合、アルバイトを続けるうちに症状が改善してしまい、手術の必要がなくなってしまいました。

ただし、症状が消えずに本当に費用の半額を稼ぎ出してしまった場合は仕方ありません、ご本人の希望どおり、手術を認めてあげてください。

こちらの場合でも、社会参加を通じてご本人がなんらかの内面的変化を経験している可能性を期待してよいかと思います。